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2.
あの後臨也さんに連れられて、私はとある廃ビルの屋上にやって来た。
途中何度も逃げ出したくなったけれど、この状況では逃げようがないという事を悟ると諦めざるを得なかった。
久しぶりに感じる外の空気は、都会というだけあって妙に生温い。
フェンス越しに街並みを見下ろすと、ネオンがキラキラと星のように瞬き、車が行き交うのがはっきりと見てとれた。
思えば、池袋で夜をこんな風に過ごすのは初めてかもしれない。
今迄は外にすら出して貰えなかったし、臨也さんが怖くて外を眺めている余裕なんて無かったからだ。


「良い眺めだよね、此処」


気が付けば、臨也さんがフェンスに腰掛けて眼下に広がる夜景を見下ろしていた。


「此処に来るとね、俺はまるで自分が神になったかのような気分になるんだ。おかしいだろう?神なんてくだらない人間の妄想の産物だと思ってるヴァンパイアが、そんな気分になるだなんて。
でも此処からこうやって見てるとさ、まるで俺がこの世界を作ったんじゃないかって思いたくなる馬鹿な衝動に駆られるんだ。下にいる人間達は、誰一人として俺が此処でこうやって見てるのを知らない。今この瞬間は、唯一俺だけが、人間達の営みの様子を、奴等が届きもしない場所で観察してる。何とも言えない優越感に浸れるのさ」

「……」


飽きる事なく街を見下しながらそう一人ごちる彼の表情は、慈愛に満ちた優しい顔をしていた。
臨也さんは本当に解らない。
私は決してそんな思いで此処から夜景を見てた訳じゃないのに。
それに、何でそんなにも人間味に溢れた顔をしているの?
私にはそんな顔、見せてくれた事ないのに。


「ねえ、君はどう思う?運び屋。
ー同じ化物として意見を聞かせてよ」


運び屋?
誰の事だろうと思って後ろを振り向くとー
そこにはいつの間にか人が立っていた。

全身真っ黒のライダースーツに、猫耳風のヘルメット。

一見それは普通の人間に見えたけれど、先程の臨也さんの発言から考えるにー


「首無……ライダー……」


私はぼんやりとそう呟いていた。

首無ライダーさんは暫く黙って佇んでいたが、唐突にズンズンと私の方に向かって来る。


『おい臨也、どういうつもりだ。
聞いてないぞ、お前の他にも人が来るだなんて』


その人は、臨也さんに向かってPDAを見せつけた。
恐らく、首から上が無いから喋れないのだろう。


「君に言う必要はないと思ったから言わなかっただけさ」

『だとしても、この子はどう見ても一般人だろう。私やお前のように化物の類でもあるまいし』

「ま、そうなんだけどね。
でもこれからお互い会う機会も増えるだろうし、君に紹介しておきたかったのさ」


臨也さんはそう言うと、フェンスから降りて私達の方に向かって来た。



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