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5.
臨也さんは私が大人しくなったのを確かめると、ドンと私を床に向かって突き飛ばす。
「痛っ……!
臨也さん、いい加減に」「黙れよ」
どうやら私に反抗の余地は無いらしい。
やられてばかりなのも癪に障るので睨み付けると、臨也さんはクツクツと楽しそうに笑った。
「……へえ?何処にでもいそうな唯の弱々しい女かと思ってたけど、どうも俺の勘違いだったみたいだね。
良いよ、その強気な態度。嫌いじゃない。だけどー」
しゃがみこんだ彼は、片手で私の首を絞め始めた。
「ぐっ……!」
「結構腹は立っちゃうモンなんだよね、これが」
苦しい……
首がギチギチ言ってる……
「あはは、死の恐怖に歪む君の顔ってたまんないね。つい可愛がってあげたくなっちゃう」
そして、臨也さんは首を傾げ、更に続ける。
「ね、怖い?死ぬのって」
「……」
「怖いよねえ。だって人間は脆いもの。俺みたいなヴァンパイアと比べるとさ」
ドサリと荒々しく首から手が放され、私はまた床に倒れ込む。
「ゲホッ!ゲホッ!ハァッ、ハァッ……」
暫く肩で呼吸を繰り返すと、段々息が落ち着いてきた。
「でも、勘違いしないでね。俺は人間の事は好きだよ。確かに人間は脆くて弱くて救いようのない馬鹿ばかりだけど、時には突拍子もない事を思いつく輩もいるからね」
「そうだな……君は始めは特に魅力を感じなかったけど、そこそこ楽しめそうな人材で安心したよ。
これからたっぷり可愛がってあげるからー覚悟してね、なまえちゃん」
「あ、そうそう。逃げたりなんかしようとしたらーどうなるか解ってるよね?」
次々と囁かれる悪魔の言葉に、私の頭はじわじわと侵食されてゆく。
どうして、こんな事になってしまったの。
お父さん、助けて。
決して声には出せない私の嘆きは、心の中で萎んで消えた。