・牛島さんちのお兄ちゃん(req)


「175.3cm」


頭上から、淡々とした声が振ってきた。それに告げられたのは、私にとって至極残酷な数字で。
最後の望みをかけて勢いよく振り返る。そこには目盛りが粗めに彫られた柱があるわけだけれども、私の分を示す赤い油性マジックのラインは、やはり寸分違わず“175.3cm”に引かれていたのだった。


「…また、伸びた…」


高校1年生。普通の女子であれば成長期も一段落付いているであろうそんな時期。しかして私のそれは、まだまだ余力を残していると言わんばかりに炸裂している。
正直これが、部活なんかに活かせるのであればまだいい。しかし私は茶道部。むしろお着物が一枚また一枚と、つんつるてんになっていくばかりだ。


「…#NAME1#」


せめてもう伸びてくれるなと言わんばかりに畳の上で必死に膝を抱えていると、また頭上から非常に淡白な声が降ってきたのだった。


「心配するな。俺の小学6年の頃と一緒だ。要はお前の身長は小学生レベルだ」

「うん。そういうのをトンデモ理論って言うんだよ兄ちゃん」

「?お前は難しい言葉を知っているな。すごいぞ」


我が兄はそう言いながら私の頭を撫でた。
たしかに兄と比較をすれば現状まだ15cm程の差はある。この差は、どういうわけか我々が幼少の頃から縮みもしないし開きもしない。
完全に、遺伝子の絡みだ。分かっている。分かってはいるのだけれども。


「兄ちゃんがそうやって私を甘やかすから、私の背も伸び続けるんだよ!?」

「…それこそ“トンデモリロン”という奴じゃないのか?」

「そして理解力と応用力相変わらずすごいな天然のクセに」


…恐らく、兄はまだまだ身長を伸ばす気満々なのだろう。実際私も兄のそれはまだ伸びると思っている。ということは即ち、経験則で私の身長もそれに伴って伸びていくわけで。
ただ兄と違って私には、別に身長なんて必要無い。むしろ困る。物凄く困る。
今まではたとえクラスの女子のなかで誰よりも背が高かったとしても、さして気にはしていなかった。ただ最近、どうしてもこれ以上身長が伸びてしまったら困る案件が生じたのだ。


「天然?どちらかというと…養殖じゃないか?」

「そういうのを世間様は天然って呼ぶんだよ!」

「?」


そんなことを知る由も無い兄は、常にきょとん顔をしながら相変わらずの天然ぶりを炸裂させてくる。これで一つの部活の主将だというのだから、周りの人たちの気苦労を想像するとなんだか胃が痛くなってくる。
そして面倒なのは、兄には一切の悪意が無いということだ。その的外れなフォローが的確に私のメンタルを削りにかかっていることなんて、兄は気付いているわけが無い。しかしてこの天然野郎には遠回しな表現なんて通用しない。


「す、好きな子の身長が164cmなんだよ!」

「…何か問題があるのか?」


まぁストレートに言ったところで通じないのだけれども。


「…じゃあ兄ちゃん。兄ちゃんの目の前に2mの女の人が現れたとして、どう思う?」

「“ポジションはやはりミドルブロッカーかウイングスパイカーだろうか”」

「ほらぁー!!」

「??」


やっぱり通じない。そもそも兄ちゃんに恋愛感情うんぬんの話を持ち出して理解を得ようとすること自体、間違っているとは百も承知だけれども。


「こんな背じゃ、あの子の恋愛対象になんて…なれないんだよ…」


好きな子よりも、10cm以上も背が高いだなんて。
少女漫画じゃあるまいし、相手にしてみたらそんな女の子、いっそ並んで歩くことすら嫌でしょう。あの子はただでさえ身長のこと、気にしていないわけじゃなさそうだし。


「#NAME1#」

「なんだよもー!」

「俺は2mの女性、とても素敵だと思うぞ。会ったことはないが」

「なんで」

「女子バレーに限らず男子バレーでも即戦力だろう。バレーをしている奴なら皆憧れて然るべきだ」

「……えっ…!」


心臓が、どくんと大きく跳ねた。
え、そうなの?バレー部の人ってそんなかんじなの?
淡い期待だとは分かっている。でも、どうしてもそんなことを言われてしまうと浮き足立たずにはいられないのだ。


「…そんなことよりも、#NAME1#」

「な、なに」

「慕っている奴がいるとはどういうことだ。兄さんは聞いていないぞ」

「今更だね!?」


兄は眉間に影をつくり、無駄に威圧感なオーラを発しながらそんなことを言ってきたのだった。
なんだか、嫌な予感がする。


「ひとまずお前の“あの子”呼びからお前の同級生以下の年齢だということと、164cmという身長、そしてお前の反応からバレーをしている奴だいうことは分かった」

「また出た謎の洞察力!」

「…お前の高校に、一人心当たりがいるのだが」

「ち、違うよきっと!世間がそんなに狭いわけ…」


まさかまさか、そんな限られた情報から本人を特定できるわけがない。基本的には他人に興味の無い兄だ。仮にあの子と面識があったとしても、記憶に留めている可能性は低い。第一、烏野はさきのIH予選では兄の学校と当たることも無かった。それが高校での初の公式試合だったあの子が、兄と接点を持っているはずなんてない。
そうは思えどどういうわけか冷や汗が浮かんで仕方が無かったのだ。



「ヒナタショウヨウ」

「!!!???」

「……なるほどな」

「ちょっ、待っ、えっ!!?」


なんなのこの人。エスパーか何かなの?私の兄ちゃん、エスパーだったの?


「ヒナタショウヨウ…よりによって#NAME1#をたぶからすとは、やはりいい度胸をしているな。」

「え、兄ちゃんなんで日向くん知ってるの…?」

「とりあえず倒す」

「倒す!!?」


とりあえず、血の気がさぁっと引いていったのだった。

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200000Hit御礼企画1/38
テーマ:牛島さんと兄妹

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