花が枯れるように朽ちるように


目の前が段々と暗くなっていく。

重力に逆らわずに崩れ落ちる自分の体はもう言うことを聞かなくて、それでも無理に力を入れようとすれば酷く体中が痛んだ。


「ジオンッ!!」


あぁ、私を呼ぶ彼の声が聞こえる。

とても焦っているような、驚きと焦燥の混じった声色で私を呼んでいる。
熱いし寒いし痛いし苦しい。

床に広がる赤い色がまるで私の命の残量を告げているようで。
嫌だ、まだ死にたくない死にたくないよまだ彼の隣にいたいの。だって約束したもの。彼より長生きするって彼より先に死なないって指切りしたのに。

視界が霞む。頑張って目を開こうとしてるのに何でか靄が広がっていく。
嫌だよ、ねぇ、最後に見るのが彼のあんな表情だなんて、最後に聞くのが彼のあんな声だなんて、最後に感じるのが彼の腕のぬくもりじゃないなんて、嫌なのよ。


「ジオン……頼むから置いて逝かないでくれ……!」


彼らしくもない言葉を聞くなんて思ってもなかった。彼の声がみっともないほど震えてた。
ねぇ、ねぇ。隊長なのに何やってるの、ダメじゃない。一隊員の私なんかに構ってたら他のクルーが危険な目に遭ってしまうのに。

思ってることは沢山あるの。なのに言葉に、声にして発せられないなんて。彼の顔が見えない。
私の手を握る彼の力は強いのか弱いのかもうわからない。


「お前がいなきゃ、俺は……!」


死、にたくない。彼を置いて逝くなんて、そんなの嫌だ。
だって、まだ何もしてあげられてない。一緒に手を繋いで島を散策する約束も彼の作ったデザートと私が淹れた紅茶でおやつしようって約束も彼の誕生日も何も、朝は一番におはようを言って彼の作ったご飯を食べて夜は最後におやすみって、瞼の上におやすみのキスもこれからあるはずだった毎日を彼と過ごそうって、そばにいるって約束したのに。果たせない。嫌だ、嫌だよ。


「……ジオン……、お前がいないなんて、考え、られね、んだよ……ッ!」


嗚呼、なんて哀しい別離。最期だけれど。でも最後じゃない。
泣かないでほしい、悲しまないでほしい、苦しまないでほしい私も頑張るから。
彼のそばにいられるように、彼に気付いてもらえるように。
そばにいるって約束を果たす為に私は何だってやって見せるから、何にだってなって見せるから。

だから、だからね。
また逢える日までさようなら。


「(こんな呆気ない終わりだなんて、)」


花が枯れるように朽ちるように

(私を忘れてくれ、なんて)
(そんなこと言えないくらい)
(貴方を愛しているのに)


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