0センチ
「あ、へいちょぉー!」
俺をいち早く発見するや否や、名前は周りなんてお構い無しにデカイ声で俺を呼ぶ。
「……うるせぇ」
無視すればいいものを、俺も律儀に反応し名前の元へ向かう。
「デカイ声で俺を呼ぶな」
「いやー、兵長を他の人に取られたくなかったもんで」
「ブッッ!!」
隣に居たハンジがスープを吹いた。
「と、取られるって…!アハハハッ!それはないよ、名前ちゃん!リヴァイを食事に誘おうなんて物好きな人は!」
「おい、ハンジ…てめぇは話に はいってくんじゃねぇ」
「そんな事無いですよ!兵長は皆から尊敬されてますから!」
話の通じない二人を放って俺は、食事を取りに行く事にした。
「あ!私が取りに行きます!」
「……いや、いい」
「もしかして私がこの前兵長の食事落とした事怒ってるんですか?アレは事故です!事故!」
「怒ってない。そしてアレはお前の注意力が足りなかっただけだ。……オイ、くっつな」
俺にしがみ付く名前の手を引き剥がす。すると後ろからハンジの笑い声がした。
頼むから目立つ事をしないで欲しい。
「君達って本当に仲良いね〜。なんか恋人同士っていうか、むしろ兄妹?」
「仲良くねぇよ」
「そうかな?身長だって同じだし、双子みたいだよ──いだだだっ!!」
「オイ…てめぇ今俺の事を馬鹿にしたか?したよな?」
「してない!してない!ってか、そんな事で怒るとか、やっぱりリヴァイ気にして……いだだだっ!!」
目の前にいるクソメガネの頬を、俺は(割と本気で)引っ張る。
「オイ、名前」
隣で珍しく静かにしている名前に目をやると、ボーとした顔で立っていた。
「……オイ」
「あっ、はい!なんでしょう!」
ようやく声を掛けられてる事に気が付くと、名前は慌てて背筋を伸ばす。
「…………。食事、持ってこい」
「一緒に食べてくれるんですね!?はいっ!今すぐ!」
嬉しそうに勝手に騒いで駆けて行く名前を見て、さっきのは気の所為だったのかと俺は安堵する。
………おかしい
あの食堂での件以来、名前は俺の顔を見ては何かもの言いたげに見つめ、ボーとしてる時も多くなった。
なんだ。言いたいことがあるならさっさと言え。
そう言うとあいつは慌てて何でも無い、すみませんと謝る。
「…チッ、なぜ俺が苛つかなきゃいけねぇんだ」
自分の部屋へと向かう廊下でそう毒づく。
すると前の方で名前と、その同期が仲良く話している姿が見えた。
「名前ってあのリヴァイ兵長と付き合ってるんでしょー?なんかそんな雰囲気無くてビックリしちゃったー!」
「えー?そうかなぁ?」
「仲良いよね。身長同じだから、兄妹みたいな?」
「そうそう。…あれ?名前って前、身長高い方が好みって言ってなかったけ?」
「………っ、」
聞くつもりなんて無かった。そのまま素通りするつもりだった。
なのに何故か体は動かなかった。
「あー、言ってたね。確かに」
「……で?どうなのよ?」
『わ、私は────』
俺は踵を返して遠回りに自室へと向かった。
確かに身長は男からしたら低い方だ。だがその分戦術での利点もあった。
……気になんて、して無かった。
して無かった、はずだ。昔の俺は。
「あ、あのぉ〜…兵長…?」
申し訳なさそうにドアを少しだけ開け、その隙間から顔を覗かせて声を掛ける名前。
「………入れ」
「失礼します」
名前はそろそろと部屋へ入ると、隅の方で立った。
何時もなら俺の部屋へ入るだけでギャーギャー騒いで居たのに、今日は酷く大人しい。
流石のこいつでも、この空気を理解したのだろう。
「えっと……わ、私何か悪い事しましたか?」
「思い当たることがあるのか?」
「……うーん、もしかして兵長のマグカップを割った事ですか?」
「てめぇ……やっぱりお前の仕業か」
「え!?ちちち違いますっ!!やっぱり分かりません!」
叩けば埃が出るとはこの事か。
いつか綺麗に掃除をしてやろう。
そう心の中で誓って、話を戻す。
「お前は……身長が高い奴の方が好みなのか…?」
「えっ!?そ、それって何処で…」
「そんな事はどうだっていい。好きなのか?嫌いなのか?」
そう問えば名前は困った様な顔をし、言葉を紡ぎ出す。
「そりゃ…昔は高い方が好みでしたけど…」
「……そうか、」
名前から言われて、俺は情けないくらいショックを受けた。それと同時に俺はこいつに心底惚れているんだと思い知らされる。
「でも!今は違うんですっ!
