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 修道院を去るリムジンの中で動かぬ人形にようにじっと座る少女を見て、燐は居心地の悪さにそわそわと浮き足立つ。双子の弟である雪男は少女に目もくれず車内に入ってから本を読んでるし、燐は無言の車内で苦虫を潰したような顔をする。
 そんな燐に目もくれず、少女はただそこに座ってるだけで、何もすることはない。

「おや、奥村くんは彼女のことが気になるんですか?」
「は??んなことねぇよ!!」
「それはそれで安心しました⭐︎ 彼女の名前は神々廻ペスリ。君たちと同じ正十字学園の一年生になります」

 少女、神々𢌞ペスリは彼女の隣に座るメフィストによって軽く紹介されたが、それでも特に表情が変わることもなく、されるがままにメフィストに頭を引き寄せられる。その姿はまさに人形であり、自らの意志がない抜け殻のようにも見える。そんなペスリに燐は一瞬ゾッとしたが。それはすぐに撤回された。

「やめて」

 今まで喋らなかったペスリが、口を開き、透き通ったきれいな声を出したかと思うとメフィストを離れろと言わんばかりに手に力をこめて引き寄せられた頭を離そうと必死にしている。これには雪男も本から顔をあげ、目を見開いて「理事長さん?!」と驚いている。燐は訳もわからずに口をぱくぱくさせるだけで、何もできない。そんな二人の状況に目もくれずペスリは表情を変えぬままメフィストから離れようと必死だ。

「安心してください。これもペスリの愛情表現♡なので」
「うるさい。黙って」

 釣れないですねぇ、とメフィストは笑ってペスリから手を離す。当の本人はため息をついて窓の外に目を向ける。外は晴天。墓に行った日とは真逆の天気が眩しいほど輝いて見えて目を細める。
 進む車内はどんどんと正十字学園に近づいていく。メフィストによる歓迎の言葉をペスリは右から左に流して窓から目を離す。
 近づけば近づくほど、ペスリは早く帰りたいという気持ちが態度に出て足癖悪く、足を揺らしてメフィストの足元を蹴り始める。だがすぐにメフィストが小さく「やめなさい」と嗜められてピタリと足を揺らすのを止めて、不機嫌そうに鼻を鳴らす。
 
 正十字学園前に止まるリムジンから降りたペスリは、奥村兄弟を横目にして、まだ拗ねているのか、メフィストのことを見て見ぬふりをして入学式の会場である講堂に向かおうとする。

「ペスリさん?」
「…先に行く」
「え…?」

 雪男がスタスタと歩いていく姿に不思議に思って声をかけるが、振り返ることなくスタスタとその背は見えなくなって行く。
 その時には燐が制服に着替えており、車から降りた時に既にその場にいないペスリに気付きあたりを見回すが、影さえも見つからず、困った顔をした雪男が口を開く。

「ペスリさんは先に行っちゃった…。僕たちも早く行こう」
「お、おう」



 リムジンの窓から遠くなって行く奥村兄弟をを見るメフィストは一人、不敵に笑う。

「まったく持って人間らしく、愛らしいな、我が婚約者は…。束の間の学園生活を楽しむといい」


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