月に一度の週末のホグズミード、多くのホグワーツ生で賑わう大通りから少しなかに入ったひと気のない路地裏、追い詰められた女と追い詰めている男が3人。
先程ちらりと確認した自分の後ろはレンガの壁、目の前には通路を塞ぐようにいやらしい笑みを浮かべる男たち。
メーデーメーデー、こちら状況は最悪。
どうしてこうなった!今すぐ叫びたくなるのをぐっと我慢して私は苦々しくため息をついた。
ホグワーツ魔法魔術学校のハッフルパフ寮に席を置いて3年、このたび無事3年生に進級し遂にホグズミードへの外出が解禁された。
この時を待っていた!とばかりに初めてのホグズミードを同室の親友とまわり生まれも育ちも生粋のマグル出身魔女の私はそれはそれは大いに楽しんだ。
そして2度目の今回、朝からうきうきが隠せない私を見た親友は無情にも「今日は最近良い感じのかれぴっぴとまわるから」と告げてきた。一緒にまわれるものと思っていた私は友だちより彼氏をとるのかと詰め寄って抗議したら彼氏じゃねぇかれぴっぴだと逆ギレされた。解せぬ。
かれぴっぴとは彼氏候補のことをいうらしく今日のデートでかれぴっぴがかれぴに進化するかどうかがかかっているらしい。なんだそれ、そいつに親友を取られるくらいなら私は全力でBボタンを連打する。断固進化拒否だ。
しかしすっかり獲物を狙う狩人の目をした親友に私はそれ以上何も言えなかった。
そんな訳で一人寂しくホグズミードを歩いていたら運悪くチャラチャラした集団にぶつかってしまい、テンプレートなナンパをされ断ったと思ったらひと気のないところまで誘導されて今現在。敗因はホグズミードの土地勘の無さだと後の私は語る。
そんなこんなで回想終了、話は冒頭まで戻る。
「こんなとこまで追い込んでおいて女相手に多勢に無勢ですか」
さすがスリザリンやることが随分卑怯ですね、尊敬します、とわざと煽るような言葉を選び目の前の男たちに投げつけた。
大事な親友をかれぴっぴとやらにとられた上知らない人にウザ絡みされている私の気分は最低最悪。多少なりとも毒を吐かなきゃやってられない。
私のその言葉に緑色の襟をしたローブに身を包んだ上級生らしき男たちは分かりやすく顔をしかめた。
「ハッフルパフなんていうなんの才能もないホグワーツの名汚しがスリザリンの俺たちの誘いを断るから悪いんだろ」
見た目通りのプライドの高さを発揮したリーダー格の男がこちらを見下したように言葉を吐き捨ててきた。
「ちょっと待って、訂正させて、ハッフルパフは落ちこぼれの寮なんかじゃないんだけどそんなのも知らないの?」
目の前の男たちから視線を外さないように睨みつけながら私はいつでも反撃出来るようそっとローブの黄色い襟に手を添えた。
「ちょっと可愛い顔してるからって生意気なんだよお前」
予想通りリーダー格の男がローブから杖を取り出し私に向かって振りかざそうとした瞬間、突然顔面に襲った衝撃と暗闇にうぎゃあとなんとも情けない声が出た。
突然視界を奪われたのは相手も同じのようで男の情けない声も聞こえる。
慌ててその原因を顔面から引き剥がせば思いもよらぬ正体で私は目を丸くした。
「は?かえる、チョコ?」
私の手によって捕獲されたのはみんな大好きでお馴染みのカエルチョコだった。なんで今、こんなところにカエルチョコ?
ちなみにこのカエルチョコには白いコもいて大量のカエルを飛び跳ねさせ白いカエルを上手く避けながら普通のカエルを捕まえるという謎の遊びが今ホグワーツでは流行っている。
なんてどうでもいい豆知識が思い出されている間にひっついてきたカエルを顔から引き剥がした男はふざけんじゃねぇと喚き散らしながら手の中のカエルチョコを投げ捨てた。
カエルが飛び跳ねたと同時、鈍い音がしたかと思うと男も私の視界から消えた。
「なに人のカエルチョコ逃してんの?」
視界から突然ロストしたスリザリン生が立っていた場所には、グリフィンドールを表す赤の襟のローブを着た見知らぬ男の人が立っていた。
ピンクブロンドの柔らかそうな癖っ毛を頭の上で結び、ぺろぺろキャンディを咥えている彼は山ほどのお菓子が入った紙袋を抱えていた。
一瞬の出来事で何があったかわからなかった。
私に杖を向けていたリーダー格の男は突然現れたグリフィンドール生の足元に鼻血を出しながら倒れており、その彼の片足が地面から浮いているのを見ると先ほどの鈍い音はリーダー格の男の顔面を蹴り倒した音のようだ。
「む、無敵のマイキーくん」
「なんでこんなところに!?」
彼の姿を見た残りの2人が何かに怯えたように大声を上げる。
「うるさいんだけど」
目の前の無敵のマイキーくんなる人は、そう一睨みしたら2人とも黙り込んだ。
え、ほんと誰?
