劇的に彩って(22)
タクシーで目的地の別荘に到着。外装を正面から見てなまえは固まった。
白雪に溶け込む壁とちらりと見えるカーテンの青のコントラスト。
寒冷色でまとめられたこの建物に避暑を目的に夏訪れたいと思ったが、しかし今の季節では氷の要塞のように思えた。
「なまえ?」
「え」
「車に酔ったのか?」
「ううん大丈夫。行こう」
何時までも寒空の下にいるわけにはいけない。
三人は扉を開け中に入った。
「はーい。入場者は招待状の提示と名前を記入してくださーい!」
「あ、はーい」
入るとすぐ人懐っこそうな笑顔で周りの人に呼びかけている、おそらく伊達くんのお手伝いさんがいたので反射的に返事してしまう。
「ようこそ〜!よく来たね寒くなかった?」
「あ、こんばんは。お邪魔します。寒さは大丈夫でした」
返事をしたせいか話しかけられた。
「ここに来て、どう?でかいしキレイでスゴいでしょ!」
「そうですね。でも」
「でも…?」
「いや季節のせいか、こ、氷の要塞みたいだなと思って」
「へぇ‥かっこいいね、それ」
雑談をしつつ名前を記帳し招待状を提示する。
「みょうじなまえちゃん、ね」
楽しんでいってね。と言うと彼は違う人を案内しに行った。
「なまえ、大丈夫か?あいつが勝手に連れて行くから焦った」
「うん。ごめんよ先に行って」
「なまえのせいじゃないわ…」
「今度は三人で行こう」
此処はまだエントランス。土足で家の中を歩くのは気が引けるが、かすがや市は慣れているようだ。なんて考えながら大広間に入る。
「…わぁあ!中もキレイ!美味しそうな料理がたくさん!!」
「そうだな。…なまえ、あまりはしゃぐな」
「はい」
市にくすくす笑われつつ笑顔が止まらない。
「Let's Party!!」
雄叫びと黄色い叫びが大広間に響き渡る。
幹事の徳川くんと石田くんの漫才のような掛け合いの挨拶後、場所を提供してくれた伊達くんが乾杯の音頭を執ることになったが。
「なんかすごっ」
「アレが独眼竜のテンションだ」
「わお」
雑談しつつ、バイキング形式の料理を皿に盛ろうと移動していると。
「あ!いた!」
「さっきの受付さん。どうかしましたか?」
「今思い出したんだけどっ!アンタ小説家の[STST]だろ!」
「あ、はい」
「好きなんだ!よかったらサインくれないかな?買った本持ってくるから」
「はい。構いませんよ」
ちょっと待ってて、と言い残し走っていった彼と入れ替わりに真田くんが側に来た。
「なまえ殿、あああの、その」
「ちょっと落ち着こうか。‥とりあえず一緒に料理食べない?」
「か、忝ない」
少し移動して好みの料理を取ると、どこか焦りながら隣にいる真田くんと席に着き食事する。
「一体どうしたの?」
「さ、さ、先程なまえ殿が告白をお受けになられてたので…」
「え!?…いや、告白じゃない。私の書いた本が好きなんだって話」
「な゛、なんと!某勘違いしてしまったようで…では執筆のお仕事を?」
「うん。出してる本の数多く無いけど。好きなことを好きなだけ書かせてもらってるよ」
「なるほど」
そこで言葉を区切ると、何か気づいたように私の顔を見る真田くん。
「どこかの殿、他の女子のようにデザートやサラダばかりを食さないので?」
なまえの皿の中には、バイキングコーナーの一角にぽつんとあった玉子焼きと唐揚げにポテトサラダ、そして白いご飯。
「……思い出した」
「なまえ?」
箸で唐揚げをつまみ口に運ぶ。
「おいしい…」
「それは佐助が作った物でござる」
「うん‥一度だけ、食べたことがあるの」
その日は一日散々で。寝坊、宿題忘れ教室で倒れて。
「その時佐助くんが運んでくれて、頭撫でてくれたんだったな。確か」
「…」
なんとか教室戻って弁当食べたら失敗してて。
「塩と砂糖間違えててさ。唐揚げがひどく甘かったの」
「甘い唐揚げ…」
「うん。それで哀れに思った佐助くんが弁当のおかずくれて。すごくおいしかった。だから唐揚げが好きなの‥。そのエピソードから、私のペンネームは[STST]。『塩と砂糖』」
でもそれを見られてイジメが始まったんだよ。
ほぅ…と息を吐く。
「好きなのは、唐揚げと玉子焼きだけでござるか」
「……一番は佐助くん。佐助くんが好きだよ」
「だそうだ、佐助」
真田くんの後ろに立つ本人に向かい言う。
「なまえちゃん…!」
「だから嫁に来てください。毎日私のために唐揚げ作ってください!」
「もう嫁でも婿でもなんでもいいよ!好きだよ!愛してるよ!唐揚げ毎日…は無理だけど、好きなもの作る!」
「よし!」
「その前にお付き合いでござるよ」
「「あ」」
もっともなツッコミに笑いながら。
やっと願いが叶った二人でしたとさ。
猿飛佐助編 Fin.