過去と忍びと今とヒーロー
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  • 二十七話

    「よく来たな。焦凍。浅間由紀」

    エンデヴァーの事務所につくと、そこにはエンデヴァー本人がいた。挨拶もなく初っ端から高圧的に言う彼に対して、ふと先ほど相澤先生に言われた言葉が脳裏に浮かんだ。

    「お久しぶりです。エンデヴァー」
    「まさか本当に来てくれるとは思わんかったよ」
    「指名を出したのはあなたでしょう」
    「君ならば、教師を言いくるめて拒否しそうだったからな」

    言葉の応酬をする私たちを驚いたように見る轟は、少しすると構わずエンデヴァーの隣を通り過ぎ歩き出してしまった。

    「無視をするな焦凍ぉ!!」

    エンデヴァーの静止の声にもスタスタと行ってしまう轟に一つため息をつくと、こちらに向き直る。それよりこいつの炎消してくれないかな。熱いんだけど。

    「ではまずはコスチュームに着替えてくれ。更衣室は真っ直ぐ行って右に曲がったところにある。着替えたら、説明を行うので更衣室の前で待っていろ。案内の者をだす」

    言いたいことだけをいい、返事も聞かずに歩いていく後ろ姿をみて、親子だなと思った。

    「ああ………もう帰りたい」


    ***

    「ヒーローというものは要請がない限りはパトロールと副業そして訓練だ。お前達にはパトロールの一部について行ってもらい、あとの時間は訓練に当ててもらう」

    事務所の人間に紹介された後、エンデヴァーに今後のことを説明される。
    私も轟もコスチュームを着ているが、ちなみに私のコスチュームは忍び装束だ。既に忍びだとかいっているヒーローがいるらしいがあんなゴテゴテしたものはつけず、昔に限りなく近づけた。
    けれどさすがに素材まで同じ。というわけにもいかない。どんな環境にも適応でき頑丈な素材。黒服。あとは細々したものの収納スペース。こと細かに書き提出すれば、忠実に再現してくれた。


    「浅間由紀。お前は最初俺とだ」
    「フルネームで呼ぶのやめてください。鬱陶しい」
    「ならば浅間。さっさと準備をしろ」

    要件だけいうなり自分はさっさと行ってしまうのだから私の中ではめんどくさい分類に入っている。いきなりNo.2のエンデヴァーとの訓練に少し驚いている周りを放って、私もまた後を追うように行った。


    「個性を使えよ」
    「使わなければ無理だと判断すれば使います」
    「俺相手に余裕だな」
    「さすがに、No.2相手に個性を使わない。なんて過信していませんが、使わずに済むのであればそれにこしたことはありません」
    「そこまで個性を晒したくないか。面白い」

    会話が途切れると同時に飛んでくる炎。それを避けるが、炎は執拗に追ってくる。
    エンデヴァーは自身も炎で包むことが出来る。素手で掴むことは無理だろうし、攻撃にしても一瞬で離れなければすぐに気づかれて炎を出されれば交わす手立てはない。
    最初はああ言ってはいたが、トップヒーローと呼ばれる彼らの実力は本物だ。そのあり方が気に食わないとはいえ評価するところはする。そのNo.2。個性を使わないで勝てるわけがないし、そもそも相性が悪すぎて勝負にならない。

    仕方が無いか。


    「どうしたぁ!?逃げてばかりでは話にならんぞ!」

    逃げ続けるばかりの私についにキレたのかエンデヴァー自身が飛びかかってきた。
    伸ばされる右腕をいなし空いた脇腹に拳を叩き込もうとするが、案の定炎で邪魔をされる。リーチが違いすぎるため余裕があり、どの体制でもこちらから視線を外さないのは厄介だ。

    ならばと、炎で視界が遮られた瞬間に影の中に潜り込む。
    いきなりいなくなった私にエンデヴァーは周囲を観察する。さすがというべきか動揺は一切ない。影の中にいられるのは今のところ一分が限界。その間に終わらせる。
    エンデヴァーの影に意識を集中。すると足元にあった彼の影がうねりだし、静かにエンデヴァー自身にからみつく。

    「なっ、」

    さすがに動揺したのか一瞬狼狽えるが、すぐに冷静になり炎で焼き尽くす。けれどそれは彼自身の影。実体のないものを焼くことなど不可能。いくら炎を出しても消えない。その間に影はエンデヴァーの動きを封じた。

    「くっ……」

    力任せに引きちぎろうにもそうはさせない。さらに絡みつき、炎は影で消される。ついには顔以外全てが黒に覆われた。
    完全に動きを封じたと確信すると、ゆっくりと影の中からでる。

    「私の勝ちでよろしいですか?」

    エンデヴァーは悔しそうな顔をしていた。

    「なるほどな。これでは手も足も出せん」
    「いえ。そもそも最初からあなたは私の力を見定めようと加減をしていたでしょう。本気ならとっくに私が負けています」

    影をすべて消すとエンデヴァーは不敵に笑っていた。

    「だが個性を使ったな」
    「………さすがに相性が悪すぎて個性なしでは勝負にもなりませんよ」
    「個性は影を操れるのか」
    「厳密には"影"であれば何でもできます。操ることも。中に潜むことも」
    「ふむ。なるほどな………だが体術はさすがだった」
    「ありがとうございます」

    ふと気がつくと周りは呆然としていた。それをエンデヴァーが一喝することですぐにばらけたが、轟は目を見開いて驚愕をあらわにする。どうでもいいが目以外本当に表情が動かないな。

    「………お前、そんなに強かったのか」
    「今回のことに強さはあまり関係がない。個性の性能の問題だ」
    「いや、それにしたって」
    「そもそもエンデヴァーは手を抜いていた。勝てたのは実力じゃない」

    近づいてきた轟が心底驚いたように言った。それに対して返した言葉には不服そうだったが。

    「浅間。卒業後には俺の所に来んか?」
    「お断りします」

    とち狂ったことを言い出したエンデヴァーに即答するが、当の本人は面白そうに笑うだけだった。


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