・ラプンツェルに捧ぐ竜胆(req)
※ヒロインがとても不憫です。ご注意下さい。
「ねぇねぇ#NAME1#ちゃん」
「なに」
「今度の連休何するの?部活休みとか珍しいよネ」
「普通に家で勉強する」
「えっ!勿体無い!友達とどっか遊びに行ったりとかしないの?」
天童は口元のニヤけが隠し切れていない。私の身の上を知ってわざとそんなことを言ってるんだ。この子は本当にゲス野郎だと思う。
でもこれが彼のニュートラルだということは、3年も時が経てば嫌でも理解できる。いや、理解というよりは“慣れ”とか“諦め”と言ったほうが近いのかもしれないけれども。
「あっ、ゴメン…。#NAME1#ちゃんお友達とかいなかったね…?」
天童はわざとらしくも至極申し訳無さそうな表情をつくった。心臓にグサッと何かが刺さるとともに、虫酸が走った。
だからとりあえず手に持っていたボールペンを天童の額に向けて振りかぶった。
「ヒッ!?」
チッ、避けたか。的を外れた後床に虚しく転がったボールペンを見ると、無意識に舌打ちが出てしまった。
「そ、そんなんだから友達できないんだよ#NAME1#ちゃん!?」
天童は額に汗を浮かべながら叫んだ。この子の必死な表情ほど、見ていて胸がスッとするものは無い。
「#NAME1#ちゃんも大概ゲスいよ!?」
それにしても、たしかに天童の言うとおり私には友達と呼べるような友達がいない。どういうわけか女子にも男子にも一線を引かれてしまっている。
別に私は、先程天童に対してけしかけたような暴力的行為を日常的にしているわけでは無い。むしろこんなことをするのは天童に対してくらいだ。それなのに。
別に中学以前はこんなことは無かった。白鳥沢に入った途端、こんな有り様だ。最初こそ戸惑った。毎晩枕を涙で濡らした。だって理由も分からなかったから。
ただある時、“牛島若利ファンクラブ”の面々と一悶着あってから、ようやくその答えらしきものに辿り着いた。ああそうか、やっかみか。たしかに運動部の活動が盛んな白鳥沢においても、男子バレー部はなかなか目立つ位置にいる。そんな中に一人女の子が入ってみた日にゃ、逆ハーレム的光景を想像されても然るべき。噂ではそれが理由で男子バレー部には長らく女子マネがいなかった、とか。白鳥沢学園高等部きっての暗黙の了解だったらしい。
私はそんなこともつゆ知らず、のこのことノリで入部してしまったのだ。暇だったから。
蓋を開けてみたらさすがの強豪校というだけあって、毎日毎日多忙も多忙。とにかく仕事をこなすことでいっぱいいっぱいだった私に、そんなやっかみなんて気にしている余裕は無かった。ちなみに逆ハーレム的展開なんて一切無い。期待していたわけじゃないけれども。
そしてスルーにスルーを重ねてきた結果、今に至る。
だから女子であればそんな私にわりたくないだろうし、そんな雰囲気も男子には伝わっているのだろう。
「まぁまぁ、そう落ち込まないで」
今更痛みも薄まりつつある傷をえぐってきたのは、どこのどいつだっただろうか。
「#NAME1#ちゃんには、俺らがいるじゃん☆」
そもそもあなた方の存在のせいで私はこんな状況に陥っているんですけれども。
そんな本音はぐっと抑えた。だってもともとそんな状況に飛び込んだのは私自身だし、変な意地を張ってここから逃げ出さなかったのも私自身の責任。
さすがにそれを言ってしまったら、自分自身すら否定してしまうことになる。
「ところがですよ!聞いて驚けこのゲス野郎!」
「うわっびっくりした」
しかし、そんな私にだって希望が無いわけじゃない。
「私ったらこの度齋藤さんに、連休明けにカフェで勉強会しよって声掛けられちゃったんだよー!」
立ち上がって両手を翳し高らかに叫ぶと、天童がポカンとした顔で私を見上げていた。
「…う、うん。とりあえず齋藤さんって、誰?」
「うちのクラスの委員長やってる女の子!いっつも一人でいる私を哀れんで声かけてくれたの!」
「よ、喜んでるとこ悪いけど#NAME1#ちゃんそれ、自分で言ってて悲しくならない…?」
「天童!」
「な、なに」
「ってことでラーメン奢って」
「なんで!?」
「お祝い。今日私5杯食べる」
「それ体の中ラーメンだけで埋まるよ!?」
なんだかちょっと悩んでたことが馬鹿馬鹿しくなってきた。
「だって天童“は”私の友達でしょ?」
ニッと笑いながらそんなことを言うと、天童は面食らったような顔をしていた。
「えっ…」
…あれ
「なんで素で引いてんの天童」
「いや…うん、そう!と、友達だよネ!俺たち」
天童の笑顔は若干引きつっていた。
「なんでこういうときばっかり一丁前に気遣ってんの!?」
「ギクッ!」
「ギクッて」
「ごめん俺、なんだかんだで正直者だから!本当ゴメン!」
「なんで本気で謝るの!?」
「は、ハハ…」
「え、えっ」
……あ、あれっ?
―――――
相手が男だったら単純な話。力尽くで理解させればいいだけのことだから。別に力尽くって言っても暴力だけが手段じゃない。むしろ暴力なんてやらかした日にゃ、監督から大目玉食らっちゃうだろうしネ。とりあえずなんとかして心を圧し折ればいいだけのこと。手段なんていくらでもある。この世に弱みのない人間なんていないでしょ?
一方で、女の子はちょっと困る。実は俺って案外紳士的な人間だったりする。あまり露骨に痛めつけるような可哀想なコト、とてもとても俺にはできない。
『俺、実は#NAME1#ちゃんが好きなんだよネ』
となると一番簡単で且つ確実な手段がこれだったりする。あえてちょっと切なそうな表情なんて作ったりしちゃったりして。そうなれば女の子はもう何も言わない。だって何を言ったところでもうどうしようも無いんだから。
となると女の子って不思議なもので、そんな“どうしようもない”感情が向く先って、一様に同じところなんだよね。
「ねぇ。ハンカチ落としたよ、“齋藤サン”?」
#NAME1#ちゃんはいつだってひとりぼっち。そしてそんな可哀想な#NAME1#ちゃんに優しく手を差し伸べるのは、いつだって俺。
なんだかそれって、まるでご先祖様たちにとうの昔に使い古された御伽噺みたいで、とっても素敵じゃないかな。
さしずめ#NAME1#ちゃんが塔に一人で閉じ込められたお姫さまで、俺はそこから救い出す王子様、ってところかな?
…さすがに王子様はあまりにも柄に合わないから、魔法使いとか正義の盗賊とか、まぁなんでもいいんだけれど。
…ともかく。そんな配役はもうとっくに決まっちゃってるんだから、横入りとかお断りしてるんだよね。ごめんね。
だから俺は、いつだって贋物の愛を囁いた後に、本物の愛を呟く。
…かくして#NAME1#ちゃんは、今日も俺の手によって無事に“ひとりぼっち”を貫くことができたのでした♪
めでたし、めでたし☆
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