・うちのエースが気を抜くとすぐにダークサイドに飛び込む件について 2
※9月17日時点でキャラクター自体がコミックス掲載前のネタバレです。閲覧ご注意下さい。
ここ数日間、気が気で無かった。悩みの種は、もちろんうちのエース関連だ。
ちなみにバレーの実力については申し分無いから、その点を私なんかが案じるのはむしろ恐れ多いことだとすら思う。だからそこは別にいい。不安なのは他でもなく、あの子の性格だ。
あの子がほぼほぼ初対面の人たちと一緒に数日間生活する。なんだか考えただけで私が吐きそうだった。いつも通りのテンションでそんな人たちと接して、ドン引きされていないだろうか。よもやいじめられたりしていないだろうか。そんなかんじで状況を想像しようものなら、部屋の隅で膝を抱えながらしょんぼりとしているあの子の姿に、最終的には行き着いてしまうのだ。
でも、そんなよく分からない不安からも今日でようやく解放される。佐久早くんたちの合宿は今日までだ。恐らくあの子のことだから、明日なんだかんだで練習には顔を出してくれるのだろう。監督からも休んでいい、とは言われていたけれども。そこで元気な姿を見ることができれば、それでいい。まぁ佐久早くんの元気な姿ってそもそもなかなか想像はできないけれども。要は普段通りのあんなかんじのテンションだったらそれでいいのだ。
「…なにサボってんの」
「!?」
そんなかんじで物思いに耽りながらぼーっとコート内を眺めていると、頭上からそんな気だるげな声が聞こえてきたのだった。文字通りすぎる「言ったそばから」のその子の登場に唖然としていると、その子は肩に掛けていた重そうな荷物を床に降ろし、私の隣に座ったのだった。体育座りで。
「あー…疲れた」
「さ、佐久早くんお疲れ!合宿どうだった!?」
「…別に」
「あ、そう…それは何より!」
そしてその子はやはりいつも通りに、そんなつれないことしか言わなかったのだった。なんだか心からホッとした。
「監督に挨拶とかしたほういいかな…」
「そりゃあそうしてあげたほうが監督も安心すると思うけど」
「…なんかめんどくさい…」
「まぁ、そう言わず」
とは言え、佐久早くんみたいないろんな意味で目立つ子がここでこうしていたら、監督のほうから気付いて然るべきだと思うけれども。
「さ、佐久早!?お疲れ!」
「…お疲れ様です」
そして案の定、早速気付いたらしい3年生の先輩が佐久早くんに声を掛けてきたのだった。
「いや本当…無事に帰って来てくれて何よりだ」
「?」
やはり佐久早くんに対して思うところは、声には出さずともみんな同じらしい。
「#NAME2#も、良かったな!」
「え」
「お前、佐久早のこと心配すぎてずっとそわそわそわそわしてたもんな!」
「べ、別にそんなこと…!」
うん。何言ってんだこの人。なんでそういうこと、佐久早くん本人の前で言うのかな。佐久早くんのような子にしてみたら、私みたいないちマネージャーでしかない人間に心配されたところで鬱陶しいだけだろう。実際「うわ、うざっ」とか思われてたらどうしよう。
恐る恐るとなりで体育座りをする佐久早くんの顔を覗き見るも、特に変わった様子はなくぼーっと明後日の方向を向いていたのだった。良かった。本当に良かった。
「練習落ち着いたら、監督にも挨拶しろよ!」
そしてその先輩は、そう言ってコートの中へと戻って行ったのだった。佐久早くんは小さな声で「えー…」と呟いていた。本当に相変わらず、無気力だ。でもダークサイドには落ちていない。私は改めてホッと胸を撫で下ろしたのだった。
「…というか#NAME2#」
「?」
「あのさ、もっとなんか無いの?」
「なんか…?」
そしてその後も、特に呼ばれることも無かったから私は佐久早くんと一緒にコートの中を眺めていた。するとふと、佐久早くんからそんなことを言われたのだった。なんだろう。これは暗に「もうちょっと俺をちゃんと労え」と言われているのだろうか。私はハッとした。
「さ、佐久早くん!本当にお疲れ!怪我とかない?風邪とかも大丈夫?肩とか揉もうか!?」
「そういうことじゃなくて」
「えっ」
そんなことを言ってはみたものの、佐久早くんの眉間にはむしろ皺が寄ったくらいだった。どういうことだろう。なんでいきなり不機嫌っぽくなってんだこの子。いや、これは私の気が利かなさ故のことかもしれない。となると「身体を労わる」以外のことだったら、他に何があるだろうか。
「もし洗濯物とかあったら、洗うけど」
「そういうのは自分でやるからいい」
「じゃあ…あれか!佐久早くんがいない間の練習試合の内容とか、見る?」
「どうせ勝ったんでしょ?だったら興味ない」
「だとすると…あ、授業のノート、見る!?」
「それは貸してもらいたいけど、でもそこじゃなくて」
「………!!!」
どうしよう。全く分からない。
そして佐久早くんの眉間の皺は、どんどんと深くなっていくばかりだ。ああこれ、来るか?ダークサイド、くるか?
