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 入学式が終わった後、ペスリはメフィストに“言われた通り”体育倉庫前に来ていた。これから奥村燐と共に祓魔塾に案内すると、彼から言われて来たはいいが、その場にはまだ彼はともかく燐の姿も見えなかった。
 正直にいうとペスリが祓魔塾に通う意味はない。すでにメフィスト伝えに2年前に階級こそ低いが祓魔師免許を手騎士と騎士二つとも入手している。それなのに祓魔塾に通う理由は彼からサタンの落胤である奥村燐の監視をし、“全てを見届けるため”でもある。そのためにペスリは特に習うこともなく祓魔塾に嫌でも行かなくてはならない。

「お!お前…しし、しし…?」
「神々𢌞、ペスリ」
「そうだ、ペスリ!お前がなんでここに…お前もあの白ピエロに呼ばれたのか?」
 
 やっと待ち合わせ場所に来た燐から出た言葉にペスリは一瞬唇を噛み、眉間に皺がよる。それに気づいた燐はたじろぐが、すぐに彼女が無表情に戻ると、ほっと胸を撫で下ろした。
 リムジンにいた時はペスリの無表情が人形のようで不気味な女だと思っていたが、意外にそうではないんだと、どこか燐は安心した。

「来たよ」
「は?」

 風が吹きペスリと燐の頬を撫で、桜吹雪が舞うとペスリは何者かに後ろから抱き寄せられるような浮遊感と、嗅ぎ慣れたお菓子のような甘い香りが鼻をかすめて再び顔を歪める。

「お待たせいたしました」
「…」
 
 ペスリはメフィストに後ろから抱き上げられ、されるがまま顔を歪めただけでリムジンの時とは違って大人しくしている。
 燐は内心「こいつらやけに距離近くねぇか?」「俺の前でいちゃつくなよ」と思いながらも二人の関係を自ら聞き出そうとしなかった。それよりも先に、メフィストがなぜ自分を呼び出したのか、知ることが先だと感じてのことだ。

「…祓魔師にはどうやってなるんだよ」
「やる気が満々なのは結構ですが、何事も段取りを踏まねば…貴方にはとりあえず塾に通って頂きます」
「塾?!」
 
 何も知らない燐に、説明しようと、メフィストはペスリを抱いたまま彼の元に飛び降り、今までされるがまま口をつぐんでいたペスリが口を開く。

「祓魔師の塾のことよ」
「そこでまずは祓魔訓練生として悪魔祓いを学んでいただく」

 祓魔師免許をすでに持つペスリは通ったこそないが、祓魔塾の存在は知っていた。ペスリは生まれも育ちも少々普通の人間と違い“特殊”だ。祓魔の勉強は前聖騎士の藤本士郎やメフィストに直接教わっていたため、祓魔塾に通う必要性がなかったのだ。どちらかといえばその異質さは燐に似ている。それはメフィストしか知らないことであり、誰も彼女のことを知るものはいない。

「ペスリは貴方と“似た”境遇にあります。ですが基本的に貴方がサタンの落胤であることは秘密です」
「…」
「尻尾はうまく隠せているようですが、耳や歯や尻尾は誤魔化せても炎は洒落にならない。自生してください」

 自身と似た境遇にあると知った燐はチラリと黙ってしまったペスリの方をみやると、彼女はじっと燐のことを見つめていて、気まずくなった燐は目線をメフィストに戻す。
 確かにペスリは初めて会った時からどうも人間味のないところが見られる。

「努力するよ」
「…結構です。…しかしね、やや心配なので今回は私も見学させて頂きますね…」
 
 メフィストはペスリを地に降ろすと、彼女と燐の間に入る。

「1.2.3♪」

 メフィストが呪文を唱えると燐とペスリの目の前で煙に包まれると元の影と形を無くしており、愛らしいヨークシャテリアに似た犬の姿となっている。どこか、ペスリのスクールバックに大量についているキーホルダーのキャラクターに見えなくもない。
 ペスリは慣れた動作で犬の姿のメフィストを抱き上げる。先ほどとは逆の立場にペスリはどこか嬉しそうにする。

「では参りましょう⭐︎」
「え、祓魔師とかって変身とかできんのか?!」
「できません。私は特別です」

 ペスリはメフィストを抱く手を片手に変えると、片方の手でブレザーのポケットを探り、燐に渡すはずの鍵を探す。

「そうだ、塾の鍵を差し上げましょう」

 振り向いて、ペスリは鍵を燐に渡す。
 メフィストから無限の鍵を貰っているのでペスリには必要のないものである。

 燐はメフィストに言われるがまま、そのまま真下にある体育倉庫の扉に鍵を入れて扉を開くとそこはもう祓魔塾で、体育倉庫とは思えない造形をしていた。
 一年生の教室は一一〇六号教室だからと、ペスリとメフィストが燐の前で先導する。
 ペスリはその足取りは迷いがなく、どんどんと進み、一一〇六号室の目の前でピタリと止まる。

「ここだよ」
「なんだかドキドキしてきた」

 ペスリが扉を開くとギィと軋む音が聞こえて、廊下とは違い教室の中は埃っぽく外装が剥がれ、窓も割れてるところもある。魍魎がふよついているのをペスリは目で追いながら中に入る。教室の人数が気になったのか、後ろで燐が数を数えているが、そんなことを気にせず堂々と教室に入れば、真ん中の一番前の右手側に座ると、燐はその隣に座る。ペスリはメフィストを机の上に降ろすと燐のサポートに回るため、彼女の前から去る。 

「はーい静かに」
「おお、先生がいらしたようだ」

 ペスリは塾生たちが誰だ誰だと廊下側を見るのに対し、退屈な授業が始まるんだと頬杖をついて待つ。

「席についてください。授業を始めます」

 講師として現れたのは先ほどリムジンで会った。片割れである、奥村雪男。彼は最年少で祓魔免許を取ったとされる祓魔師だ。実のところ、最年少で免許を取ったのはペスリも同じだが、雪男にはその記憶は残っていないだろう。
 一番この事に驚いたのは彼の兄であり片割れの奥村燐だ。実際噴き出して、寝そうだったにもかかわらず一気に目を覚まして思わず
逆に弟であり、壇上に立つ奥村雪男は燐のことを無視するように淡々と自己紹介を始め、燐は思わず席から立ち上がり声を荒げ今にも掴み掛かりそうだ。ペスリはそれさえも見てみぬをふりをして。「長くなりそう」と小さく呟いて机に突っ伏す。それを横目で見たメフィストは「やれやれ」と燐の膝の上で目を細める。
 今日の授業は『魔性の儀式』。ペスリや燐には必要のないものだ。

(このまま寝てしまおう。だって私には関係ないんだから)

 争う音が、ペスリの子守唄となって眠気を誘う。炎と銃弾が時折彼女の頭を掠めるが、周りには何も障壁はないはずなのに、それが当たることは不思議とないため、奥村兄弟がゴブリンと戦っていても起きることはなく。メフィストもそれを知ってなお、起こそうとはしない。

(深く、深く、堕ちて、落ちて。半身同士が争っだその先に、貴方たちは何を見るんだろう)





 ペスリが目を覚ましたのは、奥村兄弟の喧嘩(?)兼ゴブリン退治が終わり、そのまた授業後、メフィストがメフィスト邸へと連れ帰った後だった。


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