・罪と呼ぶには理不尽すぎる(req)
目が二つあって、鼻と口が一つずつある。私はその点、紛れもなく普通の人間だと胸を張ってアピールできる。
そうだ。ただ持って産まれたその形や位置とかがたまたまこれだっただけで。
だから私は何も悪くない。親も悪くない。
この理論は、我ながらしっかりと筋が通っていると思う。だから、落ち着け。
「・・・何、これ」
朝登校すると、私の机と椅子が昨日とは180度様相を変えていた。
なんというか、一言で言うとロココ調なのだ。アンティークという奴だろうか。
なんとも温かみのある木製の机が並ぶなかで、一際映える白。よもやこれ、大理石という奴ではなかろうか。そしててらてらと輝く背板と座に施されたクッションらしきものは、もしかして本革という奴じゃなかろうか。
・・・この学校には社長令嬢や御曹司も多いと聞く。きっとその方面にこだわりの強いこのクラスの誰かが、自分の席と間違えて私の席にこれを置いたのだろう。そうに違いない。そうと信じたい。
そうと決まれば気安く触れるわけにもいかない。だってよく分からないけど物凄くお高いんでしょう?こういうのって、
「#NAME1#さん、やっぱりお似合いね・・・!」
「さすが『宮城の奇跡』・・・!まるでここが18世紀フランスのようだ・・・!!」
「いやいっそ絵画でしょう・・・!!」
「ああ早く優雅に腰かけて頂けないかしら・・・!!」
ざわつくクラス内を恐る恐る見渡すと、クラスメイトたちが一斉にこちらに向かってスマホを構えていた。
「・・・・・・。」
ブルジョワジーたちのいじめって、こんな感じなのだろうか。
少子高齢化のあおりを受けに受けた宮城の片田舎で育ち、保育園から中学までをほぼ同じ面子の友人たちと過ごしてきた私には、そんな疑問に対する答えなんて見つけられるはずもなかったのだった。
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放課後、げんなりとしながら廊下を歩く。
仕方なく今日一日お世話になったロココ調の椅子と机は、信じられないくらいに快適だった。やっぱり高級家具には、見た目だけじゃない機能性も兼ね揃えられているらしい。
私は貴重な体験をした。そう思い込むことにしたのだった。終始木製の椅子と机が羨ましかったけれども。
それにしても、この廊下にはレッドカーペットなんて敷かれていただろうか。上履きを介してふかふかとした感触が執拗に足の裏に伝わってくる。
なんというブルジョワジーっぷり。私の母校は歩く度に床板がきしむくらいのレベルだったのに。入学して数か月。私はこの年齢で経済格差という奴をまざまざと痛感させられていた。
「#NAME1#さん!!」
「ハイッ!?」
そしてそのカーペットに足を取られそうになりながら歩いていると、目の前に花束を持った人達が10名程度、いつの間にやら現れたのだった。
「どうぞ、お好みのお花をお選び下さい!」
いきなり、そんなことを言われても。
なんだろう、この人たちは園芸部か何かなのだろうか。眼前にはなんだかひたすら高級そうな花が並んでいた。バラだけ、辛うじて名前が分かった。
「ひ、人違いです・・・!」
たしかお花って、物凄く高かったはずだ。幼少の時分、母の日にお花屋さんにカーネーションを買いに行って愕然とした記憶がある。
そんなものを、どうして顔も名前も知らない人たちからおめおめと受け取ることができるというのだろうか。私は頭を下げた後、その人たちを掻い潜って走った。
「やはりこの程度の花では、#NAME1#さんの美しさの前では雑草も同じか・・・」
なんだか背後からとんでもない呟きが聞こえてきたような気がする。
気のせいだと思い込みつつ、私は再び昇降口を目指して走った。
「・・・!!!」
ようやくたどり着いた昇降口。自分のものであるはずの靴箱にはこれまた高級そうな封筒が、ところ狭しと詰め込まれていたのだった。
とりあえずそれらをカバンに急いで詰め込み、靴箱からローファーを取り出す。するとどういうわけかそのローファーは眩しいくらいにピカピカに磨かれていた。取違いを疑うも、その内側には祖父の書いた「#NAME2##NAME1#」という無駄に達筆な筆文字がたしかに書かれていた。
なんなんだこれ。怖すぎる。
-
「・・・お疲れ様です・・・」
そしてようやく部室へと辿り着く。
この部にマネージャーとして入部してからまだまだ日も浅い。未だに一人で部室に入るのはどうも緊張してしまうけれども、なんだかようやく気の置ける持ち場に戻ったような、そんな妙な安心感を、ここには抱きつつあった。
「お疲れー」
「お疲れ様」
「お疲れ様ですっ!!」
中には既に川西さん、白布さん、五色くんの3人がいた。
こちらには目もくれず、淡々と着替えを進める彼らの姿に、どういうわけか思わず泣き出したくなる程ホッとさせられたのだった。
「白布さん!昨日頼まれた先週末までの練習試合のスコア集計、作ってきました」
「え、早っ。助かる。」
「川西さん!昨日タオルお忘れだったので、洗って持ってきました」
「あ、まじ?ありがとー」
「五色くん!お勧めしてもらったシャンプーめちゃくちゃ良かったよ!ありがとう!」
「そうですか!それは何よりです!」
ああ、まともに会話が成立している。
そんな当たり前のことが、どうしようもなく幸せだった。この学校に入学してから、それすらままならない毎日が続いていたのだから。
