乙女は鍵を握らない

「コールはなんで戦わないんだ?」
 久しぶりにホロウバスティオン…レイディアントガーデンを訪れたキーブレードの勇者にそう問われて私は目を丸くする。だって彼の隣にいる王の従者は王から教えて貰って理由をなんとなく知っているだろうから、申し訳なさそうな顔をして目を伏せてる。私は気にしないという意味を込めて微笑んでティーカップをテーブルに静かに置く。
 私が戦えないのは事実。昔から魔法はそれなりに得意だったけど、かつて私は確かにキーブレードを手にしていた。"いつから""どう"そのキーブレードを手にしていたのかは覚えていないけど私は確かにイェン・シッドの弟子で、ミッキーの姉弟子である。だが私は突如としてキーブレードが握れなくなった。身体が受け付けなくなった。私は「キーブレードマスターに相応しくない」と「時間切れだ」と誰かに言われた気がした。だから私はキーブレードをにぎることすらやめた。────さて、これをどうやってソラくんに伝えようか?
「ソラくん。ある魔法使いの話をしてあげる」
 飲みかけの紅茶に、角砂糖を一つ追加してティースプーンで音を立てずに掻き回す。紅茶に映る"私"はどこか哀しそう。
「ある魔法使いは"全て知って"いた。だからこそ、鍵を手にした…でもそれは期限付き。彼女には"使命"があったし、全てを知る彼女が鍵をもつには荷が重い。だから彼女は戦わず、全てを見届けている…」
「それって寂しくないのか?」
 寂しくないと言えば、嘘になる。全て見届けた結果、私は愛しい人すらも亡くした。でもそれは初めから"決まっていた"こと。私には何もできなし、今更キーブレードを握っても私が取り戻せるものはない。
「寂しいね、とても。でも、心は繋がっているから…。戦いたくないわけじゃない。戦えないわなけでもない。私はキミが思ってるより、ただ、残酷なひとなんだよ」
 ティーカップを持って、最後の一口を飲み干す。先ほど入れた角砂糖がうまく混ざっておらず、口には紅茶の味よりも砂糖の味が多く残って気持ちが悪い。
 結局私は嘘はつけない。それは私が予知書の乙女であり、優しいひとでもないから。ソラくんも私と同じ、嘘がつけない残酷なひと、それなら彼が特異点としてどう進むのか見届けるしかできない。


『耐えて、耐えて、耐えて。"私"がまだ戦う時ではないから』


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