何やら私は自分が気付かないうちにいつの間にか死んでしまったらしい。



いきなりでなにを言ってるのかわからないと思うが、私も自分の身になにがおこっているのかわかっていないので許してほしい。

花の金曜日、私はコンビニで買った袋を片手に帰宅していた。
袋の中身は幕の内と500ミリ缶のビール、帰ったらこの一週間撮り溜めていたアニメをチェックしようと今季のアニメに思いを馳せながら時間的に人がまばらな大通りを歩いていた、のだが覚えているのはそこまでで、気がつけば今の私になっていた。

このことを思い出したのはついさっき、道で人とぶつかった時だった。
イヤホンを片手に持ちながらiPodを操作するのに夢中で前から来る人に気付かなかった私はそれは綺麗に正面衝突する。

その衝撃で蘇った記憶は、私が生まれる前の私の人生だった。

突然流れ込んでくる自分であって自分じゃない、人間ひとり分の人生に脳内の処理は追いつかない。

ぶつかった人が何か声をかけてくれているのが聞こえるが正直まともに返事が出来そうにないので「すみませんでした」と謝り相手の顔を見ることなく逃げ出した。



蘇った全ての情報をぎゅうぎゅうに脳内に詰め込んだ結果、今の私(14歳)の身体と記憶に前世の私(3X歳)の記憶が足された状態に落ち着いた。

死んでしまう前の私は30過ぎの漫画とアニメと推しを糧に生きているただの冴えないオタクな社畜だったようで私の知らない色々な漫画やアニメの知識も共に思い出す。

オタクなことは今の私も変わりはないが前世の私は原作のキャラクターと恋愛したり、友情を育んだりする夢小説というジャンルを好んだ。

今やpixivやTwitterなど色んなところで気軽に見れる夢小説だが私(前世)が学生の頃は携帯の個人サイトが主流で夢界隈に限ったことではないのだがもっとアンダーグラウンドな世界だった。

夢界隈の歴史をわかりやすく年号に例えさせてもらう。
pixivやTwitterを令和とするとナノやxriaといったオシャレで洗練されたデザインの個人サイトは平成で定型に沿ったデザインのフォレストが昭和だ。個人の見解によるので異論は認める。

さらに前、大正のパソコン時代があるのをどれくらいの人が知っているだろうか。

クリックしページを開くと左上にJavascriptポップアップが出てきて「あなたの名前を入力してください」と名前を聞いてくるものだ。
私(前世)がはじめて夢小説というものを知ったのはここからだった。


そんな太古の夢女子である私(前世)は、夢小説のなかでは運動部のマネージャーは一通り経験したし、雪の守護者にもなった。ミズミズの実も食べたし、零番隊隊長も務め、新撰組の女中にもなった経験だってある。果ては地獄の官僚の補佐係にもなり、仲間と西に向かう旅だってした。
特技?そっくりな双子を見分けれることで、モテモテの人に唯一なびかなくてふーんおもしれぇ女認定だってされたし、逆ハーも嫌われだって経験した。

私(前世)くらいの猛者になるとデフォルト名の『みょうじ なまえ』という名前表記を脳内で自分の名前に反映することが出来るようになるのだ。

そんなまさに夢マスターの私(前世)が死んでしまう前にハマっていたのが、1人の男が愛する人を守るため何度も過去にタイムリープする物語だった。


そして話は戻り、私が転生したこの世界、なにやらその世界らしい。

前世の私が生きていた時代より10年近く過去の現代。
私が住む港区も隣の渋谷区も、いうなれば近隣の区や横浜など前世では時代遅れの不良たちが幅を利かせている。

前世の記憶バッチリの私は、その物語の記憶も全部残っていたためそう判断したが多分間違っていない。


なんでだって?

渋谷に買い物に来た今、その物語のキャラクターを見かけたからだよ。それも何故か原作にはいない女の子付きでね!

渋谷のセンター街、見知ったキャラクターである三ツ谷隆を見かけ私は二度見した。
彼は隣に小動物みたいな女の子を連れて歩いていた。


「ふぇぇ、たかちゃん聞いて、今日シャツのボタン取れちゃったのお」



ふぇぇ?!!

2次元でしか見たことがないあの伝説の鳴き声を上げた小動物みたいな彼女は三ツ谷くんの腕にしがみついた。


少し歩けば無敵のマイキーこと佐野万次郎とドラケンこと龍宮寺堅と一緒に1人の背の高い女の子が歩いてくる。

おっふ、君たちも女の子連れか。

その女の子をよく見れば片方ずつ瞳の色が違うオッドアイだった。

...君、きっとあれでしょ、ご両親共に仕事で海外にいるとかでその年齢で一人暮らししちゃってるタイプじゃない?


目的の買い物を済ませもう帰ろうかな、と思えば目の前に東卍の黒の特攻服を着た3人が並んで歩いていた。
後ろ姿でもわかる、両端のあれは場地圭介と松野千冬だ。
今はまだ10月前だから場地さんが生きている。思わず涙ぐんでしまうのは、場地さんが前世の私の推しだからだ。

2人の間に挟まれた同じ特攻服を着た金髪ショートは花垣武道だろうか、と思うが、私の記憶では3人で並んで歩くなんて機会なかったように思う。
タケミっちが千冬と知り合うのは芭流覇羅のアジトで場地さんにボコボコにされた後だ。

よくよく見れば特攻服を着た金髪の子は花垣武道ではなく、男のコにしては華奢にみえる。

え、もしかして男装??
しっかり見れば女の子が男装してるようにしか見えないのになんで隣のふたりは気がつかないんだ?

...あ、場地さんはバカで千冬は場地バカだからかと妙に納得した。
多少怪しく思っても場地さんが白と言えば黒でも白になる、松野千冬とはそういう男だ。






というか夢主に侵食されてるこの街、大丈夫??





やっとの思いで港区に帰ってきた私は、家まで音楽を聴いて帰ろうとiPodを出すためポケットを探る。




「あれ、私のiPodくんがいない」






一方その頃の六本木某所。



「あれ兄ちゃん、そんなiPod持ってたっけ?」

「んー?朝拾った♡」




おっと、灰谷蘭がアップをはじめたようだ。


ここの世界の住人たちが軽率にいにしえの夢女を殺しに来る