甘さに吞まれる(6)
「据え膳だな」「はぁあ……」
「?」
頭を抱えてしゃがみこんでしまったブロッケンJrを見て沙希は首を傾げた。
あまりにも無防備な彼女を、ラーメンマンは心配する。
(ブロッケンが堪えているからいいものの…)
あれだけの好意を向けられて手を出さないブロッケンJrは、責任感の強さからか忍耐強かった。
(バッファローマンだったらもう手を出していただろう)
「だめ?」
「グ、ムム…」
「揺らぐな揺らぐな。はぁ…お前からではなく、彼女からやってもらえばいいだろう」
「!」
その手があったか!と言わんばかりの表情にラーメンマンは察した。
ブロッケンはもうそこまで余裕がなかったのだと。
食事中でなくてよかった。噴飯ものだ。笑いを我慢し震えながら、ラーメンマンは邪魔が入らないように見張りを買って出るとその場から離れた。
二人きり。
しんとした静寂が、何故か焦燥を掻き立てる。
深呼吸を繰り返した後、ブロッケンJrは沙希に話し掛けた。
「その、だな」
「うん」
「アンタが良いなら…Küss mich(キスしてくれ)」
「はい喜んでっ!」
「ははっ…Danke」
まるで居酒屋の店員のような返事に思わず笑った。ムードもクソもありゃしない。
それでも、楽しそうに笑う彼女が。
酔っぱらいの戯れ言だとしても己を求めてくれたことが嬉しかった。
「失礼します!」
「…っ!」
彼女の手が、言葉の勢いとは裏腹に、静かにブロッケンJrに触れる。
アルコールを含んだ呼気が一瞬止まり、微かに濡れた感触を残しながら彼から離れた。
「ありがとうございましゅた」
「あぁ…満足したか?」
「オッス!」
「ならよかった。…体が冷えてるな。キン肉ハウスに戻るぞ」
「サー、イエッサー!」
「駆け足!」
「わぁーい!アハハハハッ!!」
彼女を持ち上げた状態で駆け出したブロッケンJr。腕の中ではしゃぐ沙希を落とさないよう抱え、公園の敷地を一週してからキン肉ハウスへと戻った。
「何やってんだ?」
キン肉ハウスの中には何故か縛られたキン肉マン。
押さえ込むバッファローマンと笑いながらそれを見ているロビンマスクがいた。
「ムゥー!ムゥーッ!!」
「どうやらキン肉マンの勝ちのようだな」
「あぁ、残念だ」拘束を解かれたキン肉マンは憤慨しながらもブロッケンJrには笑顔で話し掛けた。
「まったく!縛ることはないじゃろうが!なあ?」
「いやぁ邪魔したらいけねぇだろう?お取り込み中かもしれねぇし」
「は?」
「ブロッケンはそんなことしないわい!さっすがわしの見込んだ男!」
「賭けは私たちの負けだ」
「罰ゲームはどうするよ?」
「……なら、一人一発ベル赤はどうだ?」
「あぁ、それ…は……」
「いい…!!?」
自分の行動を勝手に下世話な賭けに利用されていたと知ったブロッケンJrは、いつの間にか沙希を布団に降ろし、笑顔でロビンマスクの肩を掴んでいた。
ミシミシと音を立て始めた鎧。
大量の冷や汗を掻き、固まる賭けの参加者達。
「テメェ等全員そこに並べーーーーっ!!」
「「「ギャァアアーーーッ!!!?」」」
鬼のような気迫に、一斉に逃げ出したアイドル超人達。
こうしてその日の飲み会はお開きになった。
「くぉお、アタマイタイ…」
「大丈夫ですか沙希さん」
「ミート君おはよう。昨日飲みすぎちゃったみたいで…途中からさっぱり記憶が無いんだ。何か変なことしてたらどうしよう?」
「ボクが寝るまでは普通だったけど…まぁ皆さんなら、きっと変なことしてても許してくれますよ!」
「だよね!アハハハハ!」
「アハハハハ!」
彼女が公園に倒れているアイドル超人達を見るまでの残り10分。
ミートと沙希はそれまで朗らかに笑い合うのだった。