#5410月に入った。
今月は大きい行事がある。そう、修学旅行だ。言い直そう。煉獄先生と!(修学)旅行だ!
「班決めは、自由でいいだろうか!」
イェーーーィ!
配られたスケジュールや参加者、引率者の名簿のプリントから目を離し、全員が全力で返事をする。だから、勢いが凄いのよ。
「「「組もう(ね)!!!」」」
「ヒィ!」
勢い良く炭治郎が後ろを向き、善逸も左を向く。後ろで伊之助が立ち上がった音がするから、この四人は確定なのだろう。
あと女子二人で完成だと、なまえが周囲を見渡すと‥丁度二人、こちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「ね、私もいい?」
「私も‥!」
すぐ決まった!あんまり話した事無い子達だが‥とにかく良かった。
よろしくね〜と、班名簿に名前を書いた。
「決まったか!」
班構成を聞きに、教師がやってくる。
あぁ、今日も美しい!ボールペンを握る骨張った長い指まで見惚れてしまう。憧れの煉獄先生が引率してくれるなんて、何て幸せなのだろう。
・
・
「一日目が団体行動で、二日目が自由行動なんだね!」
修旅班で集まり、スケジュール作成を行う。
旅先は新幹線で三時間ほど。歴史的建築や史跡、街並み‥誰もが感銘を受ける、美しい古都だ。だが近くにネズミがメインキャラクターの大型テーマパークがあり、二日目の自由行動で1日遊び尽くす予定である。
「ねぇねぇ、この引率の先生さ、」
女子生徒が名簿を指差して、囁いてくる。
「あ、産休の先生の代わりに来てくれた?」
「そう。煉獄先生の事絶対好きだよねー」
なまえは内心頭を抱えた。
やめてェェェー!!!あと数ヵ月しかないのに、ここにきて先生キャラ登場!?
わぁ!そうなんだ〜知らなかった!‥と、笑顔を作る。本当は何も聞きたくない。
「結構有名だよね?めっちゃ迫ってるもん」
ああああああ
「煉獄先生はうまくあしらってるけどね」
ぐぅぅぅぅぅ
‥何で知らなかったんだろう?そんなこと聞いてしまったらもう‥気になってしまうではないか。相手は大人だ。なまえが苦しんでいる教師と生徒の壁も無く、飲み会など、物理的距離が近くなる機会も多いだろう。
気にしても仕方ないけど!!
「来月産休の先生帰ってくるからか、最近押せ押せだよね」
みぃぃぃぃぃぃ
脳内で盛大なヘドバンを繰り広げる。
‥はっ‥いかんいかん、取り乱してしまった。落ち着けなまえ!
チラリと、教壇で荷物をまとめていた煉獄を盗み見る。
教師は、視線に気付いたのか、なまえを見ると‥ニコリと微笑んでくれた。
「!!」
シュワッ ←浄化された音
あぁ、美しい、優しい、格好いい、好き。
‥そうだ、そんなこと、気にしても何も始まらない。なまえの最終目標は、卒業後に想いを伝える事だ。その時に、恋人がいなければ‥。
‥その先生と煉獄がうまくいったら、それはそれで倒れるほどショックだけれど‥気をしっかり持って、この修学旅行を楽しもう!
・
・
・
「お疲れ様でしたー!」
ふぅと息を吐いて、ペットボトルの水を一気に飲む。部活終わりの水分補給、大事。
今日から、文化祭での演技に向け全体練習が始まった。衣装はどんなのかなぁと、わくわくする。
「派手にやってんなァ、みょうじ!」
荷物をまとめていると、美術室から宇髄が出てきた。
「今年は後夜祭にも出るんだって?」
「はい!初めてなので緊張します」
相変わらず風船ガムを噛みながら見下ろしてくる宇髄は、入学当初‥少し高圧的なイメージがあったが、今となっては好きな先生の一人だ。心なしか、表情も柔らかく、にこにこしている。
「派手に見に行くわ!」などと言ってくれるので嬉しくて、ありがとうございます!と勢い良く頭を下げた。瞬間‥
「うっ‥」
目に激痛が走った。睫毛!?ゴミ!?‥何かが入った!
「おい、どした?」
目に手を当てて呻いているなまえを不思議に思い、宇髄が覗き込んでくる。
「目が痛いです!」
激痛で目が開けられない。何回か瞬きしてみるも、全く取れる気配がない。じわじわと涙が溢れてくる。片目だけ‥
「何か入ったか?‥見してみ」
宇髄は体を屈めると、なまえの顔を片手で支え、親指で下まぶたを引っ張る。
目がもげる!もげるよー!!
