とある事務員のマル秘業務日誌 4

皆見てくれ。
ソファに横になるこのイケメンを。


警察庁警備局警備企画課エースで責任者でもある降谷零(29)さん、独身。

長い足を惜しげもなく投げ出し、ネクタイを緩めているから鎖骨が見えている。セクシーだ……やだ涎が。


いいんですか無駄にフェロモンを放出して。いいんですかこんなに無防備で。



今日は珍しく朝早く目が覚めた。だから早めに出勤して掃除でもしようと意気込んでいたら大久保さんに全力で止められた。
なぜ私の仕事を邪魔するのか。不審に思い彼の指差す先を見れば、降谷さんがおふつくしい寝顔を晒していたと言うわけである。

ソファの前のローテーブルには書類とコーヒーの空き缶。どうやらここで夜を明かされたようである。





それにしても。

「……睫毛長いな」


じっと見ていられる。

端正な顔立ちをまじまじと見つめていれば視界の端で大久保さんがそわそわしながらこちらを眺めている。

やだな、取って食べたりはしませんよ。




「…そんなに見つめられたら穴が開く」
「へ……?」

開かれた瞳に驚いて後ろに飛び退こうとすると、グイと左手首を捕まれた。


「…今日はコンタクトじゃないのか?」
「は、はい」

コンタクト?あ、そうか。先週ポアロに行った時はコンタクトだったからか。それがどうかしたのか。


「わ………!」


急に腕を引かれて降谷さんとの距離が近くなる。
待て待て待てこれは一体何のフラグだ。


「あ、あの…」
「なんだ」
「……大久保さんも困っているのでそろそろ離していただけると…」
「…………」

降谷さん?なぜそこでお黙りなるのですか。そして何を思案しているのですか?顔面耐性の低い私にこの距離はツラいんです。見るのは好きだけど見られるのはイヤだ。


「……どうしたんだ?顔が赤いぞ」


貴方のせいです。


「……気のせいです。それより早く釈放してもらえませんかね?」


心臓が持ちそうにないので。


「明日から眼鏡じゃなくてコンタクトにしてくれるのなら離す」
「は…?」


降谷さんの腕を外そうとしたら僅かに力が込められた。


「イヤです」
「業務命令だ」
「なんなんですか」
「コンタクトの方がいい。雰囲気が柔らかくなるだろう」

どうせ私はお堅い見た目ですよ。放っておいてくれ。


「それに……コンタクトの方が可愛いぞ」
「…………」


皆大変だ。

上司が部下にハニトラを仕掛けてきているんだけどどう思いますか。
凛々しいお顔で雑用と言い切った降谷さんはどこへ行った。



「降谷さん何徹目ですか」
「確か3徹目だな……」
「だからそんなにおかしな事をおっしゃるんですね。分かりました。メ○リズムを持って来ますから目を休ませてください早急に!!」

必死に腕を離そうとするがこのゴリ…じゃない降谷さんはなかなか離してくれない。何?パワハラ?

「コンタクトにするって約束してくれ水瀬くん」
「は?大久保さんまで何言ってるんですか?」

いやいや意味が分からない。普通逆でしょう。降谷さんを宥めるのが大久保さんの役目なはず。

ため息をついて顔を上げればいつの間にかギャラリーが増えていた。
遠巻きに。左から坂本さん、西郷さん、その他大勢が仕切りに手を合わせているではないか。誰か助けてよ。



「なあ……頼むよ。俺が見たいんだ」


耳元で囁かれても動じないぞ。何故なら私は鉄の女だから。


「…見たいって降谷さんは滅多に登庁しないじゃないですか」
「なるべく登庁するようにするから」
「お忙しいんですから無理しないでください」
「大丈夫だ。時間は作る」


作らんでもいい。作るのはサンドイッチとケーキだけにしてください。


ああもう!お昼ご飯のからあげ弁当の予約が間に合わないじゃないか!!
動じないとか鉄の女とか言ってしまったけどここは愛しのからあげの為に白旗を上げるしかないのか。




「………わかりました」
「ああ」

おお!と言う外野からのどよめきと共に降谷さんから漸く腕が離された。





「で、お前達は報告の準備は出来ているんだろうな?」




あ、これヤバいやつだ。


そろりと自分のデスクに戻り身を屈める。どばっちり怖いからさっさと自分の仕事する、これ大事。




「内容が浅い。早急に手直しをしろ」
「監視を初めて何日経ったと思ってる。いい加減結果を出せ」
「これでよく公安が務まるな」


降谷零、容赦ない。
怖いよ不機嫌MAXだよ…あんな状態で説教されたら泣く。降伏しといて良かった。




「水瀬」
「は、はい!」
「コーヒー。ブラック」
「か、畏まりました」

デスクで戦々恐々と成り行きを見守っていたら突然名前を呼ばれた。危ない危ない。他人事だと思っていた。





「えーと、お豆さんはどちらかな……」
「豆はこっちです」
「ああどうもすみませんご丁寧に。…あの、どちら様ですか?」


突然現れた短髪で眉が特徴の眼鏡の男性。


「風見と申します。降谷さんがいつもお世話になっています」
「あ、いえいえこちらこそ」


深々。深々。


「コーヒーは私が淹れますので貴方はご自分の仕事をなさってください」
「え、いや、あの……困ります。私が怒られちゃいますし」
「降谷さんの好みは自分が把握していますのでお構い無く」
「いや。困ります」

止めてよ。私だってまだ命が惜しいんだ。やりたいことだって行きたい所だって沢山あるんだ。



コーヒー豆の袋を握ったままみつめあうこと数分。



「コーヒー一杯淹れるのにどれだけ時間がかかるんだ」


給湯室に響く不機嫌な声に同時に袋を手離した。


「「あ…………」」



ばらばらばら。

床一面に散らばるチョコボ…コーヒー豆。見ようによっては我が天敵Gに見えたから一瞬鳥肌が立った。


「風見。何故お前がここにいる」
「降谷さんに報告がありまして」
「ならなんで直接僕の所に来ない」
「彼女がコーヒーを淹れようとしていたので手伝おうかと」




「……………」

経った数秒の沈黙が永遠に感じた。
やだ詩人。


「…………会議室」
「!」
「え、嘘……」


おもわず風見さんという方と顔を見合せれば肩を竦めてため息をつかれた。



何今のため息?
誰のせいだと思ってるんだ?




あんたのせいだ!!