・敵と王子様は水面下5(req)


「#NAME1#ちゃん、そこ公式違う」

「え、どこ?」

「ここ」

「あ、ありがとう。さすが」


練習終了後。私は部室にて、天童くんと一緒にテスト勉強をしていた。
このときばっかりは、天童くんと同じクラスで良かったと思う。私はどうも数学が苦手だ。天童くん曰く「#NAME1#ちゃんって、本当に出題者の思惑通りになっちゃってるよね」だそうだ。
白鳥沢の3年生のテストは、進学校なだけあって難関校の入試問題を参考にしたものが出題されたりもする。これも天童くんに言わせれば、「普通に授業受けてれば解けるデショ?」だそうだ。授業の問題とは、全然違うのだけれども。やっぱり天童くんは頭の回転が速いらしい。そう言えば前回のテストのときだって、数学に限って言えば学年平均点が50点そこそこだったにも関わらず、一人満点を取っていた。やっぱりこの子は、普通の思考回路してないなぁと感じたのだった。


「…で、さぁ」

「?」


そんなかんじで天童くんに教えてもらいながら、先生から配られたテスト対策の問題を解いていると、天童くんはふとシャーペンを机の上に転がした後に後ろを振り返ったのだった。いや、振り返ったというか、身体は正面に向けたまま首だけをぐりんと後ろに倒していた。頸椎柔らかいなぁ。


「なんで俺何もしてないのに睨まれてるのかなぁ、太一?」


天童くんの表情はこちらからは見えなかったけれども、なんだかニヤニヤ笑いを浮かべているような気がした。口調が、そんなかんじだった。あと、川西くんが明らかにイラッとしたような表情を浮かべていたことから見ても、きっとそうなのだろう。


「別に、睨んでなんていませんけど」

「えー?そんなこと言ったって、俺背中に第三の目あるから丸分かりだよー」

「ああ。やっぱりそうなんですね」

「いや、そこはツッコんでよ」


たしかに天童くんの洞察力を考えると、むしろ本当に背中に目があると言ってもらえたほうが現実的なような気もする。本当にすごいな天童くんって。妖怪みたい。
それにしても、たしかに言われてみるとなんだか今日の川西くんは、少し怖いような気がする。普段と何が違うかと聞かれればよく分からないけれども、なんとなく、オーラがどす黒いような気もするのだ。


「あ、太一もしかしてやきもち焼いちゃったー?そうだよねー今日はさすがに俺の邪魔すること、できないもんねぇ」


それにしても天童くん、その体勢辛くないのだろうか。なんだか切実にその首が心配になった。


「邪魔?なんのことですか?」

「え、それ、聞いちゃう?聞いちゃうの?」


川西くんの頬が若干ひくついたような気がした。それだけで天童くんの今の表情が想像できた。なんだか今日、天童くんやけに川西くんにつっかかるなぁ。これも仲が良い証拠なんだろうけれども。


「とりあえず天童さんが真面目に勉強している姿に、度肝を抜かれました」

「うん。少なくとも度肝を抜かれたって顔はしてないよね太一」

「あ、俺生まれつきこんな顔なんで」

「ふーん」

「そして天童さん、その体勢きつくないんですか?」

「え?だいぶキツイけど」


あ、やっぱりキツかったんだ。良かった、天童くんも人間だった。
それよりも、そろそろ私も勉強に戻らないと。天童くんは全然余裕だと思うけれども、私はそういうわけにはいかない。不器用な分、集中力には自信が無いこともないから、ちょっと本腰を入れて頑張ろう。


「でもさぁ、俺だってさすがにこういうときは真面目になるよ」

「そうなんですね」

「なんてったって、#NAME1#ちゃん今回は身体でお返ししてくれるらしいからネ」

「……は?」

「わぁ、太一こわーい」

「…いや、さーせん。つい真に受けました」

「え?別に冗談じゃないよー?ね、#NAME1#ちゃん?」

「…え?」


ふと、名前を呼ばれたような気がしてノートから顔を上げた。するとまさに天童くんがぐりんっと顔をこちらに勢いよく戻す瞬間とバッティングしたのだった。
びっくりした。心臓が口から出るかと思った。


「ね、そうだよね#NAME1#ちゃん?」


そして、同意を求められたのだった。
うん。どうしよう。全く話を聞いていなかった。


「え、あ…うん」


とりあえず今は時間が惜しい。だから取り急ぎそんな生返事をしてみると、何故か川西くんがはっと息を呑んだような気がしたのだった。あれ、これまずかったんだろうか。
まぁ、いいや。そんなことより勉強勉強。


「ほらねー!」

「………。」

「ちなみに、別に何かを手伝ってもらうとかそういうことじゃなくて、太一が今考えているのと同じ意味だからー♪」

「………。」

「でも、折角だから趣向を凝らしたいよねぇ?どうしよ、#NAME1#ちゃんに本格的な恰好でもさせてみる?」

「………。」

「そうだねぇ…例えばエプロン一枚とかどうかなぁ?太一はそういうの好き?」

「………。」

「もう!太一聞いてる!?」

「…はい、まぁ」

「声低っ!そんなに怒らないでよ〜。太一がどうしても、って言うなら…」

「………。」

「…太一も混ぜてあげるから、ネ?」

「………。」


私はそのとき、三次関数と戦っていた。そいつがこれまた思いの外強くて、頭を抱えていると、突如前方から天童くんの気配が消えたのだった。


「……え?」


不審に思いまた顔を上げると、そこには天童くんを抱えながらブリッジしている川西くんの姿があったのだった。つまるところ、バックドロップの体勢。続いて天童くんの座っていたはずの椅子が、静かに後方に倒れたのだった。


「…すごい、大技…」


私は思わず、拍手を送ってしまっていた。
それにしても、うちのミドルブロッカー勢、些か背筋が柔らかすぎないだろうか。やっぱり日頃からあれだけ念入りにストレッチもしていると、そうもなるんだろうか。どおりで彼らは怪我も少ないはずだ。感心してしまった。


「#NAME2#さん」

「か、川西くん…ブラボーだけど、それ、天童くん生きてる…?」


川西くんは天童くんの身体をぺいっと横に転がすと、私のほうに歩み寄ってきたのだった。
天童くんは、完全にノビているのかぴくりとも動かなかった。


「あ、大丈夫です。床に頭打ち付ける直前で寸止めしたので。精神的なアレじゃないですか」

「すごい、川西くん。もはや職人技だね」

「ありがとうございます」

「……?」


川西くんはいつものような柔らかい口調でそう呟いたのだった。でも、なんというか、目が据わってるような気がする。


「#NAME2#さん。あの、天童さんに勉強教わるの、やめてもらえませんか」

「え、なんで…?」

「俺の心臓と、頭の血管が持ちません」

「どういう仕組みで!?」


そう言いながら眉間に皺を寄せた川西くんは、どういうわけかいつになく切実なような気がしたのだった。


「お願いします、#NAME2#さん」


ともかく、川西くんからこんな形で「お願い」をされてしまったら、私にそれを無碍にすることなんてできるはずが無い。
でも、そうなると私は独学で数学を倒さなきゃならなくなるのか。いや、そもそも勉強において誰かに頼ることを前提としているところからして私はダメなのかもしれないけれども。でも果たしてそれで、テストまで間に合うのだろうか。


「…う、うん。分かった…。」


そんな不安を抱きながらも、とりあえずは川西くんにそう返事をしたのだった。うん、でもこれ、どうしよう。
まさか今後、こんな時間にクラスの友人に教えてもらうわけにもいかないし。やっぱり、独学しかないのか。そんなことを考えていると、川西くんが二度ぱちぱちと瞬きをしたのだった。


「…#NAME2#さん」

「な、なに?」

「#NAME2#さんが今勉強している範囲、数学のなんて分野ですか」

「え、三次関数…」


とりあえずは聞かれたとおりのことを答えると、川西くんは一瞬顎に手を添えた後にバッグから携帯を取り出したのだった。


「あ、もしもし賢二郎?うん、お疲れ。ごめんね遅くに。あのさ、賢二郎、数学の三次関数って分かる?あ、そう。いやあのね、今#NAME2#さんが天童さんにそれ教わっててさ。え?あ、そう。分かった。助かる」


そしてほんの数秒間で通話を終えると、川西くんはどこか満足気な表情で私を見たのだった。


「?」

「#NAME2#さん、賢二郎が今から戻ってきます」

「え、今から!?」


時計を確認すると、もう既に22:00。きっと白布くんはもう寮でゆっくりとしていた時間なんじゃないだろうか。しかも、もしかして、


「賢二郎、部活に支障無いようにって高校3年間の範囲はもう全部網羅してるみたいです。アイツ本当頭いいんで、安心して下さい。」

「で、でも私、後輩に勉強教わるの!?」


いくら相手が白布くんとは言え、それはあまりにも情けないし申し訳ない。そんなことを思いながら川西くんを見上げると、その子はニッと微笑んだのだった。


「#NAME2#さん。後輩って、先輩に頼られるの物凄く嬉しいんですよ」

「え?」

「実際賢二郎も、食い気味でしたし」

「………。」

「ちょっと俺らに、付き合ってやってもらえませんか?」


なんということだろう。


「う、うん…!!川西くん、ありがとう…!!!」


私、ちょっと後輩に恵まれ過ぎてやしないだろうか。
思わず感動で、目に涙すら浮かんできたのだった。


「礼なら、賢二郎に言って下さい」


そして川西くんは少し苦笑いを浮かべながらそんなことを言ったのだった。

その後、程なくして白布くんが部室に現れ、それはもう熱心に勉強を教えてくれたのだった。やっぱり先輩としての情けなさは拭い切れなかったけれども、白布くんの一生懸命な姿やその間もどういうわけか付き合ってくれている川西くんの姿に、物凄く励まされたのも事実だったりする。ちなみに天童くんはその間ずっとノびていた。

ともかく、今回のテストはどうにかなってくれそうだなぁなんて、私は人知れず確信したのだった。


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200000Hit御礼企画
テーマ:水面下シリーズ 川西相手

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