とある事務員のマル秘業務日誌 3


「……愛の力は偉大だな」

只今絶賛放映中の『流星ラブレター〜言葉に出来なくて〜』オススメ。ちなみにイギリスの映画、もう5回観た。

主演はイギリスのオペラ歌手のア○リーン・デ○アスと、今をときめく若手俳優のアーロン・テンパー。なんてったって顔がいい。

内容はネタバレになってしまうから伏せるけど、ア○リーン演じるミランダとアーロン演じるエリックが身分違いの恋に落ちると言う王道のストーリーだ。

ラスト10分で引っくり返る。




「何ゆえに…?」

電車の中で映画の余韻に浸りながら脳内妄想劇場を繰り広げていたら、気がつけばそこは米花駅だった。見覚えのある噴水を見て一気に目が覚めた。
話題の映画を観てトキメキを補充したのはいいけれど、さっきから控えめにお腹の虫が主張しているのが気になる。


「……うう」

“ポアロ断ち”を初めてから2週間。そろそろ体が限界なのかもしれない。ちなみに降谷さんにも2週間会っていない。本当に警察庁には滅多に登庁しないようだ。ポアロに行けば否応なしに顔を合わせる事になるから、あのぶっちゃけ事件以来ポアロへは意図的に通わなくなった。考えてみて欲しい。もし万が一、ヘマをしてお勤めご苦労様で〜す!なんて彼に言った日には未来はない。


だけど。あのアムサンドとコーヒーが懐かしい。そしてコナン君とス○ライクショットを久々にキメたいのだ。


人間忍耐が大事。今が耐え時だ。
誰だって自分の身が一番可愛いいじゃない?
大丈夫。またいつかきっと、正々堂々とポアロに行ける時が来る。たがら今は我慢しよう。
時間にして2〜3分の短い葛藤を繰り返し再度ICガードを握りしめた時、足元にふわりとした感触がして視線を落とした。


「猫……?」

長い尻尾を私の脹ら脛に巻き付けてこちらをじっと眺めている。美人(イケメン?)さんではないけれどなかなか愛嬌のある顔をしている。

可愛い。私は犬より猫派なのだ。昔実家で買っていた猫はアメショーのミコちゃん。夢はロシアンブルーかヒマラヤンみたいな高貴な猫ちゃんと一緒に暮らす事。片手にワインは持たない。何故なら私は下子だから。


「なんだ〜い?よしよしどうしたお腹減ってるの?」

友よすまない残念ながら鞄にはチョコしかないんだ。流石に猫にチョコはあげられない。ふわふわの毛並みに手を伸ばせば彼(彼女?)はすりすりと体を刷り寄せてきた。

「…ほれもっとちこうよれ」

よいせ、と膝を曲げて三毛猫スキンシップを試みるが抱え上げた瞬間にするりと腕から逃げられてしまう。

「あ!ちょっと…君怪我してるの?足」

白い足には血が滲んでいてしきりにそこを舐めている。

「さあお姉さんに見せてごらん」

道行く人々の好奇な視線を感じるが気にしない。そして何より怪我をしているのなら放ってはおけない。


するり。
再度抱き上げてもまた逃げてしまう。何なの?ツンデレか?キライじゃないけど。

三毛猫は少し歩いては立ち止まり振り返えって泣く、という動作を何度も繰り返している。


「……もしかして…誘ってる?」

聞くところによれば同じように猫に誘われるがままに着いていったら段ボールの自宅に案内された、とか笑える体験をしたって話を聞いたことがある。
この三毛猫は首輪をつけてるから野良ってわけでは無さそうだけど。
私をどこかへ誘おうとしている事に間違いはないみたいだ。

せっかくならト○ップなんか体験してみたいかな。行き先はド○クエで職業は定番の魔法使いでお願いしたい。杖を掲げてカッコよくパ○プンテ!!って言ってみたいじゃないか。ああ言っておくけど、私はビ○ンカ派だ。次こそはフ○ーラやデ○ラを選んでみようと思うのだけど、いつも直前で指が勝手に動いてしまうのだ。こんな経験をしたことがある人が少なからずいると思う。

「迷子の仔猫ちゃん……仔猫ではないか。どこまでいくのかな」

腕時計に目をやればPM14時を指している。時間は問題ないけど私のお腹が限界だ。異世界よりもハイカラなカフェ(ポアロ以外)に案内してくれると私嬉しい。

細い道や路地裏を通ったりかれこれ10分くらい私と猫の徒然。三毛猫は途中で私が着いてきているかを確認するように何度も振り返っていた。


「にゃん」
「ん〜着いたの?」

角を曲がったと思ったら三毛猫が私に飛びついてきた。おう、可愛いじゃないか最後にデレてくれるのね。
よしよしと毛並みを堪能しながら三毛猫の家だと思われる建物を見上げる。


「あ、大尉とお姉さん?」
「こんにちは、ご無沙汰していますね」

喫茶ポアロの前に眼鏡の少年と安室透の皮を被った降谷零がいた。

「コンニチハゴブシタシテイマス」
「あれ〜?大尉怪我してるみたいだよ」
「あ…えっと、駅でたまたま会いして。着いてこいって言われてるみたいだったので。怪我もしてるし…」

隠すことでもないからここまでの出来事を店の前にいた2人に包み隠さず話した。

「お姉さん最近ポアロに来ないから心配してたんだ。ね安室さん」
「え…?」

こら少年。そんな可愛い笑顔で見つめないで。そして安室さんにキラーパスを出さない。私が来なくなった理由くらい彼には分かっているだろうに。

「ええ。最近来てくださらないので、体調でも悪くされたのかと心配してましたよ」
「…し、諸事情がありまして。そ、それでは私はこれで…」
「あ、待ってよお姉さん。せっかくだからケーキでも食べていったら?安室さんの新作ケーキがあるんだよ」
「え、いやお構い無く…」
「そうですよ。久しぶりですしゆっくりしていってくださいよ」

その笑顔は心からの笑顔ですか?何しに来た、とかの腹黒い類いの笑顔じゃないですよね?
コナンくんに袖を引っ張られて困っていれば安室さんがにこりと微笑む。


「そんなに気にしなくてもいいじゃないですか。コナンくんもそう言ってる事ですし」

隣で見上げてくるキラキラおめめの破壊力は半端ではない。
コナンくんにここまで言われては仕方がない。


「では……お言葉に甘えて」

大尉を抱えて店内に踏み込めば、懐かしいコーヒーの香りがした。





「お帰り…大尉。それからいらっしゃいませお客様」