001-005

001 潜水服 (せんすいふく)

自由なんてない。足も手も千切られて、喉も切り取られた。真っ暗。私には心があるのに、それを誰も知らない。いや、知らないふりをしている。目を閉じて、顔を反らして、首を追って、見ないように見ないように。
私も同じ。

結局、結局、足も手も目も喉もあるのに、ずっと、捕らわれたふりをして。見ないように、見ないように。見ない、ように。
私には心があるのに、知らないふりをしている。私もそうしたかった。でも隠せない。目を閉じても見える、耳をふさいでも聞こえる。蓋はできない。
なぜ気付いてしまったんだろう。見ないことは出来たのに、心からは逃げられないのに。
やっぱり私に自由はない。








002 日傘 (ひがさ)

泣いてる。
「泣かないで」と言いたくても喋れない。腫れるから擦っちゃ駄目だ。
ひたすら考えて眠る日々のなか、俺は絶望と同衾して、友達が泣く姿ばかりを見ていた。歩くどころか座れもしない、涙を拭う手も動かせない、友達に励ましの言葉もかけられない、呼吸すらも出来ない。あとはただ緩やかに死へ向かうだけで、回復の見込みはまずないらしい。
俺は人間なんだろうか。もしそれでも俺がまだ人間だというなら、いっそ人間なんて辞めたい。ひどく疲れた。運転手を憎む気にもなれない。考えたくない。もしたった一言喋れたなら、俺は友達を励ませないだろう。もう殺してくれ。どうせ、いつまでも報われないのだから。








003 耐電スーツ (たいでん-)

たとえばどこか遠い星に、とてもとても、ひどく遠い星に、だれか、なにか生命体がいたとして、その生命体も別の星の生命体に思いを馳せていたら、それはなんて素敵なことだろう。
ある日この星を侵略しに来て、この星の代表者と鬼ごっこをしたりするんだろうか。
夢みたい。
でももしも、もしも本当にあるのならば、65億の孤独も少し薄まる気がする。








004 シュノーケル

ぼくはセックスが嫌いだ。でもぼくのたった一人の友達はセックスが大好きで、そこら中の人と寝て、たまに殴られたりしていた。
それを止めることもできず、傷付いているのも分からない。

ある日「抱かせてくれ」と友達が言った。
「ずっと好きだったんだ」と友達は言った。くしゃくしゃに顔を歪めて、泣きそうな顔で。
ぼくは、頷くことも断ることも出来ずに、ぐちゃぐちゃの顔で泣きながら抱かれた。友達はずっと謝っていて、ぼくにはそれすら悲しかった。
ぼくらは、ひどく無様な形をしている。どちらも一方的で、どちらも報われなくて、とても救えない。どんな顔をしていても、いつでも泣き出しそうな形だ。苦しくて咲くことのない、とても、奇妙で無様で可哀想な。

セックスはいつでも痛くて苦しい。いつでも悲しくて苦しい。一人はもっと苦しい。
ぼくはセックスが嫌いだけど、でも、耐えれば、色々な苦しみに耐えればきっと、きっと、ずっと、どんなに無様な形でも友達でいられる。友達でいられるんだ。
どれだけ苦しくても。








005 刺青 (いれずみ/しせい)

俺は、俺しか友達がいない友達を友達だと思ったことがない。いつもセックスをする色々な人も、代わり以外に思ったことがない。さみしがりやの友達が好きだ。一人が怖いくせに、そんな素振りをちらりとも見せない友達が、死ぬほど愛しい。

その友達に「抱かせてくれ」と言ったとき、俺はどんな顔をしていただろう。どんな顔に見えただろう。
「ずっと好きだったんだ」と言ったとき、どんな顔をしていただろう。泣きそうな瞳には、俺しか映っていなかっただろうか。

どんなに優しく抱いても、泣かせるばかりだ。
抱いても抱かなくても苦しいのなら、俺がしたことになんの意味があったんだ?
…たとえ意味がなくても、どんなに無様でも、報われなくても、俺は手放すつもりはないし、きっと友達も俺を手放せないだろう。

背中が滲んでいる。



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