・カスクドールは気付かれない(req)



「#NAME2#、手を出せ」

「?」


牛島さんから唐突にそう声を掛けられ、戸惑いつつも両手を差し出すと手の平にころんと何かが乗った。アメちゃんだった。


「!?」

「やる」


あまりにも牛島さんのイメージとミスマッチすぎるそれに驚愕していると、牛島さんはすぐに私に背中を向けてスタスタと歩いて行ったのだった。


「牛島さん、ありがとうございます。大切にします。」


戸惑いつつもその背中に向かってそう呟くと、牛島さんは顔だけをこちらに向けて「いや、普通に食べろ」と淡々と呟いたのだった。
何故いきなりアメちゃんを、とか、そもそも何故あの牛島さんがアメちゃんなんて持っていたんだろうなんて、いろいろと疑問が頭に浮かんだ。けれども次の瞬間、なんだか無性に叫び出したい気持ちに陥った。
ちょっとあまりにも可愛すぎないか牛島さん。これがギャップ萌えという奴なのだろうか。


「#NAME2#」

「?」


そんなことを考えつつしばしぼおっとした後に、再びまた別の方向から名前を呼ばれたのだった。振り返るとそこには真剣な顔をした瀬見さんが立っていた。


「やる」

「?」


瀬見さんが突き出した拳の下に既に飴玉が一つ乗っている両手を添えると、その上にごさっと10個程のキャラメルやらチョコレートの小さな包みが落ちてきたのだった。
今日、私は誕生日か何かだっただろうか。


「瀬見さん、ありがとうございます。嬉しいです」

「…おう」


なんなんだろう。私はそんなに物欲しそうな顔をしていたのだろうか。そうだったら恥ずかしいなぁなんて思いながらお礼を告げると、瀬見さんは満足げな顔をして立ち去って行ったのだった。



―――――――


「#NAME2#さーんっ!」

「?」

「勉強、教えて下さいっ!」


練習終了後。部室で部誌を書いていると、五色くんが切実な顔をしながら数学のテキストをアピールしてきたのだった。


「部活に備えて体力温存のために授業中寝てたら、全然ついていけなくなりましたっ!」


五色くんはテキストの確率問題のページを開いた。よくよく見ると“6!”に続くイコールの後に“ろくっ!”というインパクト大の文字が続いている。元気が良くて五色くんらしいなぁと思った。


「五色くん。まず、これビックリマークじゃないよ」

「えっ!?俺にはビックリマークに見えますよ!?」


五色くんはテキストを凝視した後に、顔を真っ青にしながらそんなことを叫んだ。まるで自分の目がおかしくなったんじゃないか、とでも言わんばかりに。
いやたしかに姿かたちはビックリマークなんだけれども、これは立派な数学的記号なわけで。そもそも何故先人は階乗を表す記号にビックリマークなんてものをあてがったのだろうか。たしか先生は「階乗はびっくりするほど数字が大きくなるから」だと言っていた。もしそれが本当なら、先人は些かお茶目すぎないだろうか。


「…………。」


そんなことを考えつつ五色くんに階乗とはなんぞやというところを1から説明していると、気付いたら私の隣りに瀬見さんが立っていたのだった。


「あ、瀬見さん。お疲れ様です」

「#NAME2#」

「はい」

「お前も勉強分からねーとこあったら言え」

「え」


ビックリマークの正体が分かるや否や、怒涛のスピードで鉛筆を動かし始めた五色くんを目の前にして、瀬見さんは唐突にそんなことを言ってきたのだった。
瀬見さんは、やっぱりセッターだから頭も良いのだろうか。そんな勝手なイメージは完全に白布くんの影響なのだけれども。