私だけがこの状況についていけず置いてきぼりをくらっている。
「で、誰が逃していいっていった?」
無敵のマイキーくんは足元に倒れる男の体を軽く蹴りながらそう尋ねるも相手は蹴りで一発KO、ゾンビのようにぐぅと何か低く唸るだけで返事なんてろくに出来ない。
それを理解すると今度は後ろにいる2人に視線を向けた。
視線を向けられた2人は、すみませんでした、弁償しますから許してください、と無惨に地に伏していたリーダーの男を担ぎ一目散に大通りの方に逃げていった。
スリザリンの男たちと入れ替わりにプラチナブロンドでタトゥーの入った辮髪の背の高い男の人が姿を現した。
「マイキー?何やってんだ」
「あ、やべ、ごめんケンちん、今行く」
ケンちんと呼ばれた男の人もグリフィンドールで無敵のマイキーくんの顔見知りらしい。
無敵のマイキーくんはおもむろに咥えていたぺろぺろキャンディを手に持つとそれとは反対の手で今もなお逃げ出そうと暴れているカエルチョコを捕まえている私の手を掴んだ。
突然のことに固まっているとそのまま体を屈ませ私の手ごと口元に持っていきがぶり、と音がしそうな勢いでカエルチョコを丸ごと口のなかに収めてしまう。
しばらくの間咀嚼しごくりと喉仏を上下させ飲み込んだかと思うとぺろりと口端を真っ赤な舌で一舐めする。
その妙な色気が溢れる一連の動作を唖然として見ているだけの私の指先にチョコがついていることに気付きその真っ赤な舌で器用に舐めとった。
何が行われているかわからずオーバーショートした私の視線は彼の口元と舐められた自分の指先とを行ったり来たり繰り返す。
そんな私を上目遣いに見上げた無敵のマイキーくんは「ふは、間抜けずらしてんね」と吹き出して笑った。
「えっ、今、舐めっ、は?!ちょ、まっ、まぬk」
理解した瞬間羞恥心で顔を一気に赤く染めながら文句を言おうと開いたその口にさっきまで彼が咥えていたぺろぺろキャンディを強引に捩じ込まれ、無敵のマイキーくんは、じゃあまたね、と何事もなかったようにケンちんと呼ばれた少年のもとへと歩き出した。
「ったく、ゾンコの店行きたいっつったのはお前だろ」
「だからごめんっつってんじゃん」
2人並んで大通りに向かう後ろ姿を見つめながら
「無敵の、マイキーくん」
小さく呟いた彼の名前は口のなかのソーダ味のキャンディと一緒にしゅわしゅわと私の体のなかに溶けていった。
グリフィンドールマイキーとハッフルパフヒロインのまだなにもはじまらない話。
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ヒロイン
ハッフルパフ3年生。
マグル生まれマグル育ちの魔女。
噂話とか興味がないので無敵のマイキーを知らなかった。
この後親友に無敵のマイキーの噂を聞き震えた。
平和に過ごしたいし関わらないでおこ、と思うものの何故か校内でことごとくエンカウントし懐かれる未来が待っている。
無敵のマイキー
グリフィンドール6年生。
杖を構えるよりも先にすぐ物理的に攻撃してしまうのが玉に瑕。
チャラ男たちによるヒロイン追い込み漁を偶然見かけたので袋の中のカエルチョコを2箱開けてデュエルスタンバイした。ずっとマイキーのターン。
後日何故か知らないスリザリンのヤツにカエルチョコを貰った(覚えてない)
親友
ハッフルパフ3年生。
愛の狩人。狙った獲物は逃がさない。
ヒロインのことは大好きだけどそれはそれでこれはこれ。
噂話好きの情報通。
ケンチン
グリフィンドール6年生。
ここでも無敵のマイキーのお世話をさせられてる苦労人。絶対いい人。
かれぴっぴ
愛の狩人に狙われ、進化もBボタン連打で拒否されそうな可哀想な人。
スリザリンのチャラ男たち
偶然ぶつかってきた女が可愛かったのでナンパした。
突如勝手にくっついてきたカエルを逃したら鼻の骨を折られた。
後日無敵のマイキーくんにカエルチョコを弁償する。