01 幕があがる
「あんたは赤司くんとどうなりたいわけ」
米粒の付いた箸をピッと向けられ、名前は椅子ごと後退りした。名前の目の前でお弁当を広げているハナ子は、その箸の如く名前を突き刺すように睨みつけた。
「ど、どうって…」
「毎日毎日、赤司くんかっこいいだの大好きだの、あんたの愛はよーくわかった」
ハナ子は箸の矛先を変え、お弁当の卵焼きに突き刺した。その動作がいつもより確実に荒々しいと感じた名前はそのまま押し黙ってハナ子の言動を見守った。
「聞いてりゃ毎日惚気だからさ、見てるだけで満足なのかと思ったら、ヤキモチ焼いちゃうだあ?あんた、一体赤司くんの何になりたいわけ?」
「わ、!ちょっとハナ子ちゃん声大きい!」
ガタン、と音を立てながら席を立ち、がるると唸るハナ子の口元を必死に手で隠しながら、名前はクラスをキョロキョロと見渡した。話の中心である彼の姿がないことと、昼休みということもあり、クラスが案外騒がしかったことに安心した名前は、ストンと椅子に座り直した。
「で、付き合いたいわけ」
「つ、付き合いたいっていうか…」
「じゃあもしミランダと赤司くんが付き合っちゃったら?」
「え、えぇ…」
「キスしちゃったら?エッチしちゃったら?」
「そ、そんなのだめー!!」
勢いよく立ち上がった所為で、名前が座っていた椅子が、ガターンッと大きな音を立てながらひっくり返った。しん、と一気に静まり返ったクラスの雰囲気にハッとすれば、ハナ子が小さく馬鹿、と名前を罵った。名前はクラスメートに小さく謝ると、椅子を立て直し、それに素早く座った。
「もうっハナ子ちゃん!」
「私の所為じゃないわよ」
羞恥から八つ当たりしてみたものの、ハナ子に返す言葉も無く、名前はそのまま押し黙り、気まずそうに俯いた。ミランダというのは、学校一の美女と言われている隣のクラスのハーフ女子である。これがまた驚愕する程の美人であり、そんなミランダがどうやら赤司に好意を持っているということを知った先日、名前はハナ子に泣きついたのである。
「誰かにとられたら嫌なくらい、ちゃんと恋しちゃってるんじゃない」
「う、それはそうなんだけど…」
「だったらこれからやる事はただ一つ」
ハナ子が再び箸を突きつける。名前も再び後退りするも、先程とは打って変わったハナ子のドヤ顔に嫌な予感を察知していた。
「アタックよ、名前」
物凄いことを言われると想像していたとは言え、やはり実際に言われてみれば驚いてしまった名前は、思い切り立ち上がり、椅子も倒れ、と同じことを繰り返してしまった。
「あ、アタックって…!」
「当たり前でしょう、顔もスタイルも勉強も運動も平凡なあんたがアタック無しに一体どうやって赤司くんを手に入れるの?」
「うん、何も間違ったことは言っていないんだけどちょっと酷いよハナ子ちゃん」
真顔で現実を突き付けるハナ子の言葉に少し傷ついた名前は、しょんぼりと項垂れる。そんな名前はお構いなしに、ハナ子は喝を入れるように自分の両手を名前の肩に置いた。
「何言ってんの、頑張れば赤司くんが名前のことを好きになってくれるかもしれないのよ」
「赤司くんが…?私を…?」
「そうよ、あのかっこいいかっこいい赤司くんが、よ!」
ハナ子がそう励まし続ければ、ぼそぼそと呟いていた名前の瞳がみるみるうちに光り輝いていく。それを見ながらハナ子は失礼ながら、何て単純なんだろうと密かに感じていた。
「わ、私がんばる!赤司くんを振り向かせてみせる!」
こうして彼女、名前の片思い大作戦が始まったのである。
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