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4.
その時、突然臨也さんが顔を上げる。
その顔には妖しい笑みが貼り付けられていて、私は思わずゾッとした。
「わ、私……やっぱり帰ります!」
「帰るって?何処へ?」
「も、元の家に……」
「何で?」
「だ、だって……
臨也さん、何か……おかしいですよ……
いきなり雰囲気変わったし……肌、氷みたいに冷たい……
まるで……死んだ人みたい……」
私が言葉を紡いで行く度、彼の表情は益々愉しそうになる。
嘘、待ってよ……
本当に、人間じゃないの?
「流石にそこまで馬鹿じゃないんだ」
耳元で囁かれ思わずビクリと身体が震えた。
何で、どうして。
だってさっきまで、目の前にいたのに。
驚きも束の間、耳にぬるりと変なものが這った。
「へえ……凄く甘い……」
それが臨也さんの舌だと解った途端、全身に鳥肌が立つ。
身を仰(の)け反らせて臨也さんを見ると、異様に鋭い犬歯が目に入った。
いや、犬歯と言うよりは寧ろ……牙?
「きゅう……けつき……?」
茫然と呟く私に、彼は「大せいかーい」と楽しげに答えた。
「や、やだっ!」
怖くなった私は、死に物狂いで玄関に向かう。
必死でドアを押したり引いたりしてみたけれど、それはびくともしなかった。
「何で……!?開いてよ、ねえっ、どうして……!」
「残念だけどその扉、中からは暗証番号を入力しないと開かない仕組みになってるんだ」
音もなく迫って来た臨也さんが更に私の恐怖を煽る。
「やだっ……誰か!誰か助けて!誰かっ……んっ!?」
背後から抱きすくめられ、口を塞がれる。
「ンーッ!ンンンッ!」
「騒いだら殺すよ」
「!」
低いトーンで告げられた言葉は嘘を感じさせない。
非力な私は彼に従う他なかった。