・≒夢でまた会いましょう(req)
何に困っているというわけでもない。
特別実害があるわけでもない。
だからこそ、たちが悪い。
「や。奇遇だねぇ#NAME1#ちゃん」
「……お疲れ様です、天童さん。」
練習終了後、私はたしかにその人が、着替えを終えて「さぁ帰ろう」となっている状況を確認した後に校舎へと戻ったはず。別に校舎に用があるわけでも無かった。ただ、その人を撒くための手段としては最適だと考えたのだ。いや、最適というかむしろ私に思いつく手段はもはやこのくらいしか無かったのだ。これまで何度となく帰り道を全力疾走してみたけれども、それは全く意味が無かったのだから。
「一緒に帰ろ?」
「いえ、お気遣いなく」
「エンリョしないでよ。いつものコトじゃん?」
その人はそんなことを言いながらひたすら無邪気に笑ったのだった。
たまたま通りかかった守衛さんが、とても微笑ましそうに我々を見ていた。なんだか物凄く悔しい気持ちになったのだった。
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「こんな時間に学校戻って、何してたの?」
「……宿題、教室に忘れてしまったので」
「ふーん」
その人は少し口角を上げながらそう呟いた。きっと私のそれが嘘だということは一瞬で見抜かれてしまったのだろう。だからと言って今更何がどうなるというわけでも無いのだけれども。
この人は、どういうわけか私の行く先々に、必ずと言っていいほど現れる。無駄に大きなこの校舎内でたまたま遭遇する、という時点でどうかとは思うけれども、恐ろしいのがそれは校舎内に限らない、ということだった。
たまの休みに外出なんてしようものなら、ほぼ100%の確率で鉢合わせをしたりもする。それこそ、ここ最近で私は天童さんに会わない日なんて一切無かったように思う。
でも、だからと言ってそれで何かが起こるわけではなかったりする。毎回それこそ今現在のように、ただ生産性の無い会話をしながら肩を並べて歩くだけだ。だから特に問題は無い。そこがある意味では一番厄介なところだった。
別に私は天童さんに何をされたわけでもないから「やめてください」だなんて言いようもない。そもそも本当に偶然である可能性だってあるわけで、むしろ現実的に考えるといっそそちらのほうが信憑性も高かったりもしてしまう。
でも、バレーをしている天童さんの姿を毎日のように見ている立場から言わせてもらうと、この人に限ってはそんな「信憑性」だなんて概念、全く以て無意味なものだと感じてしまうのだ。つまりは全て、この人の推測の下に起こっていることのように思えてしまう。
いくら実害は無いとは言え、自分の行動がほぼ100発100中で推測されてしまっているだなんて状況、果たして不気味以外になんと表現したらいいのだろうか。
「おなか空いたねぇ」
「そうですね」
「何か食べてく?」
「家にごはんがあるので結構です」
「でもこの時間だと、家族とごはんの時間ズレるでしょ?俺と一緒に食べたほう楽しくない?」
「私、食事に楽しさは求めてないので大丈夫です」
「俺は求めてるの!」
天童さんは、口を尖らせながらそんなことを言ったのだった。
そんなことを言うのなら、普通に牛島さんたちと帰ればいいじゃないか。そんなことを言ってやろうと思ったけれども、やめた。この人との言い合いほど、無意味且つ疲れるものは無い。
「#NAME1#ちゃんって本当ドライだよね!若利くん以上だよ!」
「ウエットよりいいと思うんですけど」
「賢二郎並だよ!」
「光栄です」
ギャースカと騒いでいるその人を横目に、何度目か分からないため息が漏れた。きっと私は今、ひどくげんなりとした顔をしていることだろう。
「……天童さん」
「なに」
「今更ですが、私たち異常なほどよく会いますよね」
あまりにも疲れるものだから、私はとうとう核心に触れてみたのだった。
それを受けて一瞬きょとんとした後にニタァと笑った天童さんを見て、早速後悔した。
「なんでだろうねぇ?」
そしてひどく楽しそうな声色で、天童さんはそんなことを言ってのけたのだった。
あ、これ絶対あれだ。やっぱり私天童さんに行動ゲスられてる。そんな疑惑が確信へと変わった瞬間だった。
でもだとしたって、一体何が目的なんだろう。これと言って何をするわけでもないのに。
「……天童さん、何か私に用とかあるんですか?」