ただ、3人とも頑なに目を合わせてくれないことだけは物凄く気になるのだけれども。
「お疲れ様でーす」
「あ、柴田くん!お疲れ様です!」
「!?」
そこに入ってきたのは、同学年の柴田くんだった。勢いよく振り返ると、まともに目が合ったのだった。
するとどういうわけか、柴田くんはドアノブに手を添えたまま固まってしまったのだった。
何が起こったのか理解ができず、恐る恐る振り返ると、もともと部室内にいた3人はぎょっとしたような顔をしていたのだった。
「柴田、大丈夫か」
「へっ」
そしてすぐさま、顔を青くした白布さんが柴田くんに駆け寄ったのだった。
「今のは仕方ないよ。柴田、お前は悪くないから早く戻ってこい」
間髪入れずに川西さんがそう呟いた。
「いかなるときも、油断は大敵ですよ!」
五色くんは両の拳をぐっと握りながらそんなことを呟いたのだった。
「・・・くうっ・・・!!」
思わず目に涙が浮かんだ。
やっぱり私の存在は、この学校にいる限りどこに行っても迷惑でしかないんだ。中学時代までが物凄く恋しい。だって周りはみんなきょうだいみたいなものだったから、私の姿を見てそんな反応をするような人間、誰一人たりともいなかったのだから。
私はこの顔のせいで、このままごくごく普通な人生すら送れないというのだろうか。中学の先生は「高校は楽しい!」と受験期毎日のように言っていた。果たして私に、そんな華々しい高校生活なんてこの先待っていてくれるのだろうか。
「泣くなよ#NAME2#・・・お前も悪くないから、」
思わずその場にうずくまっていると、頭上から白布さんのそんな声が聞こえてきたのだった。私は来て早々、なんという醜態をさらしてしまっているのだろう。情けなくて更に涙が溢れたのだった。
「美人すぎるのも考えものですね!#NAME2#さん!」
そして五色くんのそれは、はたして励ましなのだろうか。いやきっと、五色くんのことだからそのつもりなのだろう。五色くんは同級生の中で唯一、こんな私とまともに会話を交わしてくれる人間だ。いい奴なのだ。目は合わせてくれないけれども。
「お疲れー。ん?どうしたお前ら。後輩いじめか?」
「!!!」
そしてそこに、とんでもなく優しい声が響いたのだった。それを聞くだけで心が一気にじんわりと温かくなるような、そんな声。
思わずがばりと顔を上げた。
「・・・!#NAME2#さんの泣き顔・・・!!?」
とりあえず柴田くんが再び固まってしまったのだった。
「いつも大変だな、#NAME2#は」
その人はにっこりと微笑みながら、私の頭を撫でてくれたのだった。しっかりと、目も合わせてくれている。
「・・・大平さん・・・!!」
いよいよ本格的に感極まってしまった。だらだらと両目から涙が零れた。
でもそんなことを気にしてなんていられない。大平さんと会話ができる、一日の中でも限られたチャンスなのだから。
「女の子が、簡単に男の前で泣くもんじゃないよ。ほら」
「すみませっ・・・!!」
大平さんは相変わらずの素敵な笑顔で、有り難い教えと共にハンカチを差し出して下さったのだった。
菩薩だ。この人は絶対に菩薩様の化身だ。なんだか一気に幸せな気持ちになったのだった。
「あ、そうだ#NAME2#」
「は、ハイッ!」
「そろそろ物品も切れそうな頃だから、一応数を確認しておいてもらえる?」
「はい、もちろんです!」
「よし。あ、あと今日体育館の点検があって練習早く終わるから、もし#NAME2#の予定が大丈夫なら一緒に買い出しに行ってもらえないかな」
「え、お、大平さんとですか・・?」
なんということだ。それじゃあまるでデートというやつみたいじゃないか。しかも、まさかの大平さんと。天にも昇る気持ち、というのはこういうもののことを言うのだろうか。
しかし、よく考えたら大平さんはこの強豪校の副部長で、レギュラーで。そんな人にそんな雑用のようなこと、させてもいいのだろうか。
「一応監督にも俺から言っておくから。まぁ新入生なんだから一丁前に先輩に変な気、遣いなさんな」
ああ、神様。私はこんなに幸せでいいのでしょうか。いやむしろ、大平さんがここでいう神様なのでしょうか。とにかく私は今、大平さんに対してひれ伏したい気持ちでいっぱいだった。
きっと私はこの先、この顔のせいでどんなに苦労をしても大平さんさえいればプラスマイナスプラスのメンタルで乗り越えていける自信がある。来年以降のことは今は考えたくもないけれども。
「ありがとうございます!では私、早速物品確認開始しますね!!」
「おう、頼んだよ」
大平さんは最後の最後まで、笑顔でいてくれたのだった。
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「白布さん」
「なに、柴田」
「大平さんって、すごいですね」
「・・・俺の予想に過ぎないけれども、」
「?」
「大平さんってなんか全てを超越してるかんじがあるから、#NAME2#とか小学生くらいに見えてんじゃないかと思う」
「・・・なんか納得ですけど、#NAME2#さんは結局苦労しそうですね・・・」
「美人って大変なんだな。#NAME2#見て初めて知った」
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テーマ:美少女主人公白鳥沢夢(獅音さん落ち)