拝啓眠れる雛鳥へ

体の中で波のさざめく音がする。暖かい。全身を包まれるような感覚は、思い出せない何かによく似ている気がした。そよそよと潮風の湿っぽさに頬をくすぐられ、リシェは長い眠りから目を覚ました。

「起きたか」
「…!ぁ…」

横から聞こえてきた鯨の鳴くような重低音、そしてフードを深くかぶる巨人のような男!
やっと(10日ぶりに!)眠りから目覚めたリシェは驚くことしかできない。齢10にも満たない子供に試すように向けられた覇気は彼女の意識をさらに覚醒させた。
普通の子供であれば一瞬で…いや、海軍の兵士でも10秒持つかどうか…男、サカズキはリシェのまだ幼い貌を見つめながら懐かしさを感じていた。

これがのちに海軍を悩ませる乙女、リシェと大将赤犬と呼ばれることになる男、サカズキの出会いである。



むせ返るような熱気がコビーの体に汗を流させ、無駄な贅肉を削っていく。
リシェ中将率いる海軍遊撃部隊の訓練は、他のどの部隊よりも厳しい。
コビーのよき指導者であり恩人でもあるガープの命令により、コビーはこの部隊の訓練に参加していた。
しかし流石リシェ中将の部隊だ。真剣での剣術訓練、実弾での砲撃訓練。(弾の費用は海軍の財政を圧迫していると聞く。)一瞬でも気を抜けば命が危ない。そう、気を抜けばー、
ひゅんっ。
コビーの耳のすぐ横を刀が通る。

「おい眼鏡!!死にたいのか!!訓練中に余計なことを考えるな!!」
「はぃぃ!スミマセン!!!」

半泣きになりながら震える手で刀を握りしめる。身体的にも精神的にも限界はとっくに来ていた。だが僕は海軍将校になるためにここまで来たんだ。そう気合いを入れ直し、目の前の兵士に意識を集中させた。
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