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ここは、ツイステッドワンダーランド。
魔法を使える人間とそうでない人間が共存する、ねじれ歪んだ不思議な世界――。
「んん……今日ってもしかして……やっぱり、入学式の日……準備をしなくちゃ……」
――の、とある屋敷の一室。
ふわふわとしたたっぷりの黒髪をあちこちに跳ねさせながら大きなあくびをする少女・クレアは、ベッドから下りて最低限必要な物をまとめておいた鞄のそばに辿り着いたはいいものの、そのまま再び眠りに就いた。
「ちょっと、起きて! クレアったら! そのまま入学式へ行くつもり!?」
「んん……」
「ほっとこーぜ、オレももう少し寝る」
「ノアまで……私もう知らないわよ!」
さて。クレアが眠っている隙に、この少女たちをご紹介しよう。
クレアの頭上の空間から顔を出した少女の名はクロエ、その隣で呆れたように覗き込んでいる少年はノア。
2人ともクレアの魔法である。
2人の紹介に必要なクレアの昔話も、せっかくなので話しておこう。
幼い頃から箱入り娘よろしく育てられたクレアはあまり外出もできず、世話係を兼ねた家庭教師がついていたためにエレメンタリースクールなどにもほとんど通っていない。
通えなかった。
生まれつき魔力は強かったが体が追いつかず、魔法を使うと制御しきれずに倒れて寝込む。これを、ある程度コントロールできるまで何度も繰り返した。
そして、屋敷の自室に籠もる日々が続いた幼い彼女が、あるとき自分の魔法で創り出したのが、2人の友人だった。
家庭教師はあまり雑談をしない少々厳しい人であったし、保護者は多忙で毎日は帰ってこられない。会話できる友人がほしい――そう強く思ったとき、ぽふんと音を立てて2人が現れたのだ。
それぞれにクロエ、ノアと名付けたクレアは、何度も2人を出して話しかけた。
最初はクレアの言うことに相槌をうつだけだった2人が、だんだんと言葉を話し、さらには呼ばずとも勝手に現れてクレアに話しかけ、世話まで焼いてくれるようになった。
クレアの成長と共に、2人の容姿や話す内容も成長していき、今やクレアを追い越して姉や兄のようになっている。
――間もなく、黒い馬車が到着する。
クレアはまだ荷物のそばで寝ているが、彼女とその2人の友人の話はここまで。
くうくうと寝息を立てる彼女は、信頼する2人の友人が自分を起こすのを早々に諦めたことも、これから馬車で向かう学園の学園長室でそわそわと歩き回る保護者から酷く心配されていることも――まだ、何も知らない。