「別に~」
「……。」
「ただ、#NAME1#ちゃんと一緒にいるのは楽しいからねぇ」
「楽しい?」
いや、楽しくは無いだろう。だって基本的にいつもいつも一人で喋っている天童さんに対して私がすることは、適当な相槌と生返事くらいだ。塩対応が楽しいだなんて、天童さんはもしかしてM方面の人なのだろうか。いや、絶対にそれは無い。誰がどう見たってこの人はその真逆のプロトタイプだ。
「だってさ」
「……。」
「俺、何もしてないのにびびりまくってる#NAME1#ちゃんがもう、可愛くて可愛くて」
「は」
すぐには理解ができなかった。
でも少なくとも明確なのは、そのプロトタイプっぷりは私の予想をはるかに超えているであろう、ということくらいだった。とりあえずゾッとした。
「#NAME1#ちゃんって普段クールじゃん?だからなんかもうさ、そんな顔見せられたら本当にどうにかしちゃいたくなるよねぇ」
今、私が全力で走ったとして、天童さんから逃げ切れる可能性は果たしてどのくらいあるのだろうか。反射的にそんな疑問が即浮かんできた。でもそんなの、火を見るよりも明らかで、
「ぷっ。だから何もしないってば。本当可愛いよね#NAME1#ちゃんって」
「は、はぁ…」
ケタケタと笑いながらそう続けた天童さんに対して、本気で安心してしまった自分がいた。とりあえず、何かをされるというようなことは無いらしい。でもだからと言って不気味さが薄れるわけでは一切無かったりもするのだけれども。
でもそうだとしたら、相手は白布くんあたりでもいいじゃないか。白布くんなんて天童さんの言い分からしてみたら、天童さんにとってそれこそもってこいなひとだと思うのだけれども。でもまぁ、白布くんは日に日にあしらいも上手になってきているみたいだけれども。
「あ、今『なんで私?』って思ったでしょ」
「あの、いい加減本当怖いんですけれども」
「教えてあげようか?」
天童さんはにっこりと笑いながらそんなことを言ってきたのだった。最早恐怖しかない。
我に返ったときには、私は全力で頭を左右に振っていたのだった。
「俺、#NAME1#ちゃんが大好きなんだよね」
「は」
一瞬、頭が真っ白になった。
「もちろんビビッてる顔も好きだし、普段の生ゴミを見るような目も好きだし、たまにちょっと努力の方向間違えてるところとか本当大好き!」
「ど、努力の方向……?」
半ばパニック状態になっていた私は、取り急ぎ自分自身で心当たりの無い部分について確認を入れていた。
今気にすべきはそこじゃないとは思えど、一旦状況と自分自身を落ち着かせることを優先的に考えるとその選択は強ち間違ったものでも無いような気がした。
「うん。例えば、俺から逃げようとするための手段、とか?」
「は」
「俺、#NAME1#ちゃんの考えてることなんてすぐに分かっちゃうのにねぇ」
やっぱり、全部バレていたらしい。そこについては今更驚かない。避けていたことに気付かれた点に対して、ちょっと気まずく感じるくらいだ。
背筋が凍ったのは、そんなことを言いながらもなお天童さんはケタケタと笑っていることに対してだった。
そしてそうこうしているうちに、もう自宅の前へと辿り着いてしまったのだった。本来であればホッとすべき状況なのかもしれない。でも、ここで天童さんと別れてしまったらなんだか物凄く後味が悪い。きっと私は今日、夢にまで天童さんが出てくることを恐れて眠ることなんてできない。
「て、天童さん、あの」
「ん。じゃあねぇ、#NAME1#ちゃん」
「ちょっ、」
そして呼び止めるも、天童さんは早速踵を返して歩き始めたのだった。
なんでこの人はこういうときばっかりあっさりしているのだろう。もしかしてそれすらも推測のうちなのだろうか。
「あ、そうだ」
「!」
謎の絶望感に苛まれていると、天童さんは歩みを止め、振り返ったのだった。
一応はホッとしたけれども、辺りが暗くてその表情がはっきりと分からないことに、更なる不気味さを抱いた。
「お返事、期待してるからネ」
「へ、返事?」
「んじゃ、良い夢を♪」
心当たりの無い言葉に一瞬躊躇しているうちに、その人はスタスタと歩いて行ってしまったのだった。
私はひたすらに途方に暮れながら、ただただその背中を見守ることしかできなかったのだった。
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