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2.
「……お前、何で俺を庇う?」
そして平和島さんは、静かに私にそう尋ねた。
「……だって、平和島さんが、」
あまりにも哀しそうな顔をしてるから。
私がそう告げると、彼は思い切り目を見開いた。
「正直、私は平和島静雄さんの噂を聞いた当初は、貴方に会いたくないなって思ってました。自動販売機とか、標識とか、普通に投げつけられる人がいるなんて、やっぱり怖いなって思ってたんです。
今日、初めて貴方を見た時も、噂通りの化物みたいで、凄く凄く怖かった。実は、今もちょっと怖いです。
でも……そんな顔されたら、怖いものも怖くなくなっちゃうじゃないですか。そんなに哀しそうな顔をしてたら……好きで暴力を奮ってる訳じゃないって、思っちゃうじゃないですか」
「!」
私の言葉を聞いた平和島さんが、凄く動揺したのが目に見えて解った。
「っ、お前ー」
「そこまでだよ、シズちゃん」
何かを言いかけていた平和島さんだったが、今迄黙っていた臨也さんがそれを遮った。
「いつまでも君達の感動ドラマに付き合ってる暇はないんだ。俺とこの子はもう行くとするよ。
……じゃあね、“半純血の化物さん”」
皮肉たっぷりにそう告げた臨也さんは、私の手をギリリと掴んで足早にその場を立ち去る。
掴まれた手首がものすごく痛くて、私は小さな悲鳴を上げた。
なんだろう、怖い。
臨也さん、いつもにも増して怖い。
臨也さんは終始無言でマンションに戻り、ドアを開けて室内に入った途端に私の背中を思い切り突き飛ばした。
私は、倒れそうになった所をなんとか踏みとどまる。
「……何であんな事言ったの?」
そう言って一歩一歩寄ってくる彼を遠ざけようと、私は一歩一歩後ろに後退した。
怖い。怖い。どうしようもなく怖い……!
「ゃ……だっ、来ないで……!」
「質問に答えなよ」
臨也さんは私の腕を自分の方に引き寄せると、鼻と鼻がくっつきそうな位私に顔を近づけた。
「もう1回聞くよ。
何であんな事言ったの?」
「あ、あんな事って……?」
「はあ?惚けるのも大概にしなよ。なまえちゃん、平和島静雄に対して、怖くないとかアイツは暴力嫌いなんじゃないかとかほざいてたでしょ?」
「だって、私の正直な気持ちですから」
「……もしかして君、平和島静雄がマトモな奴だとか思ってるの?」
「少なくとも、臨也さんよりは」
マトモだと思いますけど。
臨也さんは私のその言葉を聞いた途端無表情になった。
やばい、地雷踏んだ……
そう思ったものの、私は自分が悪いとは思っていないので、彼を真正面から睨みつける。
だって、本当に私は悪くないもん。
非があるならば、それは臨也さんの方だ。
性格的には何の問題もない平和島さんの事を、心の底から侮蔑しているのだから。
「……」
臨也さんは暫く目を細めて私の方を見つめていたが、不意に私の首筋を人差し指でなぞった。
思わず鳥肌が立ち、妙な寒気が襲ってくる。
「……君には躾が足りていないみたいだね。
今迄は俺も目を瞑ってきた所があるけど、やっぱり人間って生物は、甘やかせて育てちゃ駄目みたいだ。
だからさ、ちゃんとやろうと思って」
「……?」
「ちゃんと、俺の痛みを、君の身体に刻みつけておかなきゃいけないなって思って」
その言葉を聞いた途端、背筋が凍りついた。
身を捩らせて懸命に逃げようとするも、それは無駄な抵抗に終わる。
「……痛くしないで」
「は?」
「痛くしないで下さい……」
最早抗う事を諦めた私は、小さな声でそう呟いた。
臨也さんは初め呆気にとられたような顔をしていたが、すぐにクスクスと笑い始める。
「あのさ、知ってる?
女の子の『痛くしないで』って言う言葉は、『思う存分痛くして』ってのと同じ意味なんだよ?」
「! ち、違います!そんな訳ありません!」
「まさか君も、普通の女の子達と同じドMだったとはねえ……正直ちょっとガッカリしたよ」
「だから違うって言って……!」
私はその言葉を最後まで言い切る事が出来なかった。
と言うのも、臨也さんによって唇を奪われていたからだ。