そんな事、どうでもいい位兵長が好きなんです!どんなに高くても、兵長じゃなきゃ意味ないんです!」
「……っ!お、お前は……っ、」
自分でもわかる位顔に頬に熱が集まる。こいつの一言でこんなにも感情が変わる程俺は単純なのか。
すっかりこいつに毒されている。
「もしかしてさっきの友人との会話聞いてました?」
「……あぁ」
「でも最後までは聞いてなかったみたいですね…」
良かった、とでも言うように名前はホッと息をついた。
「何だ。俺に聞かれたく無い事でも言ってたのか」
「い、いえ!そういう訳じゃぁ…」
「だったら言え。今すぐ、ここで」
「あうっ…」
名前は観念したした様で、ぽつりぽつりと語り初めた。
「そ、それにですね…この兵長と同じ身長で、今は凄く嬉しいんです。 えっと……兵長の顔がよく見えるし…そのっ、キ、キス!私から出来るじゃないですか」
「…………そうか、」
どうしてこいつはこうも俺の都合などお構いなしなのだろう。
心臓がもたねぇと、少々らしくない事を思う。
「あ、兵長照れてますね」
……そして思った事を直ぐに言う癖は、どうやったら直るのだろうか。痛みではこいつには効かないらしい。
「うるせぇ。黙れ。見るな」
俺は名前を抱き寄せると顔を無理矢理胸板に押し付ける。
「うわっ、へ、兵長、腰にかなりの負担が…!」
…その言葉は聞かないことにした。大体、そっちが俺の顔をよく見れるのなら、俺だって名前の顔をよく見れる。
文句を言ってるが、満更でも無い事も。
締まりのない顔しやがって。
「……で、俺に言いたい事あるんだろ?」
「えー…っと、」
「さっさと言え。ここから摘み出されたいか」
「じゃあ言います!怒らないで下さいよ?
……兵長は私の彼氏ですよね?!」
「………」
「いだっ!!いだだだっ!!怒らないでって言った矢先!
頬っぺた取れちゃいます!!」
「安心しろ。これで取れた奴はいねぇ」
そんな事かと俺は心底呆れた。
「そんな事じゃ無いです!私達、兄妹だなんて言われてるんですよ!?彼女にとって、こんな悲しい事は無いです」
「それは他の奴等が勝手に言ってることだ。恋人同士かは、俺達が決める事だろ」
お前はそんな周りの評価に振り回される奴なのかと言うと、名前は口をへの字にしてそんなんじゃ無いですと言った。
「大体、好きでもなかったら人との身長差だなんてくだらない事気にしない」
「そ、そーなんですかぁ?…えへへ。好きでもなかったらって事は、私の事…?」
「……言わねぇぞ」
「どけち!」
「てめぇ…誰にそんな口聞いてる」
「私の彼氏です!」
「いや、上司だ」
「さっきの流れはっ?!」
ギャーギャー騒ぐ名前の頬を両手で掴み、固定してやると面白いほど静かになった。
「この身長差だとお前からもキスしやすいんだよなぁ…?いいか?実行しなきゃそれも意味はない。物分かりのいいお前にはこの意味、分かるだろう?」
意地悪く笑うと名前はその意味を理解し、これ以上ないくらい顔が赤くなる。
「それは私のタイミングと言いますか、えーとっ……」
「さっさとしろ」
俺は静かに目を瞑り、名前の口付けを待つ。
「………っ、」
意を決した名前が動くと同時に、ゆらりと空気が揺れた。
END
おまけ