02 挨拶は基本

「まぁ、まずは挨拶からね」

名前は朝のHR前だというのに、不自然に自分の席に座ってそわそわしながらハナ子の言葉を思い出していた。昨日のあれから名前は作戦会議だ、と放課後ファミレスに入り浸ってハナ子にアドバイスを貰っていた。

「あんた赤司くんと話したことは?」

「ないです…」

「挨拶は?」

「た、たまに、」

ハナ子はメロンフロートをかき混ぜていた手を止めて、ストローでぶくぶく泡を立てながら呆れた目で名前を見た。

「じゃあ、まずはそこから確実にしていく必要があるわね」

「確実?」

「まぁ要するに、これからは毎日挨拶をするってこと」

「ま、毎日?!」

無理があるよ、と慌てふためく名前に対して、ハナ子はそれぐらいの心構えでないとダメだと言い放った。赤司は部活動が忙しく、朝練があるために朝のHRにはギリギリでやって来るし、放課後はまるで幻だったかのように、いつの間にか光の速さでいなくなっているのだ。そんな赤司のことをよく知っている名前は、初めて下された指令が既に酷なことに、これから先の苦労を考えたくなくなっていた。

「早速明日から、ミッション開始よ!」



ハナ子の生き生きとした表情を思い出しては、反対に名前の気分は沈んでいった。人生でここまで緊張することがあっただろうか。自分がアクションを起こすなんて、未だに信じられなかった。HR5分前となった。彼はそろそろやって来るだろうか。名前の席は廊下側の一番前であり、赤司が毎朝教室の前のドアから入ってくるのを目の前で見ていた名前にとっては、チャンススポットだった。

──ガラッ

(きっ、来た…っ!)
赤のシルエットを確認した途端、名前の全身に一瞬で熱が走った。異常に鼓動が早くなり、それがより一層名前の緊張感を高めさせていた。ハナ子も若干緊張しながら、離れた席から名前の勇姿を見守っていた。

「あ、あっ、赤司くん!おは、おはよう!」

(噛みまくった!)
ガーンという効果音が頭の中に満ちていった。赤司と視線が合ったことだけでも顔が赤くなる十分な要素なのに、さらに勢い余り噛んでしまった羞恥が重なり、名前の顔は耳まで赤く染まっていった。

いきなり話しかけられたことにやはり驚いたのか、赤司はキョトンと名前を見つめたが、すぐに目を細めながら優しく微笑んだ。


「おはよう、苗字さん」


そう言って自分の席へと向かっていった赤司の残像を眺めるかのように、名前は目線ごとその場から動けなくなった。その後のHRで、下唇を噛み締めてぷるぷる震えている名前の姿は初心でかわいらしかったとハナ子は後に語るのだった。



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