初恋は金色

1.
 どうしよう、完全に迷子になった…。
 掃除当番を任されたところまでは良かったが、入学から数日、広いラ・クロワの校舎の構造を完全に把握はしておらず、同じようなところをぐるぐると回ってるような感覚がする。このままではあと数分に始まる説明会に遅れてしまう。
 どうしようかと周りを見渡すと近くにいた男子生徒に近づき、肩を叩く。振り向いた男子生徒は何事かと、すこし方を跳ねさせて驚いた。
「あの、ヒーローの説明会の会場ってどこ、ですか?」
「あぁ、それなら.......。」

 親切な男子生徒のおかげでそれらしい場所へとパタパタと小走りで会場へと向かう。通り過ぎた先生からは注意されるが、「すみません」とだけ言って足早に去る。そして、階段を登る前、さすがに私の体力では辛くてはぁ、と一息つきながらフラフラの足で階段を登っていく。
 登りきると、ふと黄金の瞳と目が合う。詳しく言うと、片目だけ色が違う、オッドアイだ。という事は目の前にいる人が噂に聞くの人がラ・クロワのヒーローなのだろうか?ラ・クロワのヒーローはミュータント化手術の副作用で右目が金色になるというのは本当だったのだと、息を飲んでから目の前の人物に向かって口を開く。
「あ、あの、ヒーローの説明会の会場って.......」
「あぁ、この扉を入ったところだ。」
「あ、ありがとうございます。」
 早々とお辞儀をして、扉を開ける。まだギリギリ始まってはおらず、参加者は皆席に座っていた。辺りを見渡すと、兄の灰色じみた銀髪が見えて、そこへ向かって歩いていく。
 席と席の間の通路を歩く度に、どこかザワついており、視線がチラホラと感じる。私はなにかしたのだろうか?そう考えているうちに兄の席へ、隣は私のために開けている。
 「遅れてごめん」と言えば、私に気づいて、「座ったら?」と、隣の席を指さした。少し、拗ねているのかいつもよりぶっきらぼうだ。
 普通の人ならきっと気づかないだろうが、私はお兄ちゃんの些細な事も見逃さない。今まで生きてきて、二人で一人息をしていたから。ご機嫌取りに帰りにカフェにでも寄って、一緒にいちごパフェでも食べようかな。
「どうしたの?」
「掃除当番だったの。」
 はぁ、と溜息を着く。お金持ちの人たちの多いこの学校にも掃除当番という文化があることに先ず驚いた。何でも社会勉強とかなんとか.......まぁ、掃除は嫌いではないし、苦ではない。問題はクラスメイトが掃除をせずに帰ってしまったことなのだから。
「楓、学校に馴染めた?」
「うーん.......どうだろ。」
 兄に.......お兄ちゃんに心配はかけさせまいと、 笑って誤魔化す。実際、クラスでは少し浮いてる。友達もまだ出来てはいない。それはそうだ、お金持ちの人と私とじゃどうにも釣り合わない。何を話していいかすらも分からないんだ。
「お兄ちゃんはどう?」
 咄嗟に切り返す。これ以上、下手な詮索をされたらバレてしまうから。兄はジトっと目を細め、「別に。」と答える。兄は友達がいらない訳ではなくて、うるさい者を好まない。性格からも人が寄り付かないのだろう。「じゃあ、一緒だね、多分。」と言って兄の手を握ると、兄は優しく微笑んだ。

