・隣の席の絶対王者

一時間目の数学の時間。私は人知れず驚愕していた。
昨日の帰りのHRで席替えをして、今日から隣りの席になった牛島若利くん。彼はバレー部主将で世界ユースにも選ばれるような凄い人。この学校で彼を知らない生徒なんて恐らくいないだろう。その独特の雰囲気もあって近寄り難い存在だったから今朝は少し緊張していたけれども、そんなもの一気に吹っ飛んだ。今はとにかく全力でツッコミを入れたい衝動に駆られている。
だって牛島くんたら、まだ1時間目の授業中であるにも関わらず何故か堂々とおにぎりを食べているのだ。教科書なんかで隠すことも無く、視線は黒板に向けたまま文字通り堂々と。やっぱり身体が大きいとお腹が空くのも早いのだろうか。恐らくバレー部は朝練だってあっただろうしと納得しかけて自分自身にツッコミを入れた。いやいやいや、せめてなんかこう、もっとなんか…!


「牛島、なんだそれ」


どういうわけか私がぎくっとしてしまった。振り向いた先生は早速気付いてしまったらしい。私は一向にもぐもぐを止めようとしない牛島くんと先生を交互に見ながらまた人知れずはらはらしていた。


「焼き鮭です」


牛島くんはよく通る低い声でそう言い放った。なんというか、この状況では100点満点のボケだと思う。私はいよいよ本格的にツッコミたい衝動に駆られた。とにかくツッコミたい。誰も牛島くんのおにぎりの中身なんて聞いていないしそんなキリッとした顔で言うことでも無いよねってツッコミたい。


「そうか。じゃあこの問題を#NAME2#」

「!?」


先生は容赦なくボケ殺しをかましてきた。予習はしてきたけれども、それどころじゃない。なんでこの状況で普通に授業が進むの?そして先生はともかくなんでこのクラスのみんな何も反応示さないの?なんで牛島くんこの状況でもぐもぐ続行してるの?世界ユースってハンパない。
まるで朝からクラスぐるみのドッキリを食らっているような、そんな心境だった。



―――――



二時間目。現代文。良かった、牛島くんもうおにぎり食べてない。本当に良かった。結局あの後合計3つ食べてたもんね牛島くん。安堵しながらもしかして3つ全部焼き鮭だったのかなぁなんて考えつつふと牛島くんの机の上を見ると、明らかに現代文の教科書では無いものが広げられていた。うん。多分バレーボールの雑誌。あまりにも真剣な顔で読んでいるものだから今の今まで気付かなかった。ううん、気付かないほうが良かった。気になり出すともう止まらない。
“現代文”なんだからとりあえず“現代”の“文章”を読んでいればそれでいいんだろう、という無言の主張が牛島くんのその堂々とした風貌からひしひしと発せられている。そうじゃない。そういうことじゃないよ牛島くん。牛島くんっていつもこうなの?でもたしか成績いいよね?世の中って不公平だということを私は改めて痛感したのだった。


「#NAME2#!よそ見するな!」

「え、えっ!?」


本当に、不公平だ。


―――――


3、4時間目。体育。
種目はバレーボール。男女でコートに別れてゆるい試合みたいなことをしているのだ。そしてサーブって面白いくらいに届かないのね。テレビなんかで見ると軽々と打っているように見えるから、意外にもめちゃくちゃ難しくて笑ってしまった。
それはそうと、先ほどから隣りのコートからミサイルかなんかが落ちたんじゃないのかというような音が絶え間なく響いている。これには敢えてツッコむまい。大人気無いにも程があるとか体育の時間はあなたのスパイク練習の時間じゃないとか、いろいろと言いたいことはあるのだけれども私はツッコまない。というかなんでこのクラスに、女子だけなら兎も角男子にまでバレーという種目をあてがったのか体育教師に問い詰めたい。うちのクラスには世界ユースがいるんですよ?あなたセミプロに対してバレーの授業しようとか仕事にも関わらずどれだけ冒険しちゃってるの?
若手の体育教師をちらりと見ると、牛島くんの勇姿に惚れ惚れとしているようだった。
そして女子もほぼ全員目を奪われている。私はその隙を狙ってサーブを打った。私はスポーツマンじゃないからスポーツマンシップに則る義務はない。取れる点は容赦なく取る。だがしかし私のサーブはまたもやネットにすら届かなかったのだった。



―――――



お昼ごはんを食べて、迎えた5時間目。英語の授業だ。気を抜くと出てしまいそうになる欠伸を必死で堪えながら、黒板を凝視する。
そこでやっぱり視界の隅に入ってきてしまった。牛島くん、堂々と机に突っ伏して爆睡してる。え、なんなのこの人。今日まともにこの時間まで一つも授業受けてないのだけれども。あ、でもあれか。この人世界ユースだから英語とかペラペラなのかなぁ。その証拠に先生だって見て見ぬふりしてるし。

そうしてその後、牛島くんは次の時間の世界史が終了するまで、とうとう目を覚まさなかったのだった。



―――――



「なんだ」

「………。」

「何か用か」

「………。」


私は世界史の先生からあろうことか『牛島にちゃんと伝えておくように』と指示を受けた、宿題の範囲を書いたメモを力無くその人の机の上に置いた。


「綺麗な字だな」

「ハッ、ありがとうございます世界ユースさまー!」

「何故怒っているんだ」

「怒ってなんかいませんけどー?」

「?」


なんなのこの人。なんなのこの人!なんなのこの人!!


「あ、#NAME2##NAME1#」

「ナンデスカー」

「ありがとう」

「…………。」


なんかもう、この人って存在が反則なんだなぁとひしひしと感じた。でもとりあえず流石に周りに甘やかされすぎだと思うから、せめて私は明日から厳しく接しようと心に決めた。というか今日一番の驚きは牛島くんが私の名前を知っていたことだった。しかもフルネーム呼び。
うん、なんだかやっぱりこのひとむかつく。


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