私の夢

1.
「あの、ヒーローの説明会場ってここ、ですか?」
 あなたと出会ったのは必然。そして運命。多分決まってたことなんだと思う。

 春。暖かい日差し、眠くなる空気に包まれて、ふわふわとしていて心地のいい季節。私は双子の兄と共にラ・クロワ学苑に入学した。
 親がいなく、施設で育った私たちだがどうして毎日車で送り迎えされてそうな人達の通う新設校に通う事になったのか、それはまぁ、色々あった。
 ────────────────

「楓、進路どうするの?推薦、来てたんでしょ?」
「あー.......おばさんたちに迷惑かけるのも嫌だし、就職でもいいかなって.......。」
「だめ。おばさんたち、好きなことしていいって言ってた。」
 夕食で使った食器を洗いながらそんな会話をする。いや、違う正確にはお兄ちゃんが洗って私がお皿を拭いている。夕食に食べたスパゲティはなかなか落ちにくいからと、綺麗好きの兄に代わって貰った。
 私は高校の進路について悩んでいた、出来れば私たちを引き取ってくれたおばさんたちに迷惑は掛けたくないし、なんだか悪い気がした。でも、正直お兄ちゃんと一緒に高校に通いたい。それが私の本音だ。それでもおばさんたちに迷惑を掛けたくないという考えが頭の中でぐるぐるして離れてくれない。結果、私はお皿と布巾を持ったまま固まる。「手が止まってる」と、お兄ちゃんが横目で言ってくれなかったらきっと止まったままだった。
「でも、ラ・クロワに推薦で入れれば入学金は免除だよ。.......優秀なら授業料もって.......。」
「お兄ちゃん、私の成績、お兄ちゃんとどっこいどっこいだよ?」
「そう?楓はすごく真面目だから。」
「そんなことないよ。ただちゃんと宿題とか早く終わらせたいから.......それだけだよ。」
 確かに、お兄ちゃんとは成績はどんぐりの背比べ状態だが、私は提出物に間に合う.......もとい 早く終わらせたいからなのだが。それに比べてお兄ちゃんは宿題は貯めるわ、分からないわ、出さないわの三コンボ。そう思うと私の方が真面目といえば渋々うなずける。
「お兄ちゃんはどこにするか決めた?」
「.......楓、その事なんだけど。良かったら、一緒にラ・クロワに行かない?」
 あまりの唐突さに目を丸くする。驚いた。まさかお兄ちゃんがそんなこと言うとは思わなかったから。あぁ、でもひとつだけ、お兄ちゃんがラ・クロワを選ぶ理由がある。「.......ミュータント化手術」と小さく呟けば、ふと、お兄ちゃんの水色の瞳と目が合う。私と鏡みたいにお揃いの瞳は酷く澄んだ色をしてる。
「知ってたんだ。」
「伊達に女性で珍しく血性値高くて推薦来てるだけじゃないってこと。」
 「まぁ、私がヒーローになんて慣れないよ、はは。」と笑えば自然とお兄ちゃんはどこか悲しげに微笑む。
 私は血性がある。女性で血性があるのは珍しくもないが、私は女性にしては高いらしく。女性のヒーローは体力問題があるがそこは努力あるのみ、色々と研究のためにも是非我が校にとラ・クロワ学苑からも推薦が来ていた。まぁ、そう言えば聞こえはいいけど、「実験体にならないか?」と言われているものだと思う。
 私とお兄ちゃんがラ・クロワに入学したとして、ヒーローになれたとすれば、私とお兄ちゃんで双子ヒーローが爆誕することになる。お兄ちゃんの隣に立つ変身ポーズを決めた.......私?一度考えて見るとなかなか頭から離れない。頭を降っては否定するけどなかなか離れず顔が熱い。「熱?」と聞かれたけど、違う違うとさらに首を横に振る。
 でも、私とお兄ちゃんがヒーロー。なれるかは置いといて、それはそれで悪い気はしない。
「もう少し、考える。」
 お皿を拭き終わり、布巾をもとの位置に戻しては、ため息を着く。
 ラ・クロワに入って私なんかがお兄ちゃんと一緒に果たしてヒーローになれるのか、いや、それよりも勉強についていけるのかがやっぱり不安だ。勉強についていけなくなるのは嫌だから、推薦を受けるなら一般の参考書ぐらいは見ておこう.......と、思うだけでため息が出てくる。
「俺、楓とヒーローできたら、嬉しい。」
「私もだよ。」
 二人ともお皿を洗い終わり、拭き終わり、リビングの机に向き合って座って談笑する。眠る前のほんのおしゃべりだ。



 2.
 うとうと、と、急に襲ってきた眠気にふと、目を閉じると目に浮かぶのは小さい頃の夢。四人の夢。
 
 ────────────────

「楓ちゃんの夢はなぁに?」
 トモ姉にそう聴かれて、首を傾げる。まだ幼い私はあんまり意味がわからなくて首を傾げる。横にいた双子の兄に「おにいちゃんは?」と聴くと、小さく「ヒーロー」と呟く。「じゃあ私もヒーロー、なる!」と、ぎゅーっと兄に抱きつく。
 そう、このときからお兄ちゃんにベッタリだった。何をするにも一緒、兄が頷けば頷く単純な子供だったと思う。現に、兄の大好きな苺は私の好物になって、二人で食べたらきっと苺一パック平らげてしまうぐらい。
「じゃあ、いっしょにヒーローしよう。」
「うん。」
 幼いながらの約束。でも、これを聞いていた敬ちゃんにからかわれて「おんなのこのヒーローはいねーからなれないんじゃねーの!」と言われて私は目じりに熱さが染み込んできて視界が滲み、泣き虫の私は直ぐにびえ〜〜っと泣き出した。
 トモ姉が敬ちゃんを叱る。それを見て私は余計涙が出てきてもっともっと泣いてる。
 この時は幼いから、怒られてるのを見て、今では醍醐味のイタズラも、やろうとは思うはずもなく、ただただ泣いていた。隣にいた兄が私の大好きな兎のぬいぐるみを走って持ってきてくれて。私の泣き声を聞いた良ちゃんも部屋に来て、みんなに慰められた。
 その後、泣き疲れてとも姉の膝で寝ていた私が目が覚めると布団の上でふと横を見ると敬ちゃんがいて、顔を見たくなくて敬ちゃんに寝たまま、背を向ける。
「.......ふう、あのさ」
「.......」
 無言、静寂。みんなで寝泊まりしてる寝室で二人っきり、無言。私はまだ拗ねていて背を向けたまま口を開こうとしない。
「あした、りょうすけと、しゅうと、おれと、ふうでヒーローごっこしよう」
  "ヒーロー"その言葉にまた目じりが熱くなる。泣いてはダメだと目をこすってから、寝たまま体を回転させて敬ちゃんの方を向き直ってじっと敬ちゃんの目を見る。敬ちゃんもトモ姉に怒られて泣いたのか、どこか目が赤い。
「ほんと?」
「ほんと。」
 目を腫らしてにっと笑う敬ちゃんは、さっきまでとは違ってキラキラしてヒーローみたいだ。「おんなのこのヒーロー、なれるかな?」と今一度問うと「ふうがはじめてのおんなのこのヒーローかもな」と嬉しそうに笑う。
 それを聞いた私はもうご機嫌で、私の心がもし綺麗な水晶なら触れたら消えてしまいそうだ。
 
 
 3.
 ふわふわとその光景を見ていた”私”はその空間から切り離され、海に潜った時のように息を求めて上へ上へと上がっていく。光が見える上に、ふと手を伸ばした所で目の前が真っ白になった。

「あぁ、そうだ、私の夢って。
 
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 なんだ、夢か。と眠い目をこすって突っ伏していた腕を上げて伸びをした。
 起きたらお兄ちゃんはリビングにおらず、どうやら自室に戻ったらしい。ふと、背中の重みを不思議に思い方を見ると底にはブランケットが掛けてある。何も言わずに掛けて自室に戻るお兄ちゃんが"兄"らしくて思わずふふ、と笑う。朝になったらお礼を言おう。
 それにしても、いつから忘れていたんだろう。ヒーローになりたかったって。
 女性の任意血性検査をした日、あんなに喜んだのを私はいつ忘れていた?夢の中で見たのは確かに昔の記憶。今の今まで、この時、このタイミングのために思い出したのだろうか?
 この記憶を忘れてから先程のようにヒーローの話はするが、さほどヒーローに興味は無かった気はするし、確かに私の夢は"ヒーロー"だったのだ。もしかしてお兄ちゃんはそれを思って一緒にラ・クロワに一緒に行きたいと言ったのだろうか?
 だとしたら兄のため、私のため、気持ちは決まってる。朝になったらこのことを兄に伝えるべく、私は自室へと寝直すため扉を開いてベッドにダイブをした。
 

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