不本意なる昼下がり

「お忙しいところ申し訳ありません」

作戦部に着くと、すぐに着席を促された。

「いいえ。それで、何かあったのですか?」

椅子に座りながらそう言うと、リシェが最も信頼を置く部下ーミモザは艶のある豊かな赤茶の髪をかきあげ、柳眉を下がらせた。

「ええ…紅鏡のアンがどうやらリシェ中将、貴方を狙っている様です。」

「紅鏡……」

先の任務で捕らえた海賊の顔を思い出す。奴等は白ひげ海賊団の傘下だったはずだ。(それにしては随分手応えのない海賊だったが)そして紅鏡のアンは白ひげ海賊団の一員である。この事に関係がないはずがない。

「…見当はつきました。報復ということですね。」

「おそらく。まだ目立った行動はありませんが、不死鳥と行動を共にしているという噂も。」

「わかりました、警戒しておきましょう。」

ポートガス・D・アンは今後海軍の脅威になるであろうと危険視されている海賊の1人である。火拳のエースを双子の兄に持ち、後ろ盾は四皇白ひげ。そして紅鏡の異名の通り、サンサンの実を食べた太陽を操る能力者だ。
リシェにとっては分が悪い。小さく唇を噛んでいると、下からミモザがリシェの顔を覗き込んだ。

「ところで中将ーー泣かれていたのですか?目元が赤くなっています」

どうされたのですか、とリシェの瞼を優しく撫でた。その冷たさが心地よく、リシェは目を瞑ったまま理由を答える。

「大将と少し、」

「成る程。ですが中将が涙を流すなんて珍しいですね…それほど厳しいお言葉を言われたのですか?」

リシェが赤犬と口論になることは珍しくはない。怒りながら赤犬の部屋を飛び出してきて、そのまま訓練でストレスを発散するのをミモザは幾度となく見てきた。だが、泣いているのは初めてであろう。ゆっくりと目を開け、心配するミモザににこりと笑ってから、リシェは遠くを見る様に目をぼんやりとさせた。

「いいえ…何も言われていないのです…でも、」

でも、そんなことは今まで一度だってなかった。サカズキは自分が聞いたこと全てに答えを出してくれた。だから、今まで何も疑うことなどなかったのに。何故、ミズミズの実の事にあれほどーー。
しかし能力を使えるよう、早急にどうにかしなくてはいけない。能力を使ってでも紅鏡に勝てるかどうかわからないのに、刀だけでは自然系能力者の相手にもならないのだ。頭を悩ませる事が増えた、とリシェはため息を漏らした。





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