・取扱い注意!


「#NAME1#ちゃん」

「はい、なんですか天童さん」

「俺の、先輩としての最後のお願い、聞いてくれるカナ?」


最後、という響きに改めて目頭が熱くなるような感覚を覚えた。3年生の先輩方が引退してから、もう2か月は経とうとしているにも関わらず。やっぱりわずか半年間とは言え、ほぼ毎日顔を合わせていた人たちとなかなか会うこともなくなるというのは、ちょっと切ないところがある。
まさか天童さんの発言に対してしんみりとさせられる日が来ようとは、春高予選決勝の当日になるまで予想はできなかった。思えば天童さんには、なんだかいつもただただげんなりさせられていた。でもよくよく考えたら、それは3年生の、しかもスタメンであるような凄い人が、1年生のいちマネージャーでしかない私によく構ってくれていた証拠でもあるのだろう。やっぱり思い出って、後になって振り返ると相当美化されるらしい。


「……はい」


少し、声が震えた。天童さんは私のそんな心境を知ってか知らずか、邪気は微塵も無いような表情で笑ったのだった。その人のそんならしくもない表情を目の当たりにさせられて、喉の奥がきゅっと締まるような感覚を覚えた。


「あのさ、これから#NAME1#ちゃんの持てるもの全て使って、」

「?」

「工をちやほやしてくれないかな?」

「は」


その先輩からの「最後のお願い」は、そんなよく分からない内容だった。



_


五色工くん。正直なところ、私は彼が苦手だ。
もちろん、先輩方にからかわれているときの彼は、どこかコミカルだし可愛らしくも思う。でもなんというか、だからこそ普段とのギャップが物凄い。1年生の中にいるときの彼は、とにかくひたすら静かだ。それこそ私の立場であれば、声を掛けるのも躊躇するくらいの独特の雰囲気も持っている。ある意味では、やっぱり「エース」らしく、どこか牛島さんと似たオーラも持っているように思う。


「五色くん」

「……なんだよ」


とは言え、これはなんと言っても天童さんからの最後のお願いだ。蔑ろになんてどうしてできようか。部室のベンチに座って、静かに何かを考えているらしい五色くんに向かって私は声を掛けた。返事をくれた五色くんの声色は、なかなかどうして普段とは全く違った。
そう言えば今日も今日とて監督にいろいろとどやされていた。さすがにタイミングが悪かっただろうか。


「今日も五色くん、カッコよかった」


しかし私は、とりあえずはそんなことを伝えてみた。天童さんも「工相手にタイミングとか気にしなくていいから」と言っていたし。


「は?」


ところがその直後、五色くんは眉間に皺を寄せて私を睨み上げてきたのだった。うん。どうしてくれるんですか天童さん。怖いんですけど。


「なんというか、五色くんってやっぱり他の人たちとは違うよね。私の素人目でも分かるから相当なんだと思う。監督があれだけ五色くんに目をかけるのも分かる、っていうか…」


とは言えもう引っ込みはつかない。私は言い訳がましくもそんなことを続けた。まぁ言い訳も何も紛れも無い本心なのだけれども。
すると五色くんは、口の形を先ほどの「は?」の状態にしたままで、ぱちぱちと何度か瞬きをしたのだった。この間が、なんだかつらい。助けて天童さん。


「中学のときも、モテたでしょ五色くん」


そしていかんせん、数か月前にこの部のマネージャーになるまでは全くバレーとは無縁の人生を送っていた私には、「バレーに絡めてちやほやする」だけのボキャブラリーは、皆無だった。だから私は一般的な話に逃げた。


「そんなこと無いよ。多分」


すると少し、五色くんの声色が変わったような気がした。なんだなんだ、こんな私に話を合わせてくれるのか、五色くんは。思ったよりもいいひとなのかもしれない。


「いや、絶対モテてたと思う。陰で五色くんのこと好きだった子、たくさんいたと思うよ」


当然ながら私は、五色くんの中学時代を知るわけでも無い。だから想像に過ぎないのだけれども。でも五色くんって、背は高いしバレー強いし、あとそのアグレッシブすぎる髪型を以ってしても「イケメンだなぁ」と思うくらいには顔が整っているわけだから、私のそんな想像はきっと、一般論なのだと思う。
その後しばらくの間があった後に、五色くんは目をカッと見開いてハッと息を呑んだのだった。え、なにどしたの五色くん。


「#NAME2#、俺、全く気付かなかった…」

「?」

「ごめん」

「???」


なんだか急に謝られた。どうしよう。当事者にも関わらず全く話の流れが見えない。
五色くんはと言うと、ほのかに頬のてっぺんが赤いような気がする。そして口元を抑え斜め下を向きながら何かを考えていた。その仕草は、なかなかどうしてどこか可愛らしかった。


「…俺、#NAME2#のことあんまり知らないし、この場ですぐに返事するのは無理だ…」

「?」


五色くんは、一体なんの話をしているのだろう。


「だから少し、時間くれ…!!」


五色くんは立ち上がり、私の目をしっかりと見据えてそんなことを言ったのだった。本当にこの子、カッコいいなぁ。漠然とそんなことを思いつつも、それでもやっぱり話の流れは一向に見えてこなかったのだった。


「五色くん、やっぱりカッコいいね」


だからとりあえずは、思ったままのことを口に出してみた。とにかく思い立ったときにちやほやしておかないと、これは絶対不自然になるパターンだ。
すると五色くんは再び、雷にでも打たれたような表情をつくっていた。なんなんだろう。


「…#NAME2#、」

「はい」

「ごめん。俺、不誠実だった」

「え?」

「#NAME2#にそこまで言ってもらって、返事先延ばしにするとか、男として最低だ」

「先延ばし?」


ひたすら首を傾げていると、五色くんはすうっと息を吸い込んだのだった。


「俺と付き合ってくれ!#NAME2#!」

「えっ」


えっ


「…#NAME2#を惚れさせてしまったのには、俺にだって責任、ある」


なんだこれ


「だから、一生かけて責任とる!」


あの、


「#NAME2#、よろしく」


えっと、


「……うん、よろしく……」


どうしてこうなった。


.

ALICE+