「いえ、とりあえず大丈夫かと…」

「遠慮すんな」


何故か瀬見さんは至極真剣な表情で食い下がってきたのだった。
なんだかそこまで言われると、この機会を逃すのは勿体無いことのような気がしてきた。


「じゃあ、お言葉に甘えて…」


いそいそと鞄から物理のテキストを取り出すと、瀬見さんは満足げにニカッと笑ったのだった。



―――――――



「#NAME2#って、鈍いよな」

「?」


一通り五色くんに数学を教え終え、瀬見さんに物理を習い終えると、牛島さんのスパイク練習に付き合っていたらしい白布くんが部室に入ってきたのだった。
曰わく、私は鈍いらしい。正直何が原因で白布くんがそんなことを言っているのかは、分からなかった。
白布くんは首にかけたタオルで額の汗を拭っていた。そこでふと、今丁度自分が手に持っていたお茶のペットボトルに目がいったのだった。


「白布くんお疲れ。飲む?」


つまりは、こういうことだろうか。たしかにマネージャーとして、汗だくの部員を前にして気が利かなかったかもしれない。
しかしてこういうときは、やっぱりスポーツドリンクのほうが良いのではないだろうか。うわぁやっぱり私鈍いなぁなんて思っていると、白布くんは一瞬きょとんとした後にニヤリと笑ったのだった。


「飲む」

「!?」


白布くんが私の差し出したペットボトルを受け取ると、どういうわけか瀬見さんが驚愕の表情を浮かべながら私と白布くんを交互に見ていた。


「え?どうしたんですか瀬見さん?」


白布くんは瀬見さんに向かってそう呟き、薄ら笑いを浮かべながらペットボトルの蓋を開けたのだった。


「白布、待て!」

「なんでですか。俺今めっちゃ喉乾いてるんですけど」

「俺のやるから!」

「え?いりませんけど」

「いいから待て!」

「どうしたんですか瀬見さん。焦っちゃって」


白布くんがニヤニヤしながらそう呟くと、瀬見さんはわなわなと震え始めたのだった。
うん、全く状況が読めない。
やっぱりあれだろうか。運動の後はきちんと電解質系のアレを摂取できるものを飲めということだろうか。
瀬見さんは、なんて後輩想いなんだろう。そんな二人を尻目に、いそいそとドリンクを作り始めてみたのだった。


「べ、別に焦ってはいねーけど…」

「そうですか。じゃあ」

「だから待てって言ってるだろ!」

「なんなんですかアンタ」

「なんでもねぇけど!」

「はぁ?」


なんだか白布くんが妙に楽しそうだ。よく分からないけれども瀬見さんが振り回されている気がする。
やっぱり同じポジション同士だと、いろいろあるのだろうか。


「白布くん」

「?」

「ドリンクつくったから、こっち飲んで」


そんなその子に向かってスクイズボトルを差し出すと、白布くんはじとりという視線を私に向けてきたのだった。
白布くんのそんな視線の意味が分からずふと瀬見さんに視線を移すと、今度は瀬見さんが勝ち誇ったような顔をしていた。


「分かったか白布。#NAME2#はこういう奴なんだよ」

「…………。」


瀬見さんが安堵の表情でそんな言葉を白布くんに投げ掛けると、白布くんはつまらなそうな顔をしていた。
とりあえず、瀬見さんの目に私はどんな人間として映っているのか物凄く気になった。


「あ」

「!?」


すると直後、白布くんはお茶のペットボトルに口を付け、中身を一気に飲み干したのだった。


「#NAME2#、ごちそうさま」

「え、あ、うん」


白布くんは何故か瀬見さんにどす黒い笑みを向けつつ、私にお礼を言ってきたのだった。


「白布、てめぇ…!」

「じゃあ瀬見さんも同じことすればいいじゃないですか」

「で、できるか!」

「何変に意識してるんですか?小学生男子ですか?」

「っるせーよ!」


そしてそんな口論が始まったのだった。
とにかく状況が読めない。
とりあえずは早速不必要になってしまったらしいできたてドリンクを、課題を終えて一息吐いていた五色くんに向かって差し出してみたのだった。


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―――――――

100000Hit御礼企画
テーマ:妬く瀬見さん

とりあえず階乗って、最近高校入ってから習うところもあるらしいという話を聞きまして

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