※Xの最終決戦の場面
ずっと、慕っていた。あの人の話を聞くのが好きだった。だから、どうしようもなく悲しい考えに囚われた彼を助けたかった。そのためにゼルネアスは捕まえた。本人も倒した。もうきっと彼も理想を手放してくれると思っていた。けれど、
「出力を抑えれば望む結果は得られるか…。」
フラダリさんは、そう呟いた。まだ諦めてはいなかった。
「もう、最終兵器のことは諦めて下さい。」
祈るように、懇願するように、じっと目を見据えて言い放つ。ほんの一瞬、淡くシャルトルブルーが揺れたように見えたけれど、彼が瞬きをした次の瞬間、そんな惑いは無かったことになってしまった。
「それはもう無理な話なのだよ。だからソラ、君だけで良い。私と永遠に生きよう。」
ゆっくりと近づいてきた彼は、私の手を強く握った。この手の中にはスイッチだろう、固い物体の感触がした。ひやりとした雫が首元を伝っていく。私にはもう、きっと彼を止められない。
「ソラ、逃げるよ!」
異変に気づいたカルムは、私の握られていない、もう一方の手を強く引いた。けれど、私はその手を拒むように振り払った。
「大丈夫。すぐ行くから先に逃げてて。」
呆気に取られたように驚いて、そのまま悲しい顔をした彼は、「絶対、生きて地上に戻って来いよ。」と言って、走っていった。この世界に絶対、なんてある筈が無い、と思いながらも、嘘付きな自分を代わりに呪った。
「逃げなかったのか。」
友だちの姿が見えなくなり、いよいよ兵器の振動も強くなってきた頃、目の前の彼は言った。
「今だってこの手を離してくれないんです。どうせ逃がすつもりなんて無かったんでしょう?」
「いいや、君が手を離せばいつだって逃げられた筈だ。現に、私はもう手に力を入れていない。そうしなかったのは、君の方に理由があるからだ。」
自分たちの命が掛かっているとは思えない程に、あまりにも穏やかなやり取りだった。けれど実際は握った手からお互いの震えが伝わってくる位、どちらも怖かったのだ。いつでも手を離せるのにそうしないのは、手を離してしまえば自分を保てなくなってしまいそうだからだ。
「フラダリさんが永遠に生きようと言ったから。もう貴方がこんなに悲しい考えを起こさないように、ずっと傍に居ようと思ったんです。」
言い切ると、一際強い揺れが私達を襲った。そのまま床に倒れ込むと、彼は私を優しく抱き寄せた。
「そろそろ、ですね。」
「ああ。」
とても強い光だった。けれど、想像よりも優しい衝撃だった。温かい生命のエネルギーが流れてくる。夢を見ているかのような心地に意思が働く余裕も無く、そのまま目を閉じてしまった。
私達は生きていた。姿形は全く変わらず、いつもの通りだった。けれど、永遠の命を得た私達は知らなかったのだ。この世界には生命エネルギーを与えるポケモンはいるけれど、命を奪うポケモンは居ないということを。
2018.10.12