秘宝の在処

コビーの目の前には刀を構えるリシェ。そして2人を囲む大勢のギャラリー。どうしてこうなった。滝の様な冷や汗が止まらない。



リシェの部隊には1日の訓練の最後、1人だけリシェと手合わせができる“力試し”がある。
そしてその1人は公平性を重視したくじ引きで決められる。
何十人といる兵士の中、当たるはずがないと軽い気持ちでくじを引いたコビーの手には当たりを示す棒があった。

「相手の体に一撃できたら勝ち。…でよろしいですね?リシェ中将。」
「ええ。」

リシェの右腕である中佐(彼女もリシェ中将に負けず劣らずの美貌の持ち主である)が合図を取る。
いくらコビーが今日1日の訓練を耐え切れたからと言って、剣術のけの字も知らない彼がリシェに一撃?食らわすことなどできまい。
と、兵士たちは鼻で笑った。(リシェ隊の部下達でさえ未だ彼女に指一本触れられる者はいない事を誰も口にしなかったが。)

「では、両者構え…始め!」

合図とともにコビーは正面からリシェに向かっていく。まだ使いこなせない刀の重さに苦闘しながらも果敢に攻め入った。一撃でも、一太刀でも彼女に…!そんな強い思いも虚しく、リシェは向かってくる刀を軽々と避け、自身の使い慣れた愛刀で受け止めていく。
何度刀を振るっても、リシェに届くことはない。荒い息を繰り返しながら、コビーは必死に頭を働かせる。

(どうしたらいい…リシェ中将に勝つには…)

圧倒的な力の差、どちらが勝つかなんて最初から分かりきっている。
でも…

(でもルフィさんなら、諦めない!!)

動きが鈍くなったコビーにもう頃合いか、と見計らったリシェの一瞬の隙を、コビーは見逃さなかった。力を振り絞り、素早く間合いを詰める。リシェの体はすぐそこに見えた。そのまま刀を振う。ぐ、と刃が何かを押し切る感覚がコビーの手にあった。

その瞬間、コビーの腹部を強い衝撃が襲い、そのまま体ごと吹っ飛ばされる。

えーーー。


「っぐふッッッ!!」
「勝負あり!」

歓声があがり、倒れ込んだまま放心していたコビーはやっと何が起こったのか理解することができた。あの時、コビーの動きより早くリシェが腹部に蹴りをかましたのだ。つまり、自分の負け。流石リシェ中将だ。刃が届いた感覚は勘違いだったのか。きっとあともう少しだったのだ。そう考えると悔しさがこみ上げてきた。はぁ、とため息をつき床に目線を落とす。すると、あるものに気がついた。

(あれ…?なんだ、水…?)

リシェとコビーの間に床に水のような透明な液体が広がっている。さっきまではなかったものだ。自分の汗?…にしては量が多い様な…「コビー。」

「っはい!」

頭上から声をかけられ上を見上げれば、リシェが手を差し出していた。その手ににつかまらせて貰い立ち上がる。傷一つない白い手は、ひんやりとしていて心地が良い。

「お疲れ様。私の油断した隙をつくとは、観察力がとても優れているのね。」

「あ、ありがとうございます…!!」

「もう少しで危ないところだったわ。」

眉を下がらせてリシェは言った。
確かに、シャツの脇腹部分が少し切られ、白い肌が見えている。
ではあの感覚は服を切ったものだったのか!コビーは納得し、自分の攻撃がリシェを掠めた嬉しさに頬を緩ませた。

「あなたは見込みがある。今日の訓練はこれで終了だけど、またここに来て腕を磨きなさい。」

「っはい!!」

ガープ中将に今日の報告をするべく、軽やかな足取りで鍛錬場を去って去って行くコビーを見送る。

「危ないところでしたね、リシェ中将?」

背後から中佐が声をかけてくる。

「……ええ、本当に。」

コビーの去った方を見つめながら、リシェはそう小さく呟いた。
- 5 -
*prevnext*
back/top