貴方と永遠に
ケルベロスを倒したはずなのに、バルドルとブラギ、カルの間には不穏の空気が立ち込める。
カルはそんな空気が気になってバルドルとブラギを交互に見るが、隣にいるブラギがカルの手を強く握り、落ち着くように諭すと顔を赤くして俯く。
「…お前だったんだな」
静寂を止めたのはブラギだった。
カルはなんのことがわからず「え…」と息を呑んで彼を見る。ブラギの視線はバルドルしか捉えておらず、カルは余計何のことか分からずにいた。
「残念だよ…まさかケルベロスとの戦いで友を失うとは」
「ちょ、ちょっと!二人とも落ち着いてよ。どういうことなのか説明してよ!」
バルドルはキーブレードをブラギとカルに向け、明らかに敵対する意志を見せる。カルの言葉を二人は返すことはなく、お互いに睨み合い、バルドルは顔を歪めて鼻で笑う。
「仲間たちに言い残すことは…?」
「何も…」
「な、なんで私たちにキーブレードを向けるの、バルドル!…どうして…」
カルは状況が未だ理解ができず、瞳には涙が溢れそうであるが、その状況でも彼女の声に耳を傾ける者はいない。
ブラギは隣にいるそんなカルの様子を横目で見ると一つ、ブラギは溜息をつく。
「俺たち三人はここで命を落とす。」
「「はぁ?!」」
思わずカルとバルドルの声は重なる。二人とも目を見開いて二度、瞬きをするとブラギの方を見据える。
「ゼアノートはお前を疑い始めてる…これでお前一人だけ戻ってみろ、ゼアノートの疑いは確信へと変わる」
その言葉に、バルドルは歯を食いしばり顔を歪めてブラギの喉元にキーブレードを突きつける。当のブラギはまだ余裕そうな表情でバルドルの様子を伺っている。
この中で、カルだけが焦っていた。なぜ、ブラギはバルドルのみならず、ブラギ自身と自分も"命を落とす"と言ったのかが、どうにも引っかかって、うまく呼吸ができない。苦しい。と言いたげにカルの視点は定まらない。
「鈍臭いその女はともかく、お前にいられるのは厄介だ」
バルドルはカルとブラギに向けていたキーブレードをブラギの喉元に突きつける。
どうやらバルドルは"ブラギ"がいると厄介らしい。そのことを今理解したカルが今さら手出しができるわけなく、一歩、逃げるように後ろに下がる。
「ん〜、……それは困るんだよなぁ……」
ブラギは向けられたキーブレードの先を掴むと困ったようにため息をつく。いつも通りのその仕草だが、明らかに空気が変わったことを感じたカルはその場から逃げ出そうとする。しかし、それを見透かしたブラギがなにか魔法を放ち、カルの足元を狙ったために彼女はその場に転び、蹲る。急なことに受け身が取れておらず、最悪足が折れてるだろうがそんなことは今のブラギには関係なかった。
「散々やらかしてるお前を器にしたら俺が目立ち過ぎる。できればまだこの姿でいたい。…この女は予知書の乙女の器に相応しい、だから今ここで手を出されちゃ困る」
「どういうことだ?」
バルドルは首元に向けていたキーブレードを構え、戦闘体制に入ると、一瞬にしてブラギがそのキーブレードを弾いた。弾かれたキーブレードは地面にうずくまるカルの目の前に刺さり、カルは「ひっ」と恐怖の声を出してさらに小さく蹲る。
「俺はお前らガキと違ってかな〜り強い。でも俺はお前の邪魔をしたくないし戦いたくない。だから、このままおまえらの前から退場してやる。俺たちのことは、忘れてくれってハナシ」
そう言ってバルドルに背を向けるブラギはカルの元まで行くと、蹲る彼女を見下ろす。 カルは足の怪我のせいでこれ以上逃げることができず、その場で小さく震えて、じっとブラギの目を見つめる。
「あなた、誰…?ブラギくんなの…?」
あぁ、可笑しい。というように、ブラギはケラケラと笑う。その姿はまるで悪魔のように見えた。
ブラギは震えるカルを運ぶために足に負担がかからないように姫抱きをして、持ち上げる。
──後ろから来る憤怒影には見知らぬふりをして。
カルはここで意識を失い。二度とその意識が表に出てくることがなかった。
「これでお前は予知書の乙女と一体になり、"永遠"となる」
『あなたを信じていた。愛していたのに。悲しい。苦しい。』
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