□ □ □


3.
心臓が止まるかと思った。

何でこう、臨也さんは不意打ちで人に接吻をしてくるんだろう。
しかも今回は、前回のように簡単には離れてくれないようで、私は息が出来ず意識が朦朧としてくる。


「鼻で呼吸して」

「んっ……ふ……?」

「そうそう。あと、ちょっと口開けて」


まるで魔法に掛けられたかのように、促されるまま口を開けると、にゅるりと柔らかいものが口内に入ってきた。

それは、紛れもなく臨也さんの舌で。


「!? ! !?」


彼を押しのけたかったけれど、私の身体は痺れていて言う事を聞いてくれそうになかった。


「ん……」


ちゅっ、ちゅっ、と、ドラマや映画の中でしか聞いた事のない甘いリップ音が間近で聞こえる。
鼻に抜けたような声で吐息を漏らす臨也さんが物凄く色気たっぷりで、私は全身が火照るのを感じた。


臨也さんの舌が名残惜しげに私の唇を舐めたところで、彼は私から離れて行く。
だけど私は動く余裕なんかなくて、その場でぐったりと臨也さんの方に身体を傾けた。

だが、それがいけなかったのだ。


「いっ……!」


気がついた時には臨也さんの舌が私の首筋を這っていて、制止の声を上げようとした瞬間注射針で刺された時よりも何倍も強い痛みが私の身体を襲った。

痛い痛い痛い痛い!
やだ、痛い、怖い助けて!

そう思ったけれど、暴れたり悲鳴を上げたりはしなかった。
暴れたら余計痛くなるだろうという事は解っていたし、悲鳴を上げたところでこの男は吸血をやめてくれないだろうと思ったからだ。

ゴクリゴクリと、私の血を飲み込む音が耳元で聞こえる。
時折漏れる臨也さんの吐息は、さっきのキスの時なんかよりもずっとずっと妖艶で、私は穴があったら入りたい気分になっていた。


「なんだ、結構美味しいじゃん、君の血」


やっと顔を上げた臨也さんは、そう感想を述べてから、もっと早く飲んでおけば良かったなー、と一言付け足す。


「それにしても随分大人しかったねえ。てっきり悲鳴くらいは上げるだろうと思ってたのに」

「……悲鳴を上げたらやめてくれたんですか?」

「まさか。ただ、俺は吸血の際にキャンキャン鳴かれるのが大嫌いなんだ。だからさっきの君の態度は大正解」


臨也さんはそう言って口元の血を拭い、それをペロリと舐めた。
私はそれを直視したくなくて、彼から視線を逸らす。


「さっきの態度が大正解だったなまえちゃんに、特別に御褒美をあげる」


再び臨也さんの方に向き直った時には時既に遅し。

私は、再び噛みつかれていた。

でも、


「ぁ……」


何……コレ?!

血を吸われているのにあまり痛くない。
寧ろ身体中が熱くなってきて、何だかちょっとだけ、気持ち良……

……待って。
今、私何を考えてた?


「ちょっと待っ……!」


何かコレ、変……!
痛いのも嫌だけどこれはこれで嫌だ……!

落ち着きを取り戻したくて慌てて臨也さんに声を掛けるも、当然の事ながら彼は聞く耳なんか持たなくて、ひたすら血を貪り続ける。
このままだと自分の口からも甘い声が出てきてしまいそうな気がして、私は懸命に口を閉ざしていた。


「……今の、どうだった?」


吸い終わった後、態とらしく私にそう尋ねる臨也さんに、一瞬殺意が沸く。


「……痛くは、なかったです」

「へえ。それで?」

「それで、って……それだけです」

「……ふぅーん」


臨也さんは意味ありげな様子でそう答えると、ニヤリと笑って言葉を紡ぐ。


「素直じゃないねえ」


それを聞いて、何故だか私は恥ずかしくなった。



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