 2.
 説明会が終わり、ご機嫌取りにカフェに行っていちごパフェを二人で食べ、私のお財布が空に近い状態になって、おばさんの家に帰って来た後、おばさんに「学校どうだった?」と聞かれて、咄嗟に「楽しい」と答える。別に楽しいことは嘘ではないから。
「おばさん、話があるの。」
「なぁに、楓ちゃん。」
「私、女の子だけど、やっぱりラ・クロワでヒーローしたい。する。」
 そう言ってポンっと置いたのはミュータント化手術の書類、承諾書等々。今日の説明会で貰ったもの。兄も同じものを持っているし、兄はまだ少し迷っているから、まだおばさんにも言ってなければ渡してもいないだろう。
「泣き虫だった楓ちゃんが、まさかヒーローになりたいだなんて.......強くなったのね。」
 おばさんは泣きながら頭を撫で、書類にサインをくれた。
「もしかして柊くんも.......?」
「私にはなんとも.......お兄ちゃんの道は、お兄ちゃんが決めることだから。」
 微笑むと、更におばさんは涙を流した。書類が濡れては危ないと思い、おばさんに制服のポケットに入れといたハンカチを渡すが、おばさんが泣き止むまでリビングに椅子に座ることしか出来なかった。
 私は施設にいた時から、本当に成長したのだろうか?
 _______ビーッ、ビーッ。

 突如として、警報がなる。イーターだ。「おばさん!」とおばさんを目覚めさせるように少し大きめの声で呼べば、ピタリと涙が止まり、「シェルターに行かなきゃ。」と呟いて顔を上げた。
 私は椅子から立ち上がり、兄の部屋を開ける。
「お兄ちゃん!」
「楓!」
 おばさんと三人、家を出てシェルターに向かう途中、あることに気がつく。
「承諾書.......」
「楓?どうかしたの?」
「私、ちょっと部屋に戻る!二人は先に行ってて!」
「楓、だめだ!」
 兄が私の腕をつかもうとしたが、その手は空を切り、私は走っていた。
 承諾書をリビングに置いてきてしまった。置いてきたこと自体は問題ではない。問題は、”戻った時に兄に見られること”それはできれば避けたい。
 兄はきっと一人で決めた事を怒るから。あの日、二人でヒーローになろうと約束した。私はそれを破ろうとしてる。だって、お兄ちゃんには出来ればヒーローになって欲しくないから。幸せになって欲しいから。守りたいから。きっとお兄ちゃんも私に同じことを思ってる。だからこそ、この思いを貫くためには何としてもバレずに兄より先に承諾書を渡す。
 部屋に戻り、急いでるためおばさんに後で怒られるのも承知で、靴のまま部屋にあがり、リビングの机に置いたま間のそれをとる。承諾書のサインの横の判子を撫でると、急いで部屋を後にした。
「はやくしないと.......イータが」
 走る、走る、走る。と、何かにつまづいて転ぶ。
 脚をくじいたのか、なかなか立ち上がれず、膝小僧からは血が垂れてる。
 それでも、生きるためによろめきながら立ち上がり、左足を引き釣りながらシェルターに向かう。このままではきっと走れないだろう。そして、最悪、私は死ぬかトモ姉と同じふうになるの二択だ。どちらも嫌、その答えが私の脚を動かした。走れずとも、足が動くことに変わりはないから。
 空気が歪む感覚に、脚を止める。止めてはいけないのに、自然と止まる。恐る恐る顔を上げると、イーターの幼生体に囲まれていた。「ヒッ。」と後ずさりして、そのまま後ろに倒れ込み尻もちを着く。コンクリートとおしりの骨がぶつかって痛いのも感じない程、私は力が抜けて目は幼生体に集中していた。
「×**〒々÷|\%!」
 顔も知らないお父さんとお母さん。私を産んでくれてありがとう。お兄ちゃん、一緒に生まれてくれてありがとう。