「…もう、いいよ」
「!!!」
うわー。来た。ダークサイドもとい、しょぼくれモード。数日ぶりだ。いつも通りにハラハラはせど、なんだか妙な感動があった。良かった。佐久早くんは完全にいつも通りらしい。
いやでも、状況だけを考えると何もいいことなんてないのだけれども。
「佐久早くん、ゴメン。教えてくれると嬉しいな!」
「だから別にいいって」
「そ、そう言わず、」
「いいって」
「お、お願いします!」
「大したことじゃないから」
「…私の中に、佐久早くんが絡むことで大切じゃないことなんて、無いよ!」
「………。」
そこまで言うと、ずっと頑なだった佐久早くんがようやく口を閉じたのだった。
でもよくよく考えたら、私今、結構恥ずかしいことを言ってしまったんじゃないだろうか。なんだかそんなことを言ってしまったら、まるで私が佐久早くんのことを大好きなひとみたいじゃないか。否定はしないけれども、なんと言っても張本人相手に言ってしまったのだ。
一瞬で顔に熱が集まるような感覚がした。
「…#NAME2#」
「は、はい」
なんだか耐え切れなくなって顔を両手で覆っていると、佐久早くんから名前を呼ばれたのだった。その声色から察するにとりあえず、ダークサイドからは戻ってきてくれたらしい。それは良かったけれども、果たして私は何を言われるのだろうか。先ほどとは別の意味で身体に緊張が走った。
「#NAME2#は、俺のことが心配だったんでしょ?」
「う、うん…!それは、もう。ご飯もまともに喉を通らないくらいには…」
そこまで言って、私は心から後悔した。佐久早くんのネガティブスイッチは、どのタイミングで入るのか分かったもんじゃない。仮にそんなことを伝えてしまったら「どうせ俺はそんな心配されちゃうくらい頼りない人間だよ…」なんてなったところで、なんらおかしくはない。これは完全に失言だったかもしれない。
そんなことを思いながら佐久早くんの表情を即確認するも、今ほどと特に変わりは無かった。良かった。これはまだセーフだったらしい。
「…でもさ」
「?」
「その割には、反応薄くない?」
「え」
「……俺、帰ってきたんだけど」
佐久早くんは、ボソボソとそんなことを呟いたのだった。
正直意味が分からなかった。純粋にその言葉だけから判断すると、要は「もっと盛大に俺の帰還を喜べ」ということになってしまうのだけれども。うん、何を言っているのだろう、この子は。もしもこの子の意図するところの解釈がそれで正しかったとしたら、些か可愛すぎるんじゃないだろうか。
なんだか心臓ががしっと鷲掴みにされたような感覚だった。
「佐久早くーん!!会いたかったよー!!心配したよー!!」
「へぇ」
「他の学校のひと、怖くなかった!?いじわるされなかった!?」
「別に」
「良かったー!!ご飯とか、ちゃんと食べてた!?なんかよく見たら少し痩せたような気がする…」
「まぁそれなりに」
「じゃあさじゃあさ!今日夜ごはん一緒に食べに行こうよ!佐久早くんの慰労会ということで!」
「…うん」
私は終始佐久早くんの頭をこれでもかとわしゃわしゃ撫でながら、そんなことを矢継ぎ早に伝えた。すると佐久早くんは、どこか満足気に頷いてくれたのだった。とり急ぎ、私の対応は急ごしらえにしては及第点だったらしい。
今日も今日とてうちのエースは、めちゃくちゃ分かり辛くて、且つめちゃくちゃ分かりやすかったのだった。
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