とある日の君と僕
「あっづぅい……」
現在夏島も近くなった海域で航海中の一行、ハートの海賊団は当番制の甲板掃除をぶつぶつと文句を言いながらこなしていた。
「昨日はちょうどいい気温だったのによぉ」
「しょうがねーよ、次は夏島なんだから」
「早く海域抜けねぇかな……溶けるっつの」
「まぁ北の海出身じゃなぁ。ま、掃除が終わったらコックに頼んで冷たい飲み物でも貰おうぜ」
そんな会話をしているクルー達。ここで酒を飲もうと言い出さないのはひとえに医者である船長やペンギンが口をすっぱくして教育した賜物だろう。
昔、ローが出した「過度なアルコール摂取厳禁」を破ったクルーがいたそうだが、ローの研究室からクルーのうめき声が三日三晩途絶えず、ようやく出て来たと思ったら人が変わったようにアルコールを避ける様になったとかならないとか。
そんな噂を聞いたクルー達はそれ以来過度にアルコール摂取はしないように気をつけているし、新入りが入った際もその話を誰からともなくして伝えられ、他の海賊団ではよく見るアルコール中毒になるクルーはハートにはいなくなったという。
実際はローとペンギンの策略であるのだがそれを知る者はいないので、これからもクルー達が気をつけている限りはその話が現実に起こることは無いだろう。
「ほらっ、口より手を動かさないといつまでも終わらないよ?」
「って言ってもなぁ。暑いもんは暑いし」
「そうそう!船長の部屋が羨ましいぜ……」
ローの部屋は冷暖房完備…というか一番過ごしやすい気温で保たれている。
クルーの部屋もそれなりの設備にはなっているが、大部屋でそれなりの人数がいる為どうあっても暑かったりするのだ。
「リリアの部屋は?温度調節出来てんのか?」
「私のところは、まぁ。ほら……兄さんがアレだから」
「あぁ……ペンギンか。あれも大概過保護だよなぁ」
「まぁそれで助かってる部分があるから何も言えないんだけどね。アハハ……」
リリアの兄はペンギンだ。
深く被った防寒帽子の下に隠された顔はリリアとそっくりで、でも精悍さが残る顔をしている。
苦笑混じりに言ったリリアに訳知り顔で頷き返すクルー。
二人はわりと最近に入団をした新入りの部類に入るのだが、その二人ですら同情気味になるほどの過保護ぷりなのだ。
見知らぬ男が近付けば、半殺し。
たまにクルーと仲良さげに話をしていると睨まれることも多々ある。
老若男女問わず警戒心バリバリのペンギンにはリリアも、困ってはいるのだがそれで救われているから何も言えずにいた。
「話をするのは良いが口だけでなく手も動かせ」
「「げっ」」
「兄さん!」
「リリア、ご苦労さん。コックに冷たい飲み物用意してもらってるから休憩してこい」
「え、でも掃除がまだ……」
チラリと一緒に掃除をしていたクルーを見遣ると、二人とも慌てて首を振る。
「お、俺らは大丈夫だから行ってこい!」
「あとはやっとくし!なっ?!」
「だそうだ。後から俺も行くから先に食堂に行ってろ」
「?うん、分かった。じゃあ、掃除お願いします」
「リリア、さっきローが探していた。飲み物貰ったらローの分も用意させてるから航海室に顔を出してやってくれ」
「はーい!」
リリアは様子の変わった二人に首をかしげながらペンギンに背中を押されて船内へと足を進める。
後ろから響いた二人のクルーの叫び声にまた首をかしげながら。
とある日の君と僕
prev /
next