無題6
「統登小学校に転校したい」
弟──七征が口にした言葉に、三陸は眉をひそめる。睨んでいた課題から顔を上げて、向かいで頬杖をつく弟に視線を移した。
「はぁ? 無理だろ」
にべもなく否定すれば、七征は不服そうに口を尖らせる。
「なんで? 三陸兄ぃも四築兄ぃも通ってたんでしょ?」
「そうだけど、お前は無理」
保守派・欧化派に関係なく生徒の集う統登小学校。欧化派の存在する環境は百鬼としては好ましくないが、他旧家の子供も通っていることから、社会的見聞を広げる名目で子供を通わせていた時期もあった。
しかし、それも四男である五玖が三年生になるまでの話だ。今では地元の名門を利用している。
両親は明確な理由を語らないが、恐らく四築が原因だろう。元々、大和にも桜花にも分け隔てない理解を示していた四築だが、小学校で欧化派との親交が目に見えて広がった。四築の二の舞になることを懸念したのか、父は彼の卒業と同時に既に在学していた五玖を呼び戻し、予定していた六花の入学を取り消した。
当主である父親の意向ならば、家内では絶対的だ。
「えー、統登に行きたい。今の学校つまんなーい」
「我が儘言ってんじゃねぇよ、下が真似するだろーが」
「むぅ……」
駄々をこねる七征の頭を軽く小突いて黙らせる。聞き分けのいい八代と九咲はともかく、末子の十夜が感化されれば何を言い出すかわかったものではない。
六花のように周りに一切関心を示さないのもどうかと思うが、七征のように好奇心が強すぎるのも旧家の人間としては考えものだ。
「……別にお前の生き方に口出ししようとは思わねーけど、欧化派にはなるなよ」
「んー? あぁ、三陸兄ぃは欧風文化が嫌いだもんね」
わかってる、と七征は続ける。
「欧化派にはならない」
そう言って笑う弟の頭を撫でて、再度、三陸は課題に視線を落とした。
<了>
