・うちのエースが気を抜くとすぐにダークサイドに飛び込む件について
※8月2日時点でキャラ自体がネタバレです。どうかご注意下さい。
「………。」
「………。」
なんだか、物凄く見られてる気がする。
「………?」
「………。」
振り返ると、その子は無言でふいっと目を逸らしたのだった。
うん。私、この子に何かをしてしまっただろうか。いや、今日は特に会話すら交えていないはず。必死に記憶を辿りながら心当たりを探すと、またじとりという視線を感じたのだった。
この子は、変な目力がある。特に鋭いわけでも無いのだけれども。
「佐久早くん」
「なに」
「どしたの?」
「別に」
「そ、そう…」
まぁ本人がそういうなら気のせいなのだろうと、私は机の上に部誌を開いた。
と、ここでふと、今の自分の選択が間違いだったような気がした。根拠は分からない。でも、とりあえず恐る恐る後ろを振り返ると、どういうわけか案の定、その子はどんよりとしたオーラを纏っていたのだった。
うん。この子なんでいきなりネガティブスイッチ入ってるの?
いや、これは私が悪い。佐久早くんの人となりを多少なりとも理解している立場で、この子の「察してオーラ」をスルーしてしまったのは致命的なミスだろう。
「………。」
「佐久早くん。大丈夫…?」
「だからなんでもないって言ってるじゃん」
「ほんとに?」
「うん」
「…ほんとに?」
「……#NAME2#」
よし。意外とあっさり折れてくれた。とりあえずホッとした。
この子は本当に、変なところで頑固だ。一度自分の殻に籠るとなかなか出てきてくれない。
だからこちらが根気強く歩み寄る、というところはこの子のチームメイトを名乗る上では必須条件だ。
「今、夏だよね」
「そうだねぇ」
「夏って、虫出るよね」
「うん」
「虫って、たくさん菌持ってるよね」
「大丈夫だよー。ここには虫とかいないよー」
なんとなく、この子の言いたいことが分かったような気がした。よくよく考えてみると、人よりも体調管理については神経質な程にしっかりとしているこの子が、練習終了後に着替えもせずにぼーっと立っているような状況、おかしいとは思う。
「でもあいつら1cm弱の隙間からも入り込むって言うし」
「そうだねぇ」
私は立ち上がり、佐久早くんのロッカーを遠慮無く開けたのだった。
「…いない?」
「だからいないって」
恐らく佐久早くんは、どういうわけか自分のロッカーから虫が飛び出してくる状況を想像していたらしい。
そもそも私は、エースがこんなかんじの部のマネージャーを担っているわけだから、朝晩の部室内の掃除は隅々まで徹底して行うようにしている。そんな部屋に忍び込む虫なんて、よっぽどの物好きだと思うのだけれども。
とりあえず、その後無事に着替えを始めた佐久早くんの姿を見ながらホッと胸を撫で下ろしたのだった。
まぁ、さっさと部誌を書いて帰ろう。そんなことを思いながら再び机に向かうと、しばらくしてまた視線を感じたのだった。
「なに、佐久早くん」
「…なんでもない」
「本当に?」
「だからなんでもないって」
「本当?」
「…あのさ」
なんだかここまで来ると、いっそこの子って物凄く素直な子なんじゃないかなぁとか思い始めてくる。
「なに?」
だから私はしっかりと佐久早くんに身体を向けて、その子の目を見上げながら尋ねたのだった。
「ずっと気になってたんだけど」
「うん」
「#NAME2#、さ…」
「?」
佐久早くんは言いかけて、口籠ったのだった。何故か眉間に皺が寄っている。
「…いや、やっぱいい」
「わぁ、すごい気になる」
出たよ伝家の宝刀。これは少し面倒臭いパターンだ。
でも、この子の言う「やっぱいい」は、特に何一つ良いことは無かったりするのだ。ここはやはり根気強く食いさがらないと。
「うん。気にしないで」
「そんなこと言ったって、気になるよー」
「だって#NAME2#、絶対怒るし」
「私、佐久早くんには怒らないよー」
「…本当?」
