初めて出会った君達


ああ今日も疲れた。本当にあのクライアント我儘だろ。あれもこれもと要望多すぎるんだよ。もう二度とあのクライアントの依頼は受けない。
仕事でクライアントと打ち合わせをした帰り。もうクタクタになりながら冷蔵庫の中が空だということを思い出し、なんとか買い物をしてから家に帰ってきた。

早くご飯食べてお風呂入って……いや、もう面倒臭い。シャワーだけ浴びてもう寝よう。
そう考えながら鍵を開けて扉を開けた。瞬間。手が伸びてきて腕を捕まれ中に引きずり込まれた。
いきなりのことで思考が止まり、次に襲ってきたのは背中の痛みとフローリングの冷たさ。

「動くな」

電気がついていないせいで暗闇の中、見えたのは切れ味が凄そうな包丁を持った集眼の男。そいつは私の上に乗り動きを抑え、その包丁は私の首に当てていた。

「ここは何処だ。何が目的だ」
「し、らないよ!いきなり襲ってきて勝手なことを言わないで!」

何が何だか分からず、つい勢いに任せて言ってしまえば目の前の男の威圧感はさらに増した。
だけど本当に何がどうなっているの。ここは私の家で間違いないし、玄関の鍵は閉まっていたから施錠はしっかりしてあったはず。なのに開けた途端に引きずり込まれて、包丁をつきつけられている。
もう混乱して頭が真っ白になった。あるのは、ただただ目の前の男に対する腹立ち。

「っ、いい加減に……しろ!」
「っ!?」

右手でまだ持っていた仕事鞄を思い切り振り抜けば、普通に手で受け止めようとした男が予想以上の威力に慌てて飛び退いた。それもそのはず。この鞄には仕事道具である工具類が沢山入ってあるからメチャクチャ重い。

「てめぇ……」

包丁をこちらに向けながら睨みつけるその姿に体が竦む。だけど今日はもう疲れていてやっと帰ってこれたと思ったらこれだ。思考が麻痺しているのか、恐怖より苛立ちの方が大きい。

「ここは私の家で私が家主だ!あんたこそ誰でどうやって入ったの!?さっさと出ていかないと警察呼ぶぞ!」

今思えば凶器持った相手に何刺激するようなことを言っているんだって話なんだけど、この時は本当に早く休みたくて仕方がなかったのだからしょうがない。
しかし男は私の言葉に動揺したように肩を揺らす。

「お前が、俺達を連れてきたんじゃないのか…?」
「連れてくるメリットなんてないしあんたを連れてこれるように見える?大体、誘拐なんてするほどお金には困ってない」

何かを考えるような男を見て、とりあえず命の危険は去ったのか?なんて少し強ばっていた身体の力を抜く。すると余裕が出てきたのか、先ほど男が言った言葉が引っかかった。

「……待って?今俺"達"って言った?」
「ああ」
「………いるのはあんただけじゃないの?」

ちょっと悩んだ男は、家の奥な向かって何か合図をすればゾロゾロと五人の子供たちが出てきた。その様子に頭を抱えた。

「お前が、俺達をここに連れてきたんじゃないんだな……?」
「違うよ。神に__あー、神なんて信じてないや。命に誓って違う」

男達は一様に警戒した様子でこちらを睨みつけていたが、目の前の眼帯の男が手で制したら少しでけ弱まった。

「じゃあなんで俺達はここにいる」
「知らないよ……というか電気つけていい?暗くてよく見えない」

もう深夜だし、目が慣れてきたけどそれでもよく見えない。答えを聞く前にスイッチを押して電気をつければ、一斉に警戒が強まりこちらに包丁を向けたり拳を構えた。

「な、何をした!?」
「何って、電気つけただけだよ」
「い、いいいきなり明るくなった!」
「そりゃぁ電気だからね。というかあんたらの格好何?」

慌てふためいたりこちらを警戒したりしている男達の姿は、着物姿という今の時代にはあまりお目にかからないものだ。

「ただの着物だろ。俺らからしたらお前の方がおかしな格好だ」
「いやいや。ただの洋服だからね。このご時世に着物着る奴らなんて珍しいな」

その言葉に一部の奴らは固まった。

「何か訳ありみたいだけど、あんまり厄介事に関わりたくないんだ。警察には連絡しないでおくから、さっさと出ていってくれる?」

そう言ってため息をつくと、腕を掴まれた。さっきの事がフラッシュバックして一瞬身体が震えるが、それはまるで縋るような、逃がさないというような、微妙なものだっからすぐに収まった。

「何かがおかしい。話を聞いてもらいたい」
「嫌だ。どうしていきなり襲われた奴と関わらなきゃいけない」
「それは謝罪する。頼む!」
「………ああもう。話だけだからね」

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