 3.
 目を開けた時、目の前にいたのはパステルグリーンの髪と、紫色のマフラーだった。
「え.........。」
「やれやれ、こういうのは向いてないんだがな」
 紫色のマフラーが風でなびいて、その姿はアニメとか戦隊モノで見る”ヒーロー”だった。
 ヒーローが自身の身長より大きいであろう、長刀を振るうと、幼生体が消えていく。
 ヒーローは長刀を消すと、こちらを向く。説明会出会った人とは違い、両目とも金色で、眩しいぐらいに輝いている。
「あ、あの」
「早くシェルターに避難した方がいいぜ、時期に大型もここに来る。」
 そう言われて、自身の左足を見る。捻挫自体は大したことないが、力が抜けて立てそうにない。困り顔でヒーローの方に向き直る。
「.......立てません。足も怪我してる。」
「怪我をしているのか?」
 ヒーローも、私の足を見て、事情を察したらしく、訓練生を集めれば私をシェルターまで運び、ラ・クロワの病院まで紹介してくれた。
 とてもかっこよかった。それが垂直な感想だった。自身より遥かに大きい長刀を使い、イーターを倒す姿。靡くマフラー。テキパキと訓練生に指示を出す姿。どれを思い返してもキラキラと輝いている。
 ”一目惚れ”というやつをしたのかもしれない。思い返すだけで顔が熱い。訓練生の背の上で、ヒーローの姿がぐるぐると回っていて、そのまま意識を手放した。
 
 ────────────────

 目を覚ますと、必死の兄の顔が目の前にあった。目は泣いていたのか、濡れたあとが着いていて目は腫れている。思わず驚いて起き上がろうとして頭と頭がぶつかる。と同時に振動で左足にも痛みが走る。
 お互い頭を抑えていると。ドアの開く音がして、兄の身体の横からひょっこり顔をのぞかせて音のした方を見る。そこには私のヒーロー、もとい、初恋の人が居た。
 私の顔を見るなり、安心したように微笑んでこちらに歩み寄る。兄が、振り向き怪訝そうな顔をして彼を見る。あぁ、お兄ちゃんの”人見知り”だと苦笑をする。
「怪我は大丈夫そうか?」
「.......はい!お陰様で」
 心臓が飛び跳ねそうなのを抑えてヒーローの顔を見る。やっぱり彼の金色はとても綺麗だ。1日中ずっと見ていられそうなぐらいだな、とボーッと彼の事を見ていると、「どうかしたのか?」とキョトンした顔で言われ「いいえ!」と慌てて首を横に振る。
 顔の熱が覚めなくて、冷めるようにと思わず両手で頬を包む。
「楓、誰、この人。」
「私を助けてくれた人だよ。”私たち”の学校のヒーローだよ。」
 怪訝そうな顔をしていた兄の顔が一変。驚いたような顔になったと思うといつもの顔に戻って、彼の事を上から下まで見ている。「はは、面白いものを見つけた猫みたいだな。」と、彼は苦笑いを浮かべている。そんな所もかっこよく見えてしまって、私は頭がどうかしてしまったんだと思う。
「あの、まだ聞いてなかったんですけどお名前は?」
 私はまだ彼の名前を聞いていない。これから私たちはラ・クロワのヒーローになるかもしれないと言うのに。私のヒーローの名を聞いていない。
「ラ・クロワ学苑2年の斎樹巡だ。」
 ふ、と微笑めばやはり私の視界に舞い散るのはお星様で、数秒遅れて「ありがとうございます。」と微笑み返す。ヒーロー、もとい巡くんは報告書があるとかないとかで、すぐ背を向けて病室から出ていってしまった。
 最後の最後、私に名前を教えて病室を後にするまで、彼は私のヒーローだったた。全てが輝いて見れ、愛しく思えた。そんな彼と私はこれから並んで戦えるのだろうか?
 そんなことを考えても、私が退院するのは約一週間後。元々の目的でもある兄より早く承諾書を出すことが出来るのか、先行きが不安になり、目を瞑る。

 ────────────────

 まぶたの裏が暗い感じがして目を開ける。どうやらあのまま寝てしまったようで、当たりを見回してももう兄は居なかった。
 無機質なサイトテーブルには、兄が持っできたのか、買ってきたのか、忘れたのか一冊のノートが置いてあり、思わず開いて中身を確認するが、中には何も無い。新品のただのノートだった。私はペン立てに刺さってたボールペンを取ると、一ページ目に文字を書く。
 兄 霧谷柊とその未来を守るヒーローと書き。メモを剥がすと、そっと入院着のポッケにしまいこんだ。

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