006-010


006 白粉 (おしろい)

髪の毛を切る時、私はいつも、その捨てられる髪の先に想いを馳せることにしている。爪を切る時、私はいつも、その爪弾きにされる爪先に別れを告げることにしている。
口紅を拭う時、マニキュアを消し去る時、コンタクトを捨てる時、マスカラを脱ぎ捨てる時。私はいつも、ゴミ箱に葬られるティッシュに包まれたそれらに、私を見る。
気に入って買った綺麗な洋服を着て、顔を化粧で彩って、髪を崇高に整えて、爪先を鋭く着飾って、そうして私は気高くあれる。そうして私は完成する。
私をしっかり両の脚で立たせてくれた戦闘服たちは、いつも無下に捨てられる。洗濯機に、ティッシュに、ゴミ箱に、死体を投げ入れられる。人差し指と親指とで摘まれて、まるで汚いもののよう。
確かに、死体になった彼ら彼女らはお世辞にも美しいとは言い難い。でもそれらは、脱ぎ去ってなお、私なのだ。散らばる髪の毛も、飛び散る爪の先も、べっとりと赤い口紅も、しみ込むマニキュアも、貼りついたコンタクトも、虫みたいなマスカラも、ぐしゃぐしゃの洋服も、全部全部が私だった。この空っぽの体と、役に立たない頭と、それらすべての集合体が私の完成品。私は人間だからこそ、そのすべてがないと完成し得ない。
どんなにすっぴんが綺麗だって、どんなに頭がよくたって、どんなに美しい肢体だって、どんなに美しい髪だって、どんなに美しい手足だって、完成品でない限り気高くなんかない。すべてを捨て去った私は、洗濯機にティッシュにゴミ箱に葬られる彼ら彼女らと同じく、死体だ。
だから私は家に帰り、口紅を拭って、マニキュアを消し去って、コンタクトを捨てて、マスカラを脱ぎ捨てて、そうして死ぬのだ。死体のまま朝を迎え、綺麗な洋服を着て、顔を化粧で彩って、髪を崇高に整えて、爪先を鋭く着飾って、そうして生き返る。
私という完成品は、いつも、化粧箱と共にある。





以降 漸次追加



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