目薬持ってたっけ?ない!水で洗う?トイレ反対側!
なまえはパニックになっている。
そのとき。
「え!?宇髄先生、生徒に何してるんですか!」
出たあああぁぁぁぁぁぁ例の先生!!
今まで全く関わることが無かったが、ここにきて大接近である。なまえは泣いた。
確か担当クラスは持ってない筈だから、放課後3階にいるのは珍し‥って今はそれどころじゃない!私の目玉!
「何って、」
面倒臭そうに宇髄が眉を寄せる。
「あなた、先生に失礼でしょう?節度をもって接しなさい!」
怒られたぁぁぁぁぁぁ
それより目が痛ェーーーー!!!
「いやいや、俺が、」
「宇髄、どうした!」
「!」
煉獄先生ーーー!
目にゴミが!!私、まだ目付いてますよね?
‥宇髄が言い返そうとしたところ、煉獄が廊下から遮った。‥蓬組の教室から出てきたらしい。小脇に出席簿などを抱えている。
「煉獄くん、この子が‥」
君づけ!!!何か‥何か響きがイイ‥!とてもイイ‥じゃなくて!
「うちのみょうじが、どうしました?」
う ち の みょうじ!!録音して!誰か!
‥なまえは痛みのあまり片目だけ号泣しながら、脳内はかなりテンパっている。
「みょうじ‥この子が‥!」
女性教師が、何故かハッと息を飲んだのが伝わった。
煉獄は、なまえの側へ走り寄ると、目を押さえている手をやんわりと掴んだ。
「見せてみろ」
「ふぁい」
痛みと照れで歯抜けみたいな声が出る。
煉獄は、なまえの頬を両手で包むと、親指で瞼を広げ‥顔を近づける。
「ちょっと‥!」
焦った女性教師が近寄ってくるも、気にする様子は無い。
近い痛い近い痛い痛い痛い‥‥‥
一方なまえは、残念ながら煉獄との接近より、目玉の運命に意識が持っていかれている。そもそも、涙でもはや視界が歪んで見えない。
「あった」
煉獄は、ズボンのポケットからハンカチを出すと‥折り畳まれた角のところで、なまえの目にとんと触れた。
「!」
痛みが退いていく。ハレルヤ!!!!!
「睫毛だ!折れて刺さっていた!」
こっわ!
「ありがとうございます!!!」
痛みから解放された喜びで、懲りずに凄い勢いで頭を下げた。煉獄がにこりと微笑み、嬉しくてへらりと笑ってしまう。
後ろから、睫毛折るとか器用だな、お前‥などと聞こえたけども。何ですってェー!
カツン。
「!」
ヒールの音でハッとする。
「煉獄くん!近いわよ、生徒とはちゃんと距離をとって!誤解されますよ!」
この先生がいたのだった‥
明らかに機嫌を損ねたらしい女性教師は、煉獄の腕を掴むとなまえから引き離す。
‥何だか、余裕が無いなぁ。来月でお別れになるから、焦っているのだろうか。それにしても。
「仰る意味がわかりませんな!そんな事より、生徒の目の方が大事だ!」
先生‥!敬語の先生も、イイ‥!新鮮だ!
なまえは自分の立ち位置が分からなくなってきた。我ながら、今考えるのはそういうことじゃ無いとは分かっているが。
煉獄はいつも通りだが‥女性教師が何とも言えないピリついた空気を出している。
はァ‥と、宇髄のため息が響いた。
「‥煉獄、来てもらって悪ィな。ちょっとこれ見てくれ」
面倒臭そうに頭をかくと、宇髄は煉獄を美術室へ引きずっていく。
「みょうじ、また明日!」
「はい!ありがとうございました!」
赤い瞳が振り返り様、優しく細められた。それがまた、とても嬉しい。今日は話せて嬉しかった!
なまえはにこにこしながら自身の荷物を持つ。
と。
「みょうじさん」
また忘れていた‥。はい、と言いながら冷や汗が出る。あぁ、感じる。敵意を感じる。
「生徒なのだから、わきまえなさい。もうあんな風に、煉獄先生に近寄ってはだめよ」
ギャッフン!!!
- 54 -*前戻る次#ページ: