・敵と王子様は水面下4(req)


「あーあ、また100本サーブさせられたよー」

「天童くん、お疲れ・・・」


部室に戻ってきて早々、背中を丸めながらぐったりとする天童くんに対し、私は何の気無しにそんな労いの言葉を投げかけた。すると、どういうわけか天童くんは私をじとりと睨んできたのだった。
まるで100本サーブをさせられたのは私のせい、とでも言ったような、ひどく憎たらし気な表情だ。何も後ろめたいことは無いはずなのに、反射的に身体がびくりと跳ねたのだった。


「#NAME1#ちゃんが、気を利かせてパンツ見せてくれないせいだよ!」

「私はどう気を利かせたらそういう発想に至れるの!?」

「もっとさぁ、マネージャーならチームメイトの需要に意識を傾けようよ!」

「天童くんの求めるマネージャー像って超能力者!?」


今日も今日とて、天童くんの言うことは悪い意味で次元を超えている。しかして彼は常にさも「当然のことでしょ?」的なスタンスで来るものだから、私も相変わらず錯覚的なものを抱きそうになってくる。
私は、自分が騙されやすい人間だということを自覚している。しかし、だからと言って自分の常識感覚に自信が無いわけでは無い。情けないことに後輩からも何度となくお叱りを受けてきたということもあって、最近はようやく天童くんからのぶっ飛び発言についてもしっかりと対応できるようになってきたと感じる。
そんなことを考えていると、天童くんから盛大なため息が漏れたのだった。


「ねぇ、英太くん」


そして次にその口から飛び出したのは、同じく100本サーブを経て今まさに床にぐったりと仰向けで寝そべっているチームメイトの名前だった。


「・・・なんだよ・・・」


それを受けた瀬見くんの口からは、いつものような覇気は微塵も無い声が出たのだった。
瀬見くんは、所謂「ジャンプサーブの人」だ。恐らくこのペナルティにおいて、誰よりもハードな思いをするのは紛れも無く彼だろう。ともすれば、一試合こなす以上にしんどかったのではないだろうか。それでもしっかりと時間内にそれをこなした彼には、最早称賛の言葉しか出てこない。


「女の子のパンツって、男だったらテンション上がるよねぇ!?」


そして天童くんは、瀬見くんの近くでしゃがみ込み、瀬見くんに対してそんなよく分からない内容の同意を求めていたのだった。


「・・・あぁ、そうだな・・・」

「ほらぁー!!!」


瀬見くんは、再び消え入りそうな声でそんなことを呟いたのだった。それを受けた天童くんは、「言質得たり!!」と言わんばかりのテンションで私のほうを振り返ったのだった。


「・・・天童くん」

「さぁ、この疲労困憊の英太くんを慰めるためにも早く!!一刻も早く!!!」


・・・・・・。


「瀬見くん疲れてるから、そっとしといてあげよ?ね?」


さすがに私の目から見たって、瀬見くんの言葉は生返事もいいところだったと思う。きっと天童くんの言葉の内容や意味なんて、今の瀬見くんの脳には届いていないことだろう。


「・・・チッ、」


そんなことを伝えると、天童くんは私を見ながら真顔で舌打ちをしたのだった。天童くんの真顔舌打ち、本当に怖い。こんな理不尽なことってあるのだろうか。


「・・・肩が、もげた・・・」


天童くんとそんなやり取りをしていると、瀬見くんのほうからこれまた悲痛な訴えが聞こえてきたのだった。見た限りだと瀬見くんの右腕は、しっかりと彼の身体にくっついている。少なくとももげてはいない。でもきっと今、彼の身体はそんな比喩すら洒落にならないくらいの疲労感に苛まれているのだろう。それなのに、一瞬とは言え変なやり取りに巻き込んでしまった。なんだか申し訳無くなったのだった。


「!」


するとその直後、なんとなく天童くんの頭上で突如現れた電球が光ったような気がしたのだった。まぁ、これはさすがに比喩にすぎないけれども、とりあえず天童くんは何かを思いついたような表情をしてみせたのだった。
天童くんがこの表情をするとき、ろくなことが起こった試しは無い。嫌な予感がした。


「ねぇ、#NAME1#ちゃん」

「な、なに?」


そしてそれに拍車をかけるように、天童くんは私を見ながらニタァという笑みを浮かべたのだった。
反射的に、身構えた。さすがに無いとは思うけれども、ジャージをずり下げられないように念のため自らのジャージを掴んだ。この子のことだ、今更何をしてきたところでおかしくない。チームメイトに対してそんなイメージを抱くのは如何なものかとは思えど、私は息をのみながら彼の次の言葉を待った。


「英太くんの肩、揉んであげてよ」

「・・・え?」

「しんどいみたいだから、ね?」


思わず、拍子抜けしてしまった。
天童くんの口から飛び出したのは、いつものような下世話な言葉なんかじゃなく、チームメイトを労うなんとも温かなものだった。
そうだ。そもそも天童くんは、常に周りをしっかりと見ているような人だった。後輩たちになんかには特に、一見それには見えない気遣いをさりげなく進んでやるような、そんな一面もある人だった。
私は自分を恥じた。天童くんのぶっとび発言の数々に翻弄されるばかりで、マネージャーとして今目の前で倒れている瀬見くんのために何かをしよう、という意識が完全に抜けてしまっていたのだ。チームメイトの需要に意識を傾けよう、という先刻天童くんから言われた言葉が再び脳内に過った。そうか。天童くんは、最初からもしかしたら暗にこのことを示唆していたのかもしれない。こういうときはほっとくのが一番、といういつの間にやら身についてしまった固定概念のせいで、私はそもそも「何かをしよう」という考えにすら至らなかった。
これは、反省しなければ。
私は早速天童くんに対して頷いたのだった。


「でも、天童くん」

「なぁに?」

「今の瀬見くん、起き上がらせるのも可哀想だよね」

「そうだね」

「どうやって肩揉もう・・・」


そんなことを相談してみると、天童くんはにっこりと笑ったのだった。


「跨れば?」

「?」

「だから、英太くんの上に跨って、上から覆いかぶさる形で正面から肩揉むの!」

「なるほど」


そうか。どうしても他人の肩を揉もうとすると背後に回らなければ、という固定観念があったけれども、正面からでも効果があるのか。たしかに自分の肩を揉むときも、手は正面から後ろに向けられる形となる。それに、実際にスポーツマンである天童くんがそう言うのだからきっと間違いは無いだろう。
納得するや否や、私は相変わらず仰向け大の字で横たわっている瀬見くんのお腹あたりに跨ったのだった。


「瀬見くん、失礼しますね」


そして瀬見くんの両肩にそれぞれ手を置き、まずは軽めに揉み始めたのだった。


「・・・#NAME2#、助かる・・・」

「それは良かった」

「・・・もうちょい強くても、いいかな・・・」

「こう?」

「・・・あ、丁度いい・・・。お前は将来いい孫になるだろうな・・・」

「今後新しく孫になる機会はそうそう無いと思うけど・・・」


瀬見くんの肩は、筋肉のせいもあるんだろうけれども、ガッチガチだった。更にこの体勢で、となるとなかなか私のほうもしんどいかもしれない。
でも、チームメイトのためになるのであればと、私は一心不乱にその肩を揉み続けたのだった。


「スキャンダル写真、ゲット☆」

「?」


そんなことをしていると、天童くんのいるほうから軽快な電子音が一瞬聞こえたのだった。ふとそちらのほうを振り向くと、天童くんはスマホを構えていたのだった。
なんか、写真を撮られたらしい。でもそれどころじゃなかった。瀬見くんから「いい孫になれる」という有り難い言葉まで貰ってしまった以上、私は今、瀬見くんの肩をほぐすことに全神経を注ぐべきだろう。
その間にも、軽快な音は何度か聞こえてきたのだった。


「お疲れ様です・・・」

「あ、太一!お疲れ!見て、あの二人!」

「?・・・・・・は」

「大スキャンダル、だよね!!」


「?」


ふと、後輩の声が聞こえたような気がしてドアのほうを向いた。
するとそこには、口を開けながら呆然と立ち尽くす川西くんの姿があったのだ。視線は、真っ直ぐこちらのほうを向いている。


「ちゃんと証拠も撮ったよん☆」


そして天童くんは、普段通りのニヤニヤ笑いを浮かべながら川西くんにスマホの画面を向けていたのだった。川西くんはその間も微動だにしなかった。


「川西くん、お疲れ様!」


そしてタイミングはズレてしまったけれども、私は改めて川西くんにそんなことを告げたのだった。


「・・・・・・。」


川西くんはようやく、二度ぱちぱちと瞬きをしたのだった。


「え、なに、太一・・・」

「?」


すると、川西くんは突如として天童くんの首元に左腕を巻き付けたのだった。


「うぐっ!!?」


そこからは、どういうわけか川西くんのスリングブレイドが炸裂したのだった。あまりにも川西くんの動きが速すぎて目で追うことはできなかった。気付いたときには天童くんは床に仰向けに倒れていたくらいだ。


「ふぐっ!!?」


そして間もなくして上体を起こした天童くんに炸裂したのは、川西くんのシャイニングウィザードだった。とりあえず、生でその技を見たのは初めてで、無性に感動してしまった。


「ちょっ、太一、タンマ・・!!!」


そして天童くんは床に倒れた後、すぐさまうつ伏せ状態になり匍匐前進で川西くんの技から逃げ出そうとしていた。天童くんもさすがの状況判断能力だ。敵を相手にして1秒でも仰向け状態でいるなんて、それこそ命取りな行為だ。


「ちょ、ギブ、ギブっ・・・!!!」


しかしてそこはさすがの川西くん。そこでしっかりとバックマウントを取り、テキサスクローバーホールドを決めたのだった。早々にギブアップを唱えた天童くんの判断は、正解だっただろう。こうなってしまえば、もう天童くんに勝ち目は無い。
手に汗握る戦いだった。私は終始瀬見くんの肩を揉みつつも、思わず魅入ってしまっていた。


「ほんの冗談でしょー!!?放してー!!!」

「俺のこれもまだまだほんの冗談みたいなものですけど。天童さん、痛くはないですよね?」

「痛くないのが逆に玄人の所業っぽくて怖いんだよ!!」

「あ、光栄です」

「太一は何を目指してんの!!?」


しかして川西くんは、一向に技を解く気配が無かったのだった。



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「サンキューな#NAME2#!だいぶ楽になった!!」

「よかったー!」


そこから数十分後。瀬見くんはいつものような爽やかスマイルを浮かべてくれていたのだった。役に立てて本当に良かった。


「もうお前いっそ俺の孫になれ!!」

「それは難しいかな!」


瀬見くんとそんな会話をしていると、ベンチに座っていた川西くんがじっとこちらを見ていることに気が付いたのだった。


「川西くん、帰らないの?」

「・・・#NAME2#さん」


思わず声を掛けると、川西くんは神妙な面持ちで私の名前を呟いたのだった。
ただならぬ雰囲気を感じ取り、私の身体には一気に緊張が走った。視界の隅では天童くんが完全にノびていた。


「あの、俺の肩も揉んでもらえないですか」

「え?」

「時間に余裕があったらで、いいんですけど」


すると、川西くんは真顔で私にそんなことを言ってきたのだった。


「いいよ!もちろん!」


川西くんに頼りにされた、というかそんなことを頼まれたことが物凄く嬉しかった私は、そう即答した。川西くんは、それを受けて少し微笑んでくれたのだった。


「#NAME1#ちゃん、太一にも跨ってあげ・・・ゴメン。なんでもありません。」


そして天童くんが何かを言いかけていたけれども、川西くんがその視線だけを向けるとすぐさま黙り込んでしまったのだった。
よく分からないけれども、あの天童くんを黙らせることができるなんてやっぱりすごいなぁと、改めてそんな後輩に対する尊敬の想いが高まったのだった。


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200000Hit御礼企画
テーマ:「水面下~」設定に瀬見さん登場!

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