永遠の箱庭


雪解け心と


 なんだか騒がしい。
 ネメシアは珍しく太陽を目にした。それもそのはず、典型的な夜型のため、朝に起きてる時は、ディルックがワイナリーに来ている時ぐらいで、他は大抵夕日が沈むぐらいに目を覚ます。
 そんなネメシアが目を覚ました原因は外から聞こえる騒がしい声、普通の人間になら聞こえないか、気にならないそれは、ネメシアには聴こえていた。
「…外で何か起こってるの?」
 眠い目を擦ったネメシアは、寝巻きを取り払い、いつもの服に着替えれば、窓を開ける。アカツキワイナリーは、ドラゴンスパインからそう遠くはないため、冷たい風が、首をかすめてネメシアはファーに首をすくめ、ひょっこりと耳が飛び出てしまう。あまりの寒さに「ぎゅー」と唸った後、行儀悪くネメシアは窓に足をかけて屋根に登る。こんな姿をアデリンや他のメイドに見られたら怒られるだろうが、そんなことも気にもせず、ネメシアは騒がしい雪山──ドラゴンスパインを目を凝らした。
「あれって…」
 ネメシアの目線の先には、人影があった、一体誰だろうと思ってガーターポーチから双眼鏡を取り出せば、すぐに除いてその主を見つけた。正体は旅人、そして西風騎士団、冒険者協会。なんだ。肩を下ろして双眼鏡を目から離そうとした時、目に飛び込んできた雪だるまに、ネメシアの口から白い息が出た。
 ネメシアは雪だるまを作ったことも、雪遊びをしたこともない。ネメシアは四年前にあそこにいたが、その時は自分の身を守ることで精一杯でそれどころではなかった。それに、友達と呼べる人もいない。今ドラゴンスパインに行けば、見知った顔は数人はいる。もしかしたら雪だるまを作ることも、雪遊びをすることもできるかもしれない。旅人がいるなら、きっとどうにかなるはず…行こう。
 ネメシアは勇気を振り絞って、屋根から飛んで行こうとした、がそれは叶わずその場に逆に縮こまってしまう。自分でも訳もわからず、普通に屋根から降りようとしても、体が動かない。これでは生きるガーゴイルだ。
「どうしてよ!?旅人に探し物を頼んだ時は!行けたじゃん!!…動いて、動いてよぉ!!」
 どう頑張ってもネメシアの身体は動くことは無かった。屋根にぺたんと力なく座り込んで、ネメシアは声を上げて泣いた。
 
せっかく雪で遊べると思ったのに!
 お友達ができると思ったのに!!
 旅人とお話したかったのに!!!
 
 色々な感情が頭の中で溢れて、その分涙がいっぱい流れた。きゅい、きゅいっと苦しげに喉を鳴らして、口の中を海の様にしょっぱくした。

「いいな。いいな…あたしもいつか、みんなと一緒に…」
 泣き疲れ、いつもより早く目を覚ましたネメシアは、その場で眠りについてしまった。ネメシアが次に目を覚ましたのは夕日に変わる頃で、ディルックの膝の上だった。
 その数日後、ディルックから事情を知った旅人は、ネメシアのために、雪兎を作ってワイナリーへ持って行った。
 

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