お調子者に吸い取られる
オレは内藤ロンシャン。1-Bのお調子者って呼ばれてるらしいんだけど、最近、気になる子がいるんだよね。名前は日比野麗って言うんだけど、あの風紀委員会に入っちゃったらしくて! 寝てる間に決まってた、って聞いたんだけど本当かなぁ。て言うか、オレさっきから「だけど」言いすぎだよね! ごめん! あ、今笑った。あれ、でも一瞬で嫌そうな顔になっちゃった。風紀委員だ。相変わらず威圧感すごいよねぇ。めっちゃビビってる。また殴られてるし。痛そ。けど、あの風紀委員長さんが笑ってるし、嫌われてる訳ではないんだと思うんだよねぇ。まぁ、こんな感じでオレの休み時間は終わる。
――あ、ストーカーじゃないからね?
「ッ、また視線感じる……」
「またぁ? 狙われてるんじゃない?」
「え、雲雀先輩に? 物理的な意味で?」
「限りなく違う。恋愛的な意味で、よ」
「ええ? ないでしょ」
「分かんないわよ。あんた、ブサイクじゃないんだから」
「だから何で毎回遠回しな言い方なの!」
ぶるり、と肩が震える。始まりはGWが明けた頃だろうか。ふとした時に視線やとある人の気配を感じるのだ。小さい頃から自身の直感は非常に鋭い。そして、良く当たるのだ。最初から茉莉には伝えているのだが、信じてはくれなかった。しかし、それが何回も繰り返されば彼女も信じる他に術は無いだろう。麗の直感はあながち間違ってはいないのだが、如何せん正体が分からないので恐怖のみが身に注がれるのだ。――一回だけ雲雀先輩にも言ってみたんだけど、鼻で笑われたんだよね。あの人本当腹立つ。
「おっはよー!」
「来た……お調子者ロンシャン」
「本当いつも元気だよねぇ」
「A組の三馬鹿に唯一対抗できる人間よね」
「三馬鹿?」
「沢田、獄寺、山本のこと。知らない?」
「沢田くんだけは知ってるよ。お友だちなんだ」
(何でよりによってダメツナ…)
草壁さんに羽交い絞めにされるわたしを見て、また鼻で笑った雲雀先輩を思い出すと、変にムカムカした気持ちになる。その事で僅かに顔を歪めると、B組の日常茶飯事となってしまった、ロンシャンの元気すぎる挨拶が教室内に響き渡った。今日も始まる、と言った呆れた思い達がそこに充満し始めたようだ。その瞬間、再び背筋に悪寒が走ったのだ。その直後に、麗は困惑の表情を浮かべる事になる。
「日比野ちゃん、おっはよー!」
「えっ、お、おはよ……?」
「あんた何なのよいきなり」
「オレね、ずっと日比野ちゃんのこと気になってて!」
「へっ?」
「…大丈夫? この子、威勢良いだけのただの馬鹿よ?」
「ちょっと!」
何時もなら自身の家庭教師であるマングスタと騒いでいるのだが、今日は何故か麗と茉莉のところへやって来たのだ。――後ろ見てよ。マングスタさんすっごい寂しそうだよ。迷子になった子どもみたいな瞳してるもん。――そんな麗の心の中の突っ込みにも気付かず、ロンシャンは彼女に声を掛けた。それにすかさず言葉を挟む茉莉は本当もう安定と言うか、絶対に面白がってるんだと思う。
「風紀委員会入ってるっしょ? そこらへんからずっと見てたんだけどさー」
「お前それストーカー、犯罪。分かってる? 馬鹿なの?」
「やっぱりわたしの勘当たってたじゃん!」
「毎日風紀委員長に殴られてるけど頭大丈夫?」
「着眼点おかしくない? て言うか、わたし馬鹿にされてる?」
「馬鹿同士ちょうど良いんじゃない?」
「何のフォロー!?」
校内でストーカー紛いの行為をしていたのは、どうやらロンシャンだったらしい。意外と言うか何と言うか、接点なかったはずなんだけどやっぱり原因は風紀委員会なようで。――これ全部雲雀先輩のせいじゃん。雲雀先輩がところ構わずゴンゴン頭殴るからじゃん。けど、それ言ったらあの人「避けるくらいの能力身につけなよ」とか言うから本当腹立つ。――耳元で喋り続けるロンシャンの手を軽く跳ね除ければ、何時の間にか茉莉とロンシャンは意気投合していて麗の頭上には疑問符が大量に浮かんでいた。――この調子で行くと、わたしの元気この人たちに全部吸い取られる気がするんだけど気のせいかな。
「――って事があったんですけどどう思います? 草壁さん」
「それは…まあ、苦労人の顔してるから…あ、この砂糖菓子美味いな」
「えっ、それどんな顔です? それ並盛にある和菓子屋のお菓子ですよ」
「へぇ、美味しいね」
放課後、学生の帰宅時間と言う事から、雲雀は校内を見回っている。そう言った情報を手に入れた麗は応接室にお邪魔していた。その道中でたまたま見付けた草壁を連行し、今に至る。週末買い込んでいた砂糖菓子を広げているせいで、室内には甘ったるい匂いが漂っていた。そんな甘味を草壁が淹れてくれた紅茶で流し込む。幸せな時間だ。そこに割り込んで来たのは、自身の恐怖の象徴である雲雀だった。
「何でいるんですか」
「ここは僕のテリトリーだよ」
「血、臭いんですけど」
「咬み殺して来たからね」
机に広げてあった砂糖菓子を摘むと、雲雀は定位置である社長椅子に腰を下ろした。そこは応接室の全体を見る事ができ、また、少し移動させると校庭をも一望できるのだ。移動する彼が通り過ぎると、錆びた鉄の様な臭いが鼻腔を擽る。嫌な、嫌いな臭いである。彼は粛清とは名ばかりの、喧嘩に明け暮れる日々を送っている。――わたしは痛いのは嫌いだからその気持ちは全くもって分からないんだけど。
「ひ、雲雀先輩」
「何」
「…あの、わたしって苦労人の顔、してます……?」
「はぁ?」
(気にしてたのか……)
タイミング良く、草壁によって差し出された紅茶を、雲雀はさも当然かの様に喉に流し込む。そんな雲雀に対して、麗は恐る恐る声を掛けた。それは、先ほどの草壁との会話からずっと気になっていた事である。その事実に草壁は、ただただ突っ込む事しか出来ない。そして、雲雀も「何言ってるんだこいつ」と言う表情を崩さない。しかし、最強を謳う雲雀は案外その場の空気が読めたりなんかもするのだ。
「……苦労人の顔かは知らないけど、変なやつに好かれそうな顔はしてるよね」
「へ?」
「…まぁ、良く言うでしょ」
「な、何がですか?」
「――『類は友を呼ぶ』って」
麗の問いに対して初めは理解不能、と言った表情を浮かべていたが、呆れた様に溜め息を吐き、彼女の顔をただひたすらに見つめた。そして、そのままの顔で頬杖をついた。その後に続いた言葉は、気持ち悪い程に清々しい笑顔と共に吐かれたのである。――ちょっと待って。流しそうになったけどちょっと待って。この人絶対ふざけてるじゃん。
「ば、馬鹿にしてるんですか!」
て言うかわたし、何も問題解決してないんですけど!