「うんうん」
ここまで来て、ようやくこの子は話してくれる気になったみたいだった。いやむしろ話してくれる気はもとから満々だったが故のその思わせぶりな態度だったのだろうけれども。
本当にこの子は分かりづらい。
「#NAME2#」
「なに」
「Tシャツ、タグ付いてる」
………。
「…そういうことは早く言ってよ!!!恥ずかしいから!!!」
すぐさま襟元を確認すると、たしかにタグが付いていた。今思えばたしかになんかチクチクするなぁと思ってはいたけれども、おろしたてが故だと思って完全にスルーしていた。そうか、私は今日一日、このタグを付けたまま部活に勤しんでいたのか。なんだか年頃の乙女として物凄く恥ずかしくなった。
そしてハッと我に返り、私は佐久早くんの表情を確認したのだった。
「………。」
佐久早くんは下唇を噛みながら、再びどんよりオーラを発していたのだった。
…しまった。やらかした。
「え、ど、どしたの佐久早くん…?」
「なんで俺が怒られなきゃなんないの…」
「全然怒ってないよ!?むしろ感謝してるくらいだよ!?」
「怒ったじゃん」
「え、えっ」
「それでどうせ、俺のことも嫌いになったんでしょ」
「どういう経緯で!!?」
「やっぱ言わなきゃ良かった」
「さ、佐久早くん…!」
あー…。これは完全に、恥ずかしさのあまり取り乱してしまった私が悪い。
佐久早くんはと言うと、ひたすらぶつぶつと何かを呟いている。完全にダークサイドに堕ちてしまったようだ。折角今日は練習中、堕ちなかったのになぁ。
なんだか、物凄く申し訳無くなった。
「佐久早くん!」
「……なに」
「佐久早くんのこと嫌いな人なんて、いないよ!」
とりあえず、思うがままのことを叫んでみた。
だって実際にそうだと思う。その性格で、味方から慕われているって何気に物凄いことだと思う。まぁそれを口に出してしまうと「どうせ俺は性格悪いよ」みたいな感じで更にどん底に陥るから絶対に言わないけれども。
「…『嫌い』より『興味ない』ほうが深刻っていうよね」
「少なくともみんなキミには興味は津々だよ!?そこは自信持とう!??」
ああもう、これはちょっとやそっとのことじゃ復活しないパターンだ。なんだか頭が痛くなってきた。
でもまぁこのネガティブさこそが、この子のズバ抜けた強さの所以だったりもするわけだから、そこは絶対に否定をするつもりは無いのだけれども。
「だって#NAME2#も、何故かいきなり『みんな』を引き合いに出してきたし」
「へ」
「やっぱり#NAME2#、俺のこと嫌いになったんだ」
「………。」
「あ、むしろもともと嫌いだった的な…?」
………。
「わ、私は…!」
「?」
「私は、ずっと佐久早くんのこと大好きだよ!!!」
半ば自棄になりながら、そんなことを叫んだ。
うん。なんでいきなり私はこんな辱めを受けることになったのだろう。
佐久早くんはきょとんとしながら私を見下ろしていたのだった。とりあえず、物凄く消えてなくなりたくなった。
「#NAME2#」
「…ハイ」
「顔、めちゃくちゃ赤いよ」
「…気にしないでください…」
思わず片手で口元を覆いながら俯いた。
するとしばらくして、額にひんやりとした感覚が走ったのだった。
「解熱剤もあるよ?市販のだけど」
「…は」
「病院のやつは、やっぱり自分自身で処方箋もらったやつじゃないと怖いし」
ふと鏡を見ると、私の額には冷えピタが貼られていたのだった。
「ネギもあるけど、一応巻いとく?」
「なんで持ってるの!?」
なんだか、相変わらずツッコミどころが満載すぎる。
でも、どこか得意げにそんなことを言ってくる佐久早くんの姿に、改めてホッとさせられている自分もいるのだ。
だからとりあえず、今日のところはそれでいいか。
そんなことを思いつつ、私は佐久早くんに勧められるがまま、ネギを首に巻いたのだった。
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