改めて初めまして
昨夜閉めるのを忘れたカーテンから朝日が差し込む。その眩しさから少しだけ目覚めるが、昨日の疲れがまだ残っているのか起きたくはない。モゾモゾと日差しから逃れるように布団に潜り込む。
しかし喉が渇いて寝られない。仕方が無いからもう起きるかと渋々ベッドから出て台所に向かった。
水を飲んで一息。さて、今日は期限が近いものを仕上げるか。でも今は気分じゃないんだよなぁ。なんて思いながら振り向いた。
「っ!?」
すぐ背後に見知らぬ男がいて驚きで言葉にならない声が出る。
「昨夜は、助かった……それで俺達は話し合って考えたんだが」
「え、待って。誰?」
「……………あ?」
「不法侵入でしょ。警察呼ぶぞ、早く出ていってくれないかな」
「…………昨日の」
何だか真剣な顔で話し始めるからストップをかけると、眉間にシワを寄せて凶悪面になる。それでも知らない奴なので警察を呼ぶといえば、返ってきた言葉に少しだけ記憶を辿り。
「ああ。昨日の眼帯か」
「眼帯って……」
「いやごめんごめん。昨日は眠くて正直あんま覚えていなかった」
手を叩いて思い出せば、眼帯は呆れたように呟いた。
とりあえずご飯食べる前に話を聞くことになり、昨夜いた居間に向かう。そこには確かに昨夜いた子供たちがいた。小さい子はまだ寝ていそうなものだが、起きて不安そうな顔でこちらを見ていた。
「で?結局どうすることにしたの?」
「それ、なんだが……」
まどろっこしいのは嫌いなので、最初から本題に入れば言いずらそうに口ごもった。それに私はじっと見ながらお茶を飲んでいる。けれど何かを決心したのか、勢いよく頭を下げた。それに続いてほかの奴らも同様に頭を下げる。
「俺らをここに置いてくれ!」
「え、は……!?」
「何でもする!最初の事が許せねぇなら償いもする!」
「もし俺らが嫌ならそれでもいい。だが!せめてこいつらだけでも置いてやってくれ!」
「お願いします!」
「家事はできます!やれるだけの事は手伝います!」
いきなりのことで頭が追いつかない。目の前の男達は頭を下げ続け、一通りのことを言い終えればまるでこちらの返事を待つように下げたまま黙る。それにどうしたものかと悩んだが、まあいっかと考えることが面倒になった。
「あ〜。まあ邪魔にならなければ別にいいよ」
「っ!本当か!?」
「うん。でもなんでそうなったか教えてもらってもいい?」
私の答えを聞くと、下げた時と同じように勢いよく顔を上げて信じられないと言うように目を見開く。しかしハッと我に返ったのか、改めて居住まいを正すと神妙な表情になった。
「昨夜、今後の身の振り方を話し合った」
「うん」
「で、結果俺達はこのままだと生きていけないと結論づけたんだ」
「だろうね」
「だが他の奴らに"異世界から来ました"なんて言っても信じてもらえるわけないし、保護を受けられるとも思えない」
「そうだね」
「そこで、俺達の事情を唯一知ってなおかつ信じてくれたあんたに頼ることにした」
「なるほど」
「だが妙齢の女。しかも一人暮らし。そんななか男六人を養ってくれるとは思っちゃいなかった」
「ふんふん」
「それでも外に放り出されて俺達だけで生きていけるとは思えない。俺達だけなら何とかなるかもしれないが、こいつらは厳しいだろ」
そう言って示すのは重と呼ばれていた子供とその子の手を引いている赤髪の子。
「で、断られてもせめてこいつらだけでもここに置いてもらえるように頼み込むことにした」
「なるほど。飲み込んだ」
一口お茶を飲むと、私の一挙動作全て観察するような視線が痛い。
「うん。さっき言ったように六人全員いてもいいよ」
「いいのか……?」
「まあ余裕で養うだけのお金はあるし」
「っ!ありがたい!」
「「「「ありがとうございます!!」」」」
一斉に頭を下げて礼を言うところを見れば、なるほど。確かに海賊だといっても納得だ。
するとおずおずと赤髪の子に隠れながらも一番小さな子がこちらを見る。
「あの、あのね………おれ、しげ」
「?」
「あ、こいつの名前が重って言うんです」
「なんで?」
「え、」
何故名前を言われたのか分からず首を傾げると、全員が固まった。
「あ、えっと……これから一緒に暮らすことになるのなら、名前を知っておかないと不便ではないでしょうか?」
「それもそうだ」
緑色の髪を持った子が説明してくれて、納得するように頷く。
先ほどの私の言葉ですっかり怯えて、ショックを受けたような顔をしている重と目線を合わせるようにしゃがんだ。
「改めてはじめまして。私は桐生楓。よろしく重」
名前を呼べば、重は背景に花が咲くような笑みを浮かべて、照れたように赤髪の子の後ろに隠れる。
「あ、俺は舳丸っていいます」
「うん、よろしく」
「俺は義丸です!」
「うん」
「私は鬼蜘蛛丸といいます!」
「うん」
「俺は疾風だ」
「うん」
「で、俺が蜉蝣だ」
「うん」
「………本当にわかったのか?」
「分かっているよ。ただ返事をするのが面倒なだけ」
一気に名前を言われ、返事をするのが面倒で頷いているだけでいると、眼帯。蜉蝣に訝しげに見られた。
「んじゃあ、これから改めてよろしくね」