#52

ビュォォォオオォォオオ‥
ザーーーーー!!!
9月は、台風の季節。

「なまえーーー!おはよう!!!うっ」
現在、絶賛登校中。

パンチラ‥いやパン丸必至だったので、下にホットパンツを履いて。案の定スカートは完全に捲れ上がり。(晴れの日だったら只の変質者イェーイ!)

‥なまえは歩いていた。
今日は危なすぎるということで、炭治カに一緒に登校しようと誘った。妹さんも一緒にくると言っていたので、楽しみにしていたのだが‥


ゴォォォォォォォォ
「初めまして禰豆子ちゃんんん初対面がこんなんでごめんねぇぇぇぇぇ!!!」
ビュォォォォォォ!!!!!
強風に髪を巻き上げられスーパー●イヤ人状態、雨も小粒だけど凄くて顔も酷い。どうしよう、お兄ちゃんの友人変だと思われたら!

「フガフガッフガー!」
何故この嵐でフランスパンを諦めない!?
いや優勝!禰豆子ちゃん優勝!

「大丈夫か二人ともー!」
飛ばされないように三人で手を繋いで登校する。それにしても誰も歩いてないな!何で?





「あれ?」
ボロボロになりながら到着した校舎。電気は付いているが誰もいない。

「どうしたんだろうな?皆」
炭治カと首を傾げながら教室に向かう。蓬組も誰もいない。

タオルで頭や制服を拭きながら、善逸にでも聞こうかと、グループトークを開いた。

「あ」
なまえのひきつった声に、炭治郎がどうしたと画面を覗き込んでくる。

"明日午前休校で助かったよなー!"
"弁当は?家で食うのか?"
"知らねーよ!てか弁当いらねーよ!"

「「‥‥‥」」
ハァーーーなるほどね!!!
‥善逸の声が再生された。


一応学校のHPを確認するが、お知らせにきちんと書いてある。ですよね、何であると思ったんだろう逆に!

「ごめん!なまえ、俺か確認していれば!長男なのに申し訳ない!」
「私妹の一人だと思われてる!?‥いやいや私こそごめん!禰豆子ちゃん大丈夫かなぁ?」

フランスパンがべちょべちょになり、プンスカ怒っていた竈門妹を思い浮かべる。

大丈夫だ、きっと寝てる!と笑う兄を見て、ちょっと意味がわからなかったが‥彼が言うのなら、そうなのだろう。


ゴォォォォ‥
外から凄まじい暴風の音がする。我ながら屈強だと思う。

そこへ。
「‥お前達、どうやって来たんだ?」
‥廊下を通りがかった副担任が足を止めた。‥心底呆れた顔をしている。

「おはようございます!歩いてきました!」
「‥みょうじもか?」
「おはようございます!歩いてきました!」
「‥‥‥」
勢いと礼儀正しさに負け、伊黒は何も言わずため息をついた。

「先生も間違えていらしたのですか!」
「一緒にするな。それに車だ」
キッと炭治カを睨むと、伊黒は背中を向けた。化学室はこの階だ。授業の準備だろうか。


「‥‥‥」
が、くるりとこちらを向くと、つかつかと2人の元へ歩いてくる。
「みょうじ、プール掃除の際‥何でもすると言ったな」
言ったかもしれない!!!!!
完全に忘れていた。なまえはサッと青くなる。
何だ何だ!?
「実験台だけはっ‥」
「‥化学を何だと思っている」

おろおろする炭治カを尻目に、伊黒は首元の鏑丸を指差した。
「夕刻まで預かれ。丁重にな」
「へ?あら」

聞けば、この台風の中、新幹線の距離に出張が入ったらしい。学校に連れてきてしまったが、鏑丸は狭いところを嫌うため、預かってほしいというのだ。

鏑丸は自分からなまえの首に移動する。割りと好かれている気がする。目がキラキラしてるし。
「食事は今日は与えなくていい」
餌ではなく食事というところに愛を感じるなぁ。分かりますよ、ペットは家族!



鏑丸がなまえに巻き付いたのを確認すると、伊黒はすたすたと去っていってしまった。

「今日は一緒に授業受けて、部活にもでようね」
「なまえは鏑丸と仲良しなんだな!」
炭治カが膝を屈めて覗き込む。
‥非常に迷惑そうな顔をされているが。


ザァァァァァ‥ガタガタッ
雨の音が強い。風で窓枠が音をたてる。
まだ10:00だ。皆が来るまで3時間はある‥

「暇だし、お散歩しよっか、鏑丸くん」





炭治カと並んで歩く。
廊下は電気がついて明るいが、誰もいないので何だか寂しい。あてもなくブラブラと歩いていると‥美術室から宇髄が顔を出した。


「あ?何してんだ、お前‥ら」
言いながら、宇髄の目線はなまえの首元で止まり、ぱちくりと瞬きをする。
「伊黒の蛇、ついに主人を代えたのか?」

とんでもない事を言いながら、美術教師は腕を組んだ。今日も綺麗なマニキュアが、彼の指先を彩っている。

「どうした!」
煉獄先生!

宇髄の後ろから、担任が顔を覗かせる。
煉獄の姿が見えただけで、この薄暗く荒れた外の景色も、寂しげな人のいない校舎も暖かく思えるから不思議だ。
‥早く来てよかった。会えて嬉しい!

「おはようございます!」
「おはよう!早いな!‥ん?」

赤い瞳も、宇髄と同じ場所に止まる。

「伊黒先生からお預かりしました!ペットシッターです。」
「なるほど!懐かれるとは、凄いな!」

二人とも先ほどの炭治カの如く、体を曲げて覗き込んでくる。圧力かけないで!鏑丸くん怒ってますから!


「なんつーか‥伊黒の所有物感あるな」
「え?」
腕を組んでまじまじとなまえを見つめる宇髄に、三人が声を揃えた。

‥何か、それって‥
「なんと!担任は俺なのに!」
「え?」
‥今度は煉獄に注目が集まる。


「へ?」
皆が見つめるなか、煉獄は自身のネクタイに手を掛けると、するり、と緩めた。

(何か‥いやらしい!!)
謎に照れるなまえ。
ネクタイを取ると、煉獄はニコニコしながらなまえへ手を伸ばし‥
‥頭に巻いた。

「ははははは!」
「いやこれ酔っぱらいのやつ!」
何めちゃめちゃ笑ってんの!?可愛いな可愛いなもう!いや私のビジュアル!


「やべっみょうじ、似合うわ!ははははは」
宇髄先生!
二人ともなに生徒で遊んでんだ!

「意外と似合うぞ!なまえ!」
やかましいわ!くもりなきまなこで言うな!
余計傷つくわ!


鏑丸は、上から垂れてくるネクタイの端が鬱陶しいらしく、目を三角にしている。

もーー!遊ばないで下さい!‥と言いながら、ネクタイを頭から外す。
髪の毛がぼさぼさだ。

それを煉獄に返そうとすると、宇髄がそれを阻止し‥‥なまえの耳元に口を寄せた。

「みょうじがつけてやれよ、いい仕返しになるぜ」


はて、と瞬きをした。
なるかな?でも確かに、気まずいから反省はしそう。そして私は近付けてお得。

「分かりましたァ!やってやります!」
むん!と無駄に腕捲りをすると、なまえは背伸びをして‥‥煉獄の首に腕を回した。


ビクリ、と教師の体が強張るのを感じる。


(ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!)
‥非常に顔の距離が近い。2秒で後悔した。意識すると茹で蛸になりそうである。


「なまえ、正面から結んだことあるのか?」
「あ」

それでも何とかネクタイを首にかけ、片方を長くして手に持った時に‥炭治カの真っ当な指摘が入った。

‥確かに。自分にやるのと人にやるのは勝手が違うんだよね。


「ない‥炭治カ、見せて」
「え?」

言うなり煉獄から手を離し、炭治カに近寄ると‥ネクタイを裏返して構造を見る。
‥炭治カは、赤くなり固まってしまった。


「あ、こっちか」
そして今度はきょとんとしていた煉獄へ。
ここを折って、ここから通して引っ張って‥

あーダメだ、煉獄先生の匂いがして全然集中できない!!!
‥失礼の無いように、何とか一ミリも煉獄の体に触れないようにしているが‥真上にある赤い瞳の視線を感じ、精神はギリギリである。

「ごめん、もう一回」
言うなり炭治カの襟元をひっくり返し、結び目の位置を見る。炭治カとはいくら顔が近くても平気なのになぁ‥などと考えるなまえ。真っ赤な顔、変なポーズで固まる炭治カ。

ヒィーッと響く宇髄の引き笑い。
何に笑ってるの!?


「すみません、もうできます!」
三度煉獄へ。左右のバランスを整え、
「できましたー!!!‥あれ?」


「‥‥‥」
離れて教師の顔を見ると、口をぽかんと開けて固まっていた。え?

「‥はぁ、はぁ‥ブッ‥みょうじ、ナイス‥」
笑いが漏れまくっている宇髄が、肩で息をしながら立ち上がる。
涙を拭い、「オイ起きろ」と、2人の肩を叩いた。


はっと我に返った炭治カは気まずそうに頬を掻いた。
‥煉獄はビキリと青筋をたて、宇髄を見る。

「‥宇髄、」
「怒るなって。派手に面白かったぜ、みょうじにやられる二人。」


煉獄が腕を組んだ。眉間に皺が寄っている‥
「むぅ!確かに、やられたな‥」
「やられました‥」
炭治カが両手で顔を覆う。何その乙女の反応。


‥わかった。お母さんに世話焼かれてるみたいで恥ずかしいって事ね‥。それでずっと笑ってたのか宇髄先生‥‥‥

何だか遊ばれた様で恥ずかしい。
まぁ私の方は別の事情でHP0だけどね!もうゲージ真っ赤だから!


なまえは今さら紅潮する顔を見られないよう、では、と言い捨て去っていった。
鏑丸くん、二人で茶でもしばこうぜ。


‥その日の午後。「みょうじなまえが伊黒の女になった」という噂が学校中で囁かれたとか。




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