彗眼のさき

「ミズミズの実の能力を使ってはいけないのでしょうか?」





「…先日、センゴク元帥よりお怒りの言葉が。生け捕り命令の海賊を全滅させたことに対してです。」

赤犬は押し黙ったまま、何も答えようとしない。リシェはそのまま続ける。

「今の海域内(偉大なる航路)での任務ならば、いくらでも隠し通せましょう。…しかし、我が遊撃部隊はこれから新世界への出撃任務も増えると予想しております。」

海賊の数は減るどころか止まることを知らない。リシェの遊撃部隊はその実力を買われ、海軍支部への異動も検討されている。

「しかし、新世界の海賊と、刀一本で攻撃を受けずに戦う事には、限界があると私は判断します。」

サカズキの眉間に皺が寄る。部屋の温度が高くなっているのか、リシェの体はじわじわと汗をかき始めた。

「…貴様ァ、わしの命令に背くつもりかァ…」

「…そんなつもりはありません…!」

ピリピリと空気が頬を刺す。

「能力を使えば、より海軍へ貢献する事も、海賊に牽制する事もできます…!それに何の不利益があるのですか!」

攻め立てる様な声にサカズキはリシェを睨みつけた。だが口を開く事はない。

「ずっと疑問に感じていたのです、私の能力を知るのは政府上層部と大将赤犬のみ…。何故隠すのです必要があるのです、この実は一体何なのですか…!?」

「…」

「…何故、何も教えてくださらないのですか…」

サカズキは黙り込んだまま。弱々しく呟いたリシェの目には涙が溜まっている。部屋にはリシェの鼻をすする音しか聞こえない。

小時そのままだったが、やっと口を開いたサカズキによって沈黙が破られようとした。その時、

『遊撃隊リシェ中将、至急作戦部までお願い致します。遊撃隊リシェ中将、−−−』

本部内へ知らせる放送がサカズキを遮る。この声は、リシェの右腕である中佐のものである。急な任務が入ったのか。
リシェは壁に掛けてあったコートを取り、素早く羽織ってサカズキに敬礼する。そしてくるりと背を向けた。真白なコートと共に正義の文字は靡いた。

「失礼します…ーーー」






黄猿が帰った後、サカズキはリシェが手をつけたまま残っていた書類に目を通した。綺麗にまとめられた書類と文字は自分が仕事をしやすい様にと心遣いされているのがわかる。


リシェのあの目が、サカズキは苦手だった。あの全てを飲み込む様な黒と輝きを見ると、酷く懐かしい心地に襲われることが不快でならない。リシェが大人になるにつれ、美しいその顔が盛りに近づくにつれ、面影を重ねてしまう。




ーーサクラ。そう呟いてサカズキは目を伏せた。
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