戻れない、戻らない

死の運命から逃れられない夢主を救うため周回を繰り返すぺご主人公の話
ぺご主人公は2周目以降
※R真エンドネタバレ少しだけ有り



もうこれで何回目だろう。
彼女を救えなかった事実に絶望し、彼女を救うためやり直しを望んだのは。
全てが終わり地元へ向かう新幹線の中、モルガナに気付かれないよう溜息を吐く。
今回も駄目だった。
彼女を死から救えなかった。
彼女も俺と同様、破滅の運命に囚われた人だった。だが彼女は俺と違い、特別な素養も力も無く抗う術も持たないただの一般人だった。そんな彼女を救いたいが為、俺はこの世界を何度も繰り返している。
だが、これまで彼女を救えた事は、一度も無い。その時によって彼女の死の理由は様々だった。だから繰り返す度、何が駄目だったのか、何故救えなかったのか自省を何度も繰り返した。だが何巡目かわからない今でも彼女を救えない事に焦りが生まれていた。

どうしたら彼女を救える。
どうしたら俺のものになる。

この世界を繰り返していくうちに、自分の精神が少しずつ、だが確実に磨耗していくのがわかる。だが止める気はさらさらない。彼女を死の運命から解き放ち、自分の手中に収めるまでは。

これは最早執着だった。

初めて彼女と出会った時。同じ秀尽学園の生徒である彼女と出会い、彼女と関わっていくうちに段々と惹かれていくのがわかった。彼女はコープ関係ではなかったし、怪盗団のメンバーでもなかった。彼女の隣では怪盗団のリーダーでも何でもなくただの高校生、一人の人間として居る事が出来てとても居心地が良かった。だから俺は、彼女に惹かれたのかもしれない。

彼女がいたから強くなれた。彼女の為に強くなった。
幾度とこのゲームを繰り返した。全てのペルソナを手に入れ、人間性も磨き、着実に力を付け、彼女を救う為に全力を尽くした。
だが全てを終えた今、肝心の君はもういない。
落ち込む俺を同じ怪盗団のメンバーが慰めてくれた。杏や真、双葉、春といった女性陣は泣いていた。彼女達は彼女と仲が良かったから、彼女にもう会えない事、彼女を救えなかった自分に悔しくて泣いているようだった。俺を含めた男性陣も覆らない運命に憤り、悔やみ、悲嘆に暮れた。

初めて彼女と出会った時、初めて彼女と会話した時、怪盗団とバレても態度を変えず受け入れてくれた彼女。思い出せる限りの彼女との思い出を思い出し束の間の幸福に浸る。だがその頃には戻らない、もう戻れない。
新幹線が走り出した。車窓から見える景色がだんだんと速くなっていく。今回も最大限の努力をし、最善の未来を選び取った。だが彼女はこの世の何処にもいない。その事実だけで全てやり遂げたはずなのに胸にぽっかりと穴が空いて苦しくて堪らない。
やはり駄目だ。どんなに良い結末を迎えようと、他が納得しようと彼女が生きてくれなければ何の意味も無い。移り変わる景色を車窓から眺めながらまた”ゲーム”を始める為そっと目を閉じる。

彼女と出会う前からもう一度。全ての始まりであるその時